実演鑑賞
満足度★★★★★
11年前の作品を前編広島弁に書き直したということだったが、それほど広島弁を濃く感じなかった。
大衆食堂の店内のセット。冒頭、舞台中央奥のトイレで、女性がいびきをかいて眠りこけ、高校生の少女がそれを文句を言いながら見つめるプロローグで始まる。
食堂の店主の父が倒れて入院中、店を守る娘の睦美(異儀田夏葉)のもとに、幼馴染の司(つかさ=今村裕次郎)、東京の水産加工会社の駒田(近藤フク)が訪ねてくる。さらに故郷を出た妹夫婦も。この店をどうするかという話から、姉妹の秘めた過去、会社の公害の隠蔽が、次から次と明らかになり、互いの非難合戦はどんどんボルテージを上げていく。
作者得意の会話劇がさえにさえる芝居だった。会話の自然な流れで、次々大きな問題が出てくるので、まるでジェットコースターのように景色がガラガラ変わる。その分、一つのテーマを深めるというものではない。最後に残るのは、過去に縛られてきた姉の心の解放であり、再生の歩み出しである。
異儀田さんは複雑な役をしっかりと演じて、舞台の大黒柱を見事に務めていた。司役の今村裕次郎はボケ役で、笑いを醸すトリックスターを好演。ひ弱なサラリーマンの駒田を演じた近藤フクも、いざとなった時のダメ男ぶりがよかったし、妹役の宮地綾も長年の鬱屈を一気に吐き出すようなエキセントリックぶりがよかった。
実演鑑賞
満足度★★★★★
チケット手放したが、やはり観たい!ということで急遽。
観に行って正解。人は誰しもペルソナ被って生きている。で、本音が徐々にぶつかり合いペルソナが剥がれてていく、そんな熱い会話劇を堪能。
変にハッピーエンドにならないラストがまたリアルで良いし役者さんの熱量も凄かった!
実演鑑賞
満足度★★★★
過疎化、海洋汚染、出生前診断や移植における倫理的問題、不同意性交、そして、母の不在によって家事、家業、妹の育児を一手に担い、進学を諦めた姉の姿にはヤングケアラー問題の側面も色濃く映写されていた。初期作品とあり、調べたら初演は10年以上前。その段階でこんなにも多くの喫緊の題材が扱われていたことに驚くとともに、自分の鈍さを痛感もした。そして、未だそれらほとんどに解決や正解が見当たらないことを改めて目の当たりにするようで目眩を覚える。あらゆる考えが乱立する社会で一つのことを定義する難しさよ。
そして、iakuの作品を観るといつもその前提に必ず人間の野性があることを思い知らされる。本能というよりも野性。涼しい顔をしたり、知らないふりをしたり、いろんな理性でふたをして生きている人間の中にされども絶えずある野性。ひとたび流れ出したら途轍もなく早く、止まらぬ激しい野性。
必要以上の負担と責任を負わざるをえない状況にある姉と否応なくその恩恵を受けるしかない状況にあった妹。いずれものどこにも流せぬ思いが濁流の如く押し寄せて決壊を迎えるシーンでは、その水圧に流されぬようにと流木を掴むような思いだった。もちろん掴む木などはないので掌を握る他なかった。痛くなるほど握っていた。田舎で生まれ育ち、姉と妹をもつ。そんな自分としては、知っている景色やいつか知る景色を見せられている様でもあり、耐えきれないほど解像度の高い衝突だった。
そして、本作なんといっても俳優・異儀田夏葉さん が凄まじい。どのシーンをとっても圧巻だった。(以下ネタバレBOXへ)
実演鑑賞
満足度★★★
ここ数年のiakuの作品は合わなかったが今回は楽しめた。
テンポのよい会話劇で最後まで飽きさせない展開でよかったが
多少、強引につなぎ合わせてる感じもした。
次の展開のために、どう考えても不自然な行動を起こす登場人物
に違和感を感じるところもあったが過去作のインパクトは強烈だった。
アンケートにチケット価格の項目があったが
できれば4500~5000円くらいで観劇したい。
先行で手数料入れたら6000円超えてた。
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/07/17 (水) 19:00
iaku初期の傑作の再演だが、登場人物の激しい葛藤が緊張感ある舞台を作る。(3分押し)98分。
2013年に書かれた作品で、iaku東京初進出の作品の再演だが、初演は観てない。寂れた漁港にある食堂が舞台。月日貝(ガッピギ)が名物だが、貝毒が発見され漁が止められている状況の中で、年の離れた姉妹・睦美・皐月と睦美の幼馴染み・司,皐月の夫・翔,町を支える企業のエリート社員・駒田の5人が、それぞれの立場からそれぞれの意見を闘わす。5人の誰の言うこともそれぞれに納得できるところとそうでないところがあり、正解のない問いが次々に出てきて、深刻な緊張感のある舞台になっていた。どうしようもないエンディングがスゴイ。5人とも熱演だが、上手席だったので、終盤の異儀田の表情が見えないのはちょっと残念。
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/07/15 (月) 14:00
座席1階
人気劇作家の横山拓也がiaku設立2年目の2013年、初の大型巡演に挑戦した作品という。彼は東京進出に当たって「スズナリはステータス、あこがれだった」と語っていて、そのスズナリで行われた今作は再演を重ねて広島弁でリニューアルされた、とパンフレットにあった。
結論から言うと、横山拓也の源流とも言える見事な会話劇。「見ないと損する」レベルだ。主役を演じた異儀田夏葉がちょっと今ひとつだった感じもするが、この戯曲の価値が下がるわけではない。1時間半、食い入るように舞台を見つめてしまった。恐らく他のお客さんもそうだっただろう。ラストシーンに近い当たりであちこちからはなをすする音が聞こえる。ああ、これが家族を描いた横山作品の真骨頂なのだな、と納得した舞台だ。
舞台は(広島弁なので)広島の小さな飲食店。名産の貝料理で夫婦が続けてきた店だが、冒頭、妻が洋式トイレに座ったまま大いびきをかいている場面から始まる。その横にいる中学の制服姿の長女。母親が脳出血と思われる状況であることに気付かず、部活に行ってしまう。かたわらには一回り年が離れた妹である赤ちゃん。「泣いてるよ」と母に告げて店を出るが、母は大いびきを続けるばかりで反応がない。
このシーンから約30年後の店の状況から物語はスタートする。地元の名産の貝料理を売り込むキャンペーンをする大手企業の社員が閉店状態の店にやってくる。店の主人である父親が倒れ、入院中なのだ。時に母親がわりをしながら父親と店を続けてきた長女。だが、その名産の貝は、貝毒が起きて漁にも出られる状況でない。
この戯曲は、こうした貝毒を巡る公害問題、出生前診断、今認知症診療でも使われるようになった長期記憶の映像化など、複数の社会的課題を巡って展開する。10年以上前に書かれた戯曲だが、今も続いている課題となっていることにまず、驚かされる。今作では、10年前には登場していなかったAIを盛り込んでリニューアルされているが、特に、長期記憶の映像化という話題には、「これが10年前に書かれていたの?」と本当にびっくりした。
また、この洋式トイレが一つのキーワードになっていて、タイトルにもつながっていく。複数の意味での「流れんな」。終わってみて、そうだったのかと舞台を反すうしてしまった。
横山マジックと言っていい流麗な会話劇。今回登場する5人の役柄にそれぞれ秘めた物語があり、きっちりプロットを散りばめた群像劇でもあって、物語が進行するにつれて新たな驚きが次々に出てくる。もう、これはもう舞台から目を離せない。そんな展開だ。
取り上げられているそれぞれのテーマは重く、笑えるせりふも多くはない。しかし、iakuの源流であり真骨頂であるところを十分に楽しむことができる。
広島弁もいいが、当初演じられた関西弁バージョンも見てみたい。また、どこかでやってくれないかな。
今回のスズナリ。見ないと損するかも。
実演鑑賞
満足度★★★★
劇壇創設の二年目・十年前に初演した作品を、舞台を広島に変え、小劇場で実績のある俳優たちを迎えた横山拓也・作品の再演である。横山は、昨年、「モモンバのくくり罠」で鶴屋南北賞も受け、今や若手劇作家の一方のリーダーとみなされるるようになった。これからはさまざまな要望にあわせての戯曲提供も、商業演劇や大劇場の要請に応じた売れる作品も書かなくてはならない位置にいる。この際🅼ステップを上げた座組で過去作品を自分の劇団の主宰で再演してみるのはいかにも横山らしい。観客にとっても興味深い。
横山の初期の作品では,現代社会の中で、気が付かれてはいるのだけれど、なかなか表立っては一方的に解決できない問題を、それにまつわる人間たちの実生活の姿から描いた作品が多い。いわく、母子家庭の青春問題、障碍者の性処理問題、少年時の事故の後遺症、自然保護、障碍者保護の矛盾。予想できない職場の事故などなど。すべては解決できないけど、それでも人はそこでそれぞれ生きていく。教条的でも教訓的でもないドラマは、非常に新鮮だった。
現代に生きる人々の出発点はまずそこにある生活を見ることだ、という主張は、当時、衰退、硬直して自己中心的な世界に閉じこもっていた小劇団群を一掃する力があった。
関西から出た劇団だが、東京の小劇場界でもたちまち、脚光を浴びた。
「流れんな」もその時期の作品だが、当時は見ていない。ここでも、「貝毒」の処理の問題が、地方の地域活性化の問題と絡んで扱われている。今なら作者もこうは作らないであろうという点も見えるが、初々しさがあって、面白く見た。今回は俳優がずいぶんグレードアップされていて、この俳優たちの芝居でドラマとして弱いところはずいぶんカバーされている。異儀田、近藤の達者なベテランにくわえて、iakuに踵を接して出てきた小松台東の今村、あはひの松尾も健闘、最近見るようになった宮地綾もなかなか良かった。この点でも再演の意味はあった。
横山は次はPARCOのファンタジーの一月公演を書くという。なれない座組だが、挑戦の成功を祈っている。うまくいっても行かなくても、これを糧にしてすねたり、小理屈に走ったりしない(これが大事)作家精神の太さを買って期待している。
実演鑑賞
満足度★★★
ここ最近ずっと陰陰滅滅たる日々で、天野天街氏も逝去とは···。ここらで流れを変えようと横山拓也氏の公演に足を運んでみたところ···。
舞台は全篇広島弁、小さな漁港にある定食屋。お品書きを見ていると滅茶苦茶安い。架空の帆立に似た貝、ガッピギ料理のメニューが並べられていて何を注文するか計算しながら観ていた。この値段なら一通り頼んでみたい。
プロローグ、中一の娘がトイレで鼾をかく母親に声をかけている。何度呼んでも母親は目覚めない。醜い鼾をフゴーフゴー鳴らすだけ。まだ赤ん坊の妹が泣き出した。何度も繰り返し見てきたそんな遠い記憶の光景。
父と共に定食屋を切り盛りしてきた異儀田夏葉さんももう40目前。未婚のまま、ここまで来てしまった。貝毒(人体に中毒症状を起こす毒素を蓄積した貝)の発生で採貝業は出荷停止中。幼馴染みの漁師・今村裕次郎氏は彼女の面倒を見るのは自分しかいないと思っている。町の経済を支えるのは水産加工業の大手企業。役場と連携して町興しの為、特産品のガッピギを使った料理のメニューを集めている近藤フク氏。異儀田夏葉さんの、町を出た妹(宮地綾さん)が婚約者(松尾敢太郎氏)と共に顔を見せる。それは隠し続けてきた全ての本音が白日の下に曝される日だった。
異儀田夏葉さんが痩せたのか女の色香を漂わせて美しい。一人の女の抱えた半生の傷がまるで晒し者にされるように痛み出す。
是非観に行って頂きたい。