「5seconds」「Nf3Nf6」 公演情報 「5seconds」「Nf3Nf6」」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.7
1-3件 / 3件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2024/02/29 (木) 19:00

    座席1階

    日航機の逆噴射墜落事件をテーマにした短編。片桐機長と刑事弁護をする若い女性弁護士による2人芝居で、弁護士が裁判に備えて機長から聞き取りを行う場面を中心に構成されている。

    パラドックス定数らしいテーマだ。機長は精神鑑定などのため警察病院の分院に入院させられているが、まずは機長にはめられた手錠を弁護士が人権侵害だと怒る場面から始まる。だが、機長はそんなことに関心はない。日航が超一流企業であること、自分はそこで機長を務めて世界を飛び回ってきたことなどをとうとうと語る。話はかみ合わないが、自分は選ばれた存在であるという強烈な自尊心があふれる。だから、心神耗弱で減刑を狙う弁護士に食ってかかる。「私は機長であり、乗客や乗組員の安全に全責任を持っている」。一方で、着陸寸前に逆噴射レバーを引いたことを堂々と認める。結果の重大性を感じている様子はなく、むしろ自分の操縦を副操縦士がじゃまをしたという自身のプライドばかりを強調する。

    統合失調症によるものなのかどうかは、この芝居だけでは分からない。だが、野木萌葱が描こうとしたのは機長の深層心理だろう。どこまで深く迫れるかどうかがカギとなるが、見終わった時に思ったのは、機長が持つ独特の自尊心ワールドだった、という結論である。
    エンタテイメントとしてはとてもおもしろい。だが、野木さんならどう描くのか、という事前の期待が大きすぎて今ひとつ肩透かし感もある。
    ディレクターズチョイスの2本立てであり、もう1本を見ないと、と思うのだが残念なことに今日が千秋楽だ。もう一本にもおそらく、過度の期待を持って劇場に足を運んだであろう。見られなくてとても残念だ。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    演出者として長いキャリアのある和田憲明が、野木萌黄の戯曲から再演したい作品を2作、上演したなかで、見ていなかった「5Seconds」を見た。
    80年代初めに起きた日航機の機長の判断の誤りから着陸直前の海に墜落、20余名の死者を出した事件審判で行われた貴重と弁護士の面接のドラマである。もとなった事件は現役真っ最中だったからよく覚えている。ちょうどモンテカルロにいて海外と人たちと仕事をしていた。アメリカの人が、新聞を見て、これは間違いなくパイロット・エラーだな。といったのは覚えている。アメリカは飛行機社会なのだ。
    その後の事件経過はよく知られていて、結局機長の心身障害が理由になったと思う。
    そうなるとそれは個人の問題ではなくなる。この種の事件が、個人に加えて会社の責任も重く、問われることになる事件の一つでもあった。(いまは原発事故のように会社の判断をした個人もその責を問われることになる)。航空機操縦のコックピットの最終責任者はまず、機長、次いで副操縦士と技術責任者が二人、墜落の5秒間にその三人に何があったか。まだ現代社会の責任構造が単純であった時代の事件だが、現代にも通じる興味深い事件である。
    野木の戯曲は、審問を前に機長の弁護を請け負った弁護士事務所の若い女性弁護士(難波愛・文学座)が、当日操縦した機長(中西良太)の主張の聞き取りを行う4場である。
    機長は墜落後救助されて病院に収容されていて、回復すれば裁きの前に出なければならない。その前の4回の病院での面会がドラマになっている。若い女性弁護士は、機長にその操縦の理由を理性的に聞き出そうとする。機長は、事実、精神的に安定した状態ではなく対応は揺れる。弁護士としては心神耗弱に持っていけば成功(法で無罪と規定されている)なのだが、面会の中で、機長が年齢もあって、しだいに機長の場からは外されそうになっていることも解ってくる。そうなれば、彼のフライドや生きがいは奪われてしまう。
    山場は、機長が、ごく普通の習慣的な着陸手法であった5秒間の「着陸」時の機長をやってみせるところだろう。
    この戯曲は、現代社会のどこにでもある個人の責任問題を、ここにいる個人の問題と、そこにある集団との意識の違いから描いた面白い狙いの作品である。裁判では人間はなかなか裁けない。
    テーマが面白いのも、1時間40分ほどにまとめられた二人芝居もよくできてはいるが、野木の戯曲によくあることだが、テーマが社会的には拡がりきれず、どうしても、そこにいる俳優たちが演じる二人の人間の問題になってしまう。野木は異色の小劇場劇作家で数年前まで、パラドックス定数でさまざまの社会の場に生きる人間の個人の姿を面白いドラマにして見せてくれていた。よく見ていた。なかでも「三億円事件」は大きな演劇賞にもなった優れた異色の作品で、三演公演の演出が和田憲明だった。
    だが、その後、新国立劇場で新作を委嘱上演した頃から、野木には目立った変調があった。その理由が、新国立劇場以前に書かれていたこの作品で解った。野木も新国立で、機長のようにプライドを奪われたにちがいない。実につまらなかった新国立劇場の作品を強制されて(決して劇場側は強制したとは言わないだろう、JALのように)野木は立ち上がれないような大きな心の傷を負ったわのだ。創作者なら誰でも持っている精神の柔らかな部分を無神経に刺されたに違いない。再演の舞台から作者の芝居の魂の真実を見せられたような上演だった。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「5seconds」を鑑賞
    パラドックス定数で観た時と比べて数段落ちるように感じた。弁護士がバカっぽく、まるで法律事務所に来たインターンの学生のような描かれ方で(あのペンの持ち方はまさしく学生だろう)、そのため弁護士vs機長の対峙が安っぽいというか闇の深さに欠けるものになった気がして興ざめ感が否めない。しかし、こう思うのはオリジナルのパラドックス定数と比べてしまうからであって、この上演を最初に観ればそれなりに良いと思っただろう。機長役の演技が秀逸。

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