509号室−迷宮の設計者 公演情報 509号室−迷宮の設計者」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.7
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    まずまずであった・・とは期待の高さゆえの感想。
    名取事務所の韓国現代戯曲シリーズでこの作者、金旼貞(キム・ミンジョン)作品は三度目の登場らしい。作者の傾向は判らないが、他公演の概要を見ると一つは日帝支配下の朝鮮を舞台、一つは現代(戦後のどの時期か不明)を舞台としたいずれも濃厚な人間ドラマといった風だが、今作は対象との距離を取ったドキュメントなタッチで韓国の民主化闘争時代の弾圧の側面にフォーカスした舞台。
    韓国の著名な建築家・金氏の設計とされている元政治犯収容施設を案内人と共に写真家が訪れる現代と、当局から設計を依頼された当時の経緯、そして現代の案内人の元恋人かと想像させるある収監者のこと、この三つの逸話が錯綜して劇が展開する。
    後で振り返ってもたげた要望は、できればその高名な建築家の人生に迫るドラマとするか、拷問を含めた権力の術策を赤裸々に抉り出す告発劇とするか、、どちらかに寄せたものを観たかった。

    理由を考えてみると、民主化を弾圧した権力は憎むべき相手である。これに異論は無い。ありようがない。
    だが、水責めが行われた独房を、「その用途を知った上で建築家は設計したのかどうか」を問い始めると、「そのように意図したか否かに関わらず負う責任」が埒外に置かれ、問題が矮小化して行く感覚に陥る。
    仮に建築家がそんな事を意図しなかったのだとしたら、(政治的スタンスを巡る市民の責任に関して)「あまりに鈍感」である事にある種の咎は生じそうである。

    実際にはその高名な建築家は中々当局のリクエストに対して(多忙ゆえか、多忙との弁解が可能だからか)回答を延ばし、会社で対応に当たった部下の一人の青年が、登場人物としてフォーカスされている。実際には彼が設計を行ったらしい推測が成り立つ格好で、芝居の中で「告発」まがいの視線を受けるのは彼である。
    写真家(フォトジャーナリスト)が最後に問い詰めるのは彼である。彼女はまた、案内人に「収監者」との関係も問うが、固有名詞を担うのは建築家のみ。数知れない被投獄者を代表する舞台上の彼が、その案内人にとって誰だったかはさほど重要でない。また同様に数知れなく居ただろう権力への協力者に関してもそれが誰にとっての何者であったかは重要でない。
    重要となるのは、案内者である彼女が客観的事実を述べる範疇を逸脱し、「私的」言動を取り始めてからの話で、しかしこのドラマではその瞬間は訪れない。弾圧の事実の告発は私的であり得る事を超えて大きく公的な問題群となる。
    三者がそれぞれに抱えた人生の断面が見えて初めてドラマは動き始めるのだとすれば、この舞台はそれぞれの人生の行方を微かに予感させるにとどまった。作者は実は人を登場させながら無機質なその建造物を、というより建造物の無機質さ(非人間性)を感覚的に観客に届ける着想があったのでは、等と想像する。その部分に呼応するような効果音(音楽)が印象的ではあった。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    この韓国の有名建築家のことを私はまったく知らないので、一般的な独裁権力による弾圧の話になってしまう。そこが残念ではある。そして独裁者の弾圧というと北朝鮮がすぐに頭に浮かぶ。そちらも舞台になるようなら演劇界もバランスが取れていると感心するだろう。

    役者さんの演技は皆さん的確だった。そこは星4つ。しかし設計に関しての話は不確かなものに不確かなものを重ねただけの妄想に思えた。

  • 実演鑑賞

    独裁政権に不承不承でも協力して利益を得た者にスポットを当てていて興味深いが、ドキュメンタリー的なメッセージ性が強すぎて演劇とか芝居という感じが薄くなってしまったきらいはある。またそのメッセージも、現在の視点から過去を裁くというところに人によって賛否はあるかもしれない。ところで、この作品で描かれたような拷問は、この国の隣や少なくない国々で今も起こり続けていることに戦慄を覚える。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    凄まじい作品。マジで死にたくなった。今、何を置いてもこの名取事務所のセレクトする作品は可能な限り観ておく必要がある。間違いなく本物。脚本のレヴェルが段違い。
    昔、黒沢清が言っていたことを思い出す。「自主映画だろうが何だろうが表現という土俵に立った以上は対等。予算がどうのとか所詮は言い訳。やるんならハリウッドの超大作と競い合うつもりで創って欲しい。」
    伝えたいことがあるのなら、あとは才能で勝負。どんな媒体であっても凄い作品は必ず伝わる。本物であるならば必ず。
    何故なら今作にこうして打ちのめされているからだ。

    韓国映画の超傑作、『1987、ある闘いの真実』と重なる作品。韓国ドキュメンタリー映画、『スパイネーション 自白』での「在日留学生捏造スパイ事件」の恐怖。徹底した暴力と拷問で無実の人間に自白を強要させていく手法。人間は弱い。簡単に蹂躙される。すぐに痛みと不安と恐怖とに支配される。惨めで醜い自分を受け入れざるを得ない葛藤。あっという間に苦痛に跪く尊厳。何故なら人間は動物だからだ。動物はとても弱い。すぐに死んでしまう。

    ①1975年、韓国現代建築の巨匠である金壽根(キム・スグン)に、ある建物の設計を依頼しに来た政府の高官(山口眞司氏)。彼が多忙な為、アシスタント(西山聖了〈きよあき〉氏)が応対するのだが。
    ②1986年、学生運動を齧っていた大学生(松本征樹〈まさき〉氏)は恋人との待ち合わせの場所で拉致される。目隠しされて連れて行かれたのは「対共分室」と呼ばれる黒レンガ造りの迷宮のような建物だった。
    ③2020年、ドキュメンタリー番組の監督(森尾舞さん)はかつて「対共分室」だった「民主人権記念館」を取材する。案内してくれる解説員(鬼頭典子さん)。

    ソウル最大の繁華街、南営洞(ナミョンドン)に建てられた黒レンガ造り5階建てのビル。(後に7階建てに改築)。表向きは「国際海洋研究所」と偽装された。実際は体制側が不穏分子と見做した人間を拉致監禁、拷問虐殺する屠殺場だった。「人間の恐怖を最大化する構造に設計」された天才建築家による緻密な計算。採光抑制、脱出防止を意図した細長い異形の窓が不快感を煽る。簡素なプロジェクションマッピングが効果的で素晴らしい。これだけで全てが伝わる。

    3つの異なった時代が同時進行していく。設計する者、拷問される者、それを調査する者。
    MVPは山口眞司氏だろう。この人は一体何なんだ?

    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    「一番残酷なものは美しい音楽だった。」

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