木ノ下歌舞伎主宰/監修・補綴担当

 CoRich舞台芸術まつり!2013春・グランプリ受賞作の木ノ下歌舞伎『黒塚』(監修・補綴:木ノ下裕一 演出・美術:杉原邦生)は、ただいま全国5都市をめぐる再演ツアー中!

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 団体主宰の木ノ下裕一さんが『黒塚』にたどりついた過程について語ってくださいました。

 『黒塚』は3月11日(水)~22日(日)の東京公演(12日間・15ステージ)の後、3月26日(木)~27日(金)の新潟公演(2日間・2ステージ)で大千秋楽を迎えます。歌謡曲、ラップ、コンテンポラリー・ダンスに彩られた、ポップで軽快な歌舞伎作品をどうぞお見逃しなく!

インタビュアー

 『黒塚』はCoRich舞台芸術まつり!でグランプリを受賞し、再演されることが決まりました。木ノ下歌舞伎ではこれまでにも自作の再演をされていますね。

 
 

 はい、でもそんなに多くはないんです。『三番叟(さんばそう)』(演出・杉原邦生)『娘道成寺』(演出・きたまり)という舞踊の作品だけ再演をくり返してきました。

木ノ下さん
インタビュアー

 それは「新作じゃなきゃダメ」という風な(観客からの)ムードのせいでしょうか?

 
 

 いや、そうじゃなくて、これは団体の問題で(笑)。たとえば『三番叟』は上演時間の短いダンス作品ですが、『東海道四谷怪談』は6時間もあるので規模的に再演は大変(笑)。でも最近、再演を考えずにデカい作品を作るってことと同じくらい、再演も見越して作品を作ることも大切なんじゃないかな、と思うようになって。初演時はどうしても「作品をゼロから立ち上げる」ところに労力を割くし、そのがむしゃら感も好きなんですけど、再演では、初演で立ち上げたものを一歩引いて検証できるような気がして。

木ノ下さん
公演風景
『黒塚』京都公演 ©清水俊洋
 

 初演から再演のあいだで、作り手の私たちの問題意識や心境がどう変化したか、しいては社会全体がどう変化したかを見つめ直して、 そこから逆算する形で、より現代にフィットした作品に練り上げていくことができますよね。だから、再演といっても初演の完全再現という意味ではなくて、クリエイティブに変化していくのが自然なのだと思います。『黒塚』は初演時から、再演することを見越して規模や舞台美術を考えていましたし、絶対再演したいと思っていました。

木ノ下さん
インタビュアー

 再演を重ねるという経験から得たものはありましたか?

 
 

 『三番叟』初演(2008年)の時は古典の構造や内容をどう現代的に翻訳していくか、ちゃんと古典の世界観を踏まえた上で、僕らの視点でどうアップデートしていくかということが主だったんですけど、だんだんと「古典ってもっとかっこいい、古典って本当に、めちゃくちゃ面白いんですよ!」ということを伝えたい、そういう思いが強くなってきたんです。その意味でも、アカデミックなムードばかりに流れずに、とにかく色んな観客を巻き込みたい。観たらテンションが上がる、ハッピーな気分になるというのがそもそも『三番叟』という祝祭舞踊の根本ですから。対象にするお客さんの幅も再演を重ねるごとに格段と広がっていきました。それは演出の杉原さんの思考の変化でもありますね。アーティストとともに団体も思考して、進化していく感じがします。

木ノ下さん
インタビュアー

 再演を見越して作られた『黒塚』の魅力を教えてください。

 
 

 僕にとっても、そして団体としても、『黒塚』は2つの側面で大好きな作品なんです。1つは今まで何作品も一緒に作ってきた演出の杉原さんと、初めて舞踊劇に挑戦したこと。 歌舞伎ならではのセリフ、身体、音楽などの色んな要素と向き合い、今までやってきたことを集大成する試みでした。舞踊の振りをいかようにコンテンポラリーダンスに翻訳するか、長唄をどう表現し、セリフをどうやって現代に置き換えていくか。演劇実験的にも色んな手法を試しています。
 そして2つ目が、誰が観ても楽しめること。古典芸能にすごく詳しい方にも、歌舞伎を全く観たことがない方にも楽しんでもらうために、両方のフックを作ろうとかなり意識した作品です。そういう意味でも多くの方に観ていただきたいと思っております。

木ノ下さん
公演風景
『黒塚』京都公演 ©清水俊洋
インタビュアー

 ツアー会場となる劇場のチラシに「CoRich舞台芸術まつり!2013春・グランプリ受賞作です。お見逃しなく!」と書かれているのを見つけました。

 
 

 これ抜きしては興行できませんから。今回のツアーの旗印でございます。

木ノ下さん
 

 色んな地域で公演をしたいとずっと思っていました。グランプリを受賞したことで『黒塚』を再演することが決まったので、各地の劇場への営業もエイヤ!とがんばりました(笑)。

団体制作
公演風景
『黒塚』京都公演 ©清水俊洋
インタビュアー

 グランプリ受賞作がスポンサード公演として再演されるのはCoRich舞台芸術!が始まって以来初めてのことです。しかも5か所のツアーが実現したのは同フェスティバルの成果として理想的だと思います。

 
 

 こりっちさんは支援することに特化してらっしゃいますよね。受賞して以来、しみじみ感じていたんです。CoRich舞台芸術まつり!では10団体全部の詳細な講評が載って、採点がグラフになってたり、観客の「観てきた!」コメントがあったり。色んな方向から意見をいただく機会も、それがまとまって見られる機会も、案外ほかにはあまりないと思うんですね。しかもアーカイブとして残る。受賞作の再演をスポンサードするのも含め、団体、作品を支援して育てようとされているのがいいなと思ってます。

木ノ下さん
インタビュー風景
インタビュアー

 ありがとうございます。2013年度のCoRich審査員もこりっち株式会社社員も、こまばアゴラ劇場に『黒塚』を観に行きます。3か所での公演を終えて、磨き上げられた再演を楽しみにしています。

 
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特別インタビュー

グランプリを受賞した2団体の特別インタビューです。
こちらでも木ノ下裕一さんが『黒塚』再演について語っています。

インタビュー実施日:2014年6月15日 取材・文:高野しのぶ インタビュー写真:藍田麻央 舞台写真:清水俊洋

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