糸井幸之介(FUKAIPRODUCE羽衣)&木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎)

 FUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』はCoRich舞台芸術まつり!2012春・グランプリ受賞作。劇団の10周年記念公演としてスケールアップし、ただいま東京の吉祥寺シアターで再演中です。2013年にグランプリを受賞した木ノ下歌舞伎『黒塚』も、2015年1月末~3月に全国5か所の再演ツアーが決定しました。
 グランプリ受賞者である『耳のトンネル』の作・演出・音楽・美術を手掛ける糸井幸之介さんと、木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一さんに、“再演”について語っていただきました。

インタビュアー

 お2人のご縁はいつから始まったんですか?

 
 

 京都の小学校で上演した『観光裸(かんこーら)』を、木ノ下さんが観に来てくださって。そこで初めてお会いしました。

糸井さん
 

 2年前ですね。糸井さんの作品を初めて観て、すごく良かったんです!本当に素晴らしくて、僕があの年に観た芝居の中で、古典芸能も現代劇も全部含めて、ダントツの一番なんです。でも千秋楽だったから、もう一回観たいと思ったのに観られなくて…悔しいですよね。それで完全にテンション上がっちゃって、打ち上げにお邪魔したんですよ、全然関係ないのに(笑)。その作品が今、上演中の『耳のトンネル』に入ってるんですよね。

木ノ下さん
インタビュー風景
インタビュアー

 糸井さんは木ノ下歌舞伎の作品をご覧になったことはありますか?

 
 

 グランプリ受賞作の『黒塚』を拝見しました。フェスティバル/トーキョー13で上演された『東海道四谷怪談―通し上演―』にはFUKAIPRODUCE羽衣の俳優が出演させてもらってます。

糸井さん
 

 そういうご縁もありますよね。日髙啓介さんと高橋義和さんに出ていただいて。個人だけじゃなく劇団としてもお世話になっています。

木ノ下さん
 

 プライベートではこれから仲良くなるところです(笑)。

糸井さん
インタビュアー

 お2人はCoRich舞台芸術まつり!でグランプリを受賞されました。その時のお気持ちは?

 
 

 大変嬉しかったですね。木ノ下歌舞伎が賞を頂いたのが初めてのことだったんです。評価をいただいたことと、再演する機会を与えていただけることの両方で嬉しかった。受賞作の『黒塚』は10ステージ上演したんですが、会場が小さかったのでご覧になれなかった方が大勢いらっしゃったんです。再演ができたら多くの方に観ていただけるし、一年半ぐらい期間を置くので、作品自体をもう一回見つめ直して、考え直せます。

木ノ下さん
 

 僕はエントリーしたものの、いただけるという発想がなかったので、驚いたし、嬉しかったです。製作費としてお金をもらえるのも嬉しかった(笑)。劇団の区切りというか、今までの労をねぎらうような機会にもなって、集団が活性化したように思います。劇団の皆に喜んでもらえるのも嬉しいし、周りの人に祝福してもらえるのも嬉しいし、夢のようなひと時でした(笑)。

糸井さん
インタビュー風景
 

 (糸井さんの発言に頷きつつ)劇団員ではないんですけども、『黒塚』主演の武谷公雄さんが俳優賞をいただいたのも、すごく嬉しかったです。木ノ下歌舞伎は演出家も俳優も外部から招いてくるスタイルなので、ともすると団体が個人を搾取することになりかねない。だから個人が目に見えてちゃんと評価されるのは、とても大きいことだと思います。

木ノ下さん
インタビュアー

 糸井さんが『耳のトンネル』を再演すると決めた理由を教えてください。

 
 

 グランプリをいただきましたし、『観光裸』とくっつけて長時間の大作にしたいという欲もありました。新作を年に1~2本発表するのが小劇場の基本的なペースだとしたら、それをずーっと続けていくのは結構大変です。自分の作ったものを自分自身も忘れていっちゃうぐらいの勢いで、次から次へと作るのはもったいない。お芝居はその場限りという面もありますし、そんなに無尽蔵に作れるものでもないですし。再演することで作品を見つめ直して、違った形になったり、さらに良くできたりするのは非常にありがたいことです。

糸井さん
インタビュアー

 木ノ下歌舞伎では『三番叟』という作品を何度も再演されています。再演で気づいたことや、得たことはありますか?

 
 

 やっぱりいいですよね、再演って。初演時はそれが自分たちの最高のものだと思ってるんですけど、時間が経つと、その時の自分たちには見えていなかったものが見えてきたりする。だから初演から再演、再演から再々演までの数年間に、自分自身が、そして時代が変わったことがわかります。自分たちがやったきたことと、今やってみたいことをもう一度認識するために、再演は大きな力になってくれると感じます。

木ノ下さん
インタビュー風景
インタビュアー

 糸井さんは今回再演をやってみて、手ごたえはいかがですか?

 
 

 初演に比べたらものすごく余裕がありました。それでも稽古中にすごく焦ったりするんですが、「考えてみたら初演の時は、まだ台本もなかった時期だね」って思い出して(笑)、一息ついて、落ち着ける。(一同笑う)

糸井さん
 

 初演の時は「何もないところから、ここまで形にできた!」というある種の達成感と陶酔感があります。これは初演ならではのもので、逆に再演だと客観的に考える余裕がありますよね。より多角的に作品を見つめ直せる。たとえば、社会学者が観に来たら、音楽の専門家が観に来たら、どう思うだろう…とか。初演時もいろんな観客層を意識して作っているつもりですが、再演だとその視野がうんと広くなる感じがします。

木ノ下さん
 

 色んなお客さんに喜んでもらうにはと考えて、工夫する余裕は生まれますね。たとえば退屈させたり、不快感を与えたりしないように改善したり、より気を使って、カバーできるものはできる限りカバーしたり。凝れる面もあります。あんまり普段はしないんですが、今回は台本をカットしていく作業がありました。初演時の陶酔して入り込んでいく感覚とは逆の形で仕上げていくことを体験しました。

糸井さん
 

 両方楽しいですよね。

木ノ下さん
インタビュアー

 初演からスケールアップして上演中の『耳のトンネル』はズバリ、どんな作品でしょうか?

 
インタビュー風景
 

 どなたも生きてると大変なことも多いし、つらいこともあると思います。『耳のトンネル』を観れば「生きてることって、楽しいな」と思っていただけるんじゃないかと。歌と踊りもある楽しいお芝居ですので、ぜひ観に来てください!

糸井さん
 

 僕は一観客として、糸井さんの作品が大好きです。日々、何かあった時に歌を思い出すんですよね。生きる支えになってます。

木ノ下さん
インタビュアー

 私も『サロメvsヨカナーン』の歌を口ずさんだりします(笑)。

 
 

 あ!「ゾロ目の歌」でしょ?あれはいいですよー!だって、あの歌は、糸井さんによる“人生の叙事詩”ですもん!

木ノ下さん
インタビュー風景
インタビュアー

 「ひとりぼっちよりも、ましだから…♪」

 
 

 そう!「ひとりぼっちよりも、ましだから、愛してる」んですよー!最高のラブソングですよ。

木ノ下さん
 

 (笑)

糸井さん
 

 『観光裸』もいい曲ばっかりですもんね。「目が、霞んで~♪」(「秘密の死の旅行」)も名曲!

木ノ下さん

インタビュー実施日:2014年6月15日 取材・文:高野しのぶ 写真撮影:藍田麻央

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