海の凹凸 公演情報 劇団俳優座「海の凹凸」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2017/09/20 (水) 19:00

    俳優座劇場プロデュースの公演はよく観ているものの、劇団俳優座の公演を観るのは久しぶりのことだ。私が俳優座の公演を初めて観たのはプルーストリー作の「夜の来訪者」だった。高校生の時、青年座の地方公演で「夜の来訪者」を観て(森塚敏が演出を任された最初の作品だったという)、「演劇ってこんなに面白いものなのか」と目を開かされたのだったが、その作品は日本では東野英治郎主演のものが極め付きだと知り、東京に出てきて後に、たまたま東野英治郎主演で公演があったのを幸い、観たのだった(が、私には青年座版のほうがはるかに優れていた…)。 

    さて、この「海の凹凸」は水俣病を大きな柱にした公開自主講座「公害原論」を主宰していた宇井純とその周囲の人々をモデルに、風琴工房の詩森ろばが書き下ろしたものだ。
    冒頭でも宇井(劇中では東亜大学講師・宇田純一)役の塩山誠司によって説明されるが、水俣病は環境汚染の食物連鎖で起きた人類史上最初の病気であり、日本の高度経済成長期に発生した四大公害病の一つでもある。私自身が長崎県の出身であり、小さい頃から水俣病のことはよく耳にしていたし、高校の3年先輩が水俣病関西訴訟で弁護団に入っていたこともあって、身近に感じられるものだ。また水俣病の写真で最も有名なものはユージン・スミス(アフリカでの医療活動によりノーベル平和賞を受賞したシュヴァイツァー博士の写真などで世界的に有名な写真家)によるシリーズであろうが、私は大学生の時に彼に会ってさらにはその肩を揉んだことがあるし、夫人のアイリーン・美緒子・スミスとも言葉を交わしている。 

    宇井純は当初は富田八郎(とんだやろう)のペンネームで連載した記事により水俣病の問題を社会に知らしめる発端を作ったが、その後、実名での水俣病告発を開始したため大学(東大)での出世の道は閉ざされ、21年の永きにわたって万年助手に据え置かれた。それ以外にもこの作品では、「苦界浄土」を著した西牟礼道子をはじめとした実在の人物らしき登場人物も散見される(名前が変わっているのではっきりしないが…)。 

    定刻に開演。上演時間2時間20分。 

    (以下、ネタバレBOXにて…)

    ネタバレBOX

    大型の書籍や箱が詰まった天井までの書棚に囲まれた部屋。大学の部屋が使えなくなった宇田が、市民講座のメンバーたちの拠点として、また講座の記録を印刷して残すために、印刷屋の一角に借り受けた部屋だ。ここに集まる人間たちの会話によって物語が展開していく。 

    が、語られる内容が固いばかりでなく、あまりに一方的すぎて、私は途中で疲れてしまった。無論、チッソが水俣病に対してとった対応は悪いし、それは糾弾されてしかるべきものだ。そうであっても、私はこうした(作者の)主張を声高に押し付ける作品が好きではない。問題点を整理して、意見の対立がある場合には両方の側面から穏やかに提起し、それをどう捉えるかは観客に委ねる…というものが好ましい。同じ社会派と呼ばれる劇団の作家の中でも、私がTRASHMASTERSの中津留章仁よりもチョコレートケーキの古川健やJACROWの中村暢明を好むのはそうした理由からだ。 

    水俣病問題を扱った演劇作品といえば、昨年10月に上演されたトム・プロジェクト「静かな海へ -MINAMATA-」(ふたくちつよし作・演出)がある。これは水俣病を発見した新日本窒素肥料(現:チッソ)水俣工場附属病院長の細川一(劇中では星川一)をモデルにしたものだったが、細川が水俣病の原因が工場廃液と確信するも会社の説得によってこれを公表できずにいたのは、会社のためではなく、市のほとんどの人が日本窒素肥料もしくはその関連の企業で働いて生活しており、日本窒素肥料がその原因だと明らかになった場合の、その人達に与える影響の大きさを慮ってのことだったとして、その苦悩の日々が描かれていた。
    が、今回の「海の凹凸」では、工場廃液が原因というのをチッソが隠蔽しようとしたのは会社の利益のみのためとして、激しく糾弾するのみで、そうした陰に隠れた苦悩など全く無視されている。だから公害を起こした企業の悪い面を論(あげつら)うだけで、公害に立ち向かう人々が正義を行なっているという意識に自己陶酔しているだけにさえ見えてしまい、底が浅いものとなってしまった感が否めない。 

    塩山や岩崎加根子・荘司肇をはじめとして、老舗劇団らしい重厚な演技をみせる役者陣の中で、保亜美のピチピチとした若鮎のような表現が際立っていた。
    だけど、岩崎加根子といえば私が最も印象深いのは映画「忍ぶ川」(72年)の哲郎(加藤剛)の姉・香代役なのだが、う~ん、この舞台では彼女だとは全くわからなかった…。

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    2017/09/22 06:12

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  • 私は、東野英治郎の「夜の来訪者」をS26に見て、演劇からはなれられなくなりました。
    大兄がご覧になったのはずっと後で東野も老年になってからでしょう。演劇の再演と言うのは難しいものです。私もチョコレートケーキの古川は買っていて、先日も久しぶりに東上線に乗って板橋の稽古場で昴の舞台を見ました。青年座と昴に同じ素材で書いてしまう度胸に感服しました(芝居の中身はこう一つ、大兄はあまりいいとお思いにならないでしょう)。でも60エレジーなんか若いのに東京の下町方言まで取り込んでいて、頼もしい奴らです。

    2017/09/22 15:56

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