わが闘争 公演情報 演劇ユニット ハツビロコウ「わが闘争」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2016/03/05 (土)

    「わが闘争」と聞くと真っ先にヒトラーの著作を思い浮かべてしまうが、これは鐘下辰男が横溝正史「八つ墓村」のモデルになった日本の犯罪史上まれにみる大量殺人事件“津山事件”をモチーフに、現在の日本における地方の閉塞した状況を描いた06年の作品(演劇企画集団THE ガジラによって上演)だという。鐘下塾生OBOGによる企画公演としての上演。 

    開演から終幕まで、ちょっと違和感を覚える箇所がなきにしもあらずだが、引き込まれ、終演後に思わずフ~ッと息を継いで緊張をほぐす…そんな舞台だった。 

    開場時から客席案内をしているイケメン青年にどうも見覚えがある。どこかの劇団のスタッフかとも思ったが、どうやらこの日出演する役者らしい。となると、服装から察して刑事役の井手麻渡(無名塾)か…と考えてようやく思い当たった。昨年、無名塾の大姐御(笑)江間直子のユニット・ちょくちょく企画の第2回公演の際に甲斐甲斐しくスタッフとして動き回っていたのだった。名前も知らなかったが、そうか彼が刑事役の一人か、とさらに期待が高まる。 

    壁と床をブルーシートで覆いつくした舞台。清酒一升壜用のプラケースが7つ、バケツが2個。上手奥にユニットラック。上手と下手のプラケースにはもうほとんど残っていない蝋燭が立てられている。天井からは裸電球が2つぶら下がっている。開場時から下手奥で黒いヤッケを着た男が、プラケースを机代わりに何かを書き続けている。 

    開演時間を5分過ぎて前説。上演時間1時間40分。 

    (以下、ネタバレBOXにて…)

    ネタバレBOX

    開演前からの雨の音と時折の遠い雷鳴が開演の暗転で止む。この暗転が異常に長い。
    やがてポッとマッチが点され、蝋燭に点火される。人口2千人という山奥の村で名家とされる藤堂家の主・勇一の妹・美咲が雨の夜に惨殺された。犯人は勇一の妻・耀子の弟で引き籠りだった民雄。美咲は夫・真治の子を身籠って7ケ月の身重だったが、その身体は32箇所も刺されていた。民雄は行方不明。勇一、耀子、真治の3人は美咲の通夜の最中に、山狩りの捜索用のテントに呼び出されたのだ。聴取にあたる2人の刑事・瀬川と三枝は最初から荒々しい言葉と態度で3人と対峙する…。 

    この村で耀子や民雄の龍巳家は昔から龍神憑きの家とされ、龍巳の女が藤堂に嫁いだことで、きっと何かが起こると噂されていた。民雄の引き籠りは勇一らによる少年時代のいじめが原因だった。勇一は高校で演劇部の顧問をしており、県大会でシェークスピアの「タイタス・アンドロニカス」を上演するための合宿中でもあったが、実はその部長と関係しており、殺された美咲も男癖が悪く、真治が犬を飼っているのは家に男が来ないようにするためということと、美咲に構ってもらえないのを犬に舐めさせて発散しているという2つのことがまことしやかに囁かれていた。が、実は真治は以前から耀子に心惹かれており、ようやくその想いを遂げたばかりでもあった…。 

    この“罪人同士がまぐわってできた村”とも陰口をたたかれる山奥の秘境での錯綜し爛れた人間関係と事件の謎が、緊迫した空気の中でテンポよく描かれていく。 

    前半ほとんど喋らない耀子役の岩野未知が凛とした佇まいで実に魅力的。彼女を観ていると「女は喪服がよく似合う」という言葉が実感としてわかる(笑)。勇一・真治・民雄の3人は連合赤軍事件が起こった年(72年)生まれで42歳だというから、物語は2014年の出来事ということになるが、ということは耀子は年上の妻ということだ…。
    真治役の稲葉能敬(劇団桟敷童子)は序盤、身重の妻が殺されたというのにやたらと声が大きく陽気そうで違和感があったが、次第に妻との関係が明らかになるにつれて、それが気弱な男の不安さを隠そうとする虚勢だということがわかってくる。逆に2人の刑事が終始高飛車なのは、この村を毛嫌いしているだけではなく、アヤシイ人間を不安に陥れるためでもあるのだ。 

    下手奥で開演前に書き物をしていた民雄は開演後もずっと同じ位置から、この事情聴取の様子を見つめており、話が自分の過去に関わってくると立ち上がってその話を持ち出した人間と会話を交わす…この構成が実に効果的だ。それぞれに虐げられ、心に傷を持った人間たちの足掻きが、救いようのない結末を迎える。役者陣の緊張感を切らさぬ演技が最後まで観客を捉えて離さない。 

    濃密な人間ドラマであり、ミステリーだった。

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    2016/12/20 06:36

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