はじめ ゆうの観てきた!クチコミ一覧

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範宙遊泳展

範宙遊泳展

範宙遊泳

新宿眼科画廊(東京都)

2013/02/16 (土) ~ 2013/02/27 (水)公演終了

満足度

一つにした方が良かったのでは…。
山本卓卓の一人芝居「楽しい時間」、残りのメンバー二人での
「幼女X」の二本立てで行われた本作。

少しだけSF設定入っているような「楽しい時間」も、男の鬼気迫る
独白がなかなか面白く、幻想的なラストの「幼女X」も、主に時間の
問題で、まさに「帯に短し、たすきに長し」の状態で、なんか
食い足りない、物足りない印象でした。

ネタバレBOX

「楽しい時間」の方は、明らかに「3.11」以降の状況を意識した、と
みられる、放射能の雨が降り続き、外出警戒令が発動されるような
近未来を舞台にした話。

舞台が始まる直前に、観客から、「雨の日は何をして過ごすのが
一番楽しいですか」のような内容のアンケートが配られてそれに
回答するのだけど、そこで書かれた内容が舞台での一小道具に
過ぎなかった、というのはちょっと肩すかしだった。

せっかく、雨の日でも、外にわざと出ていく人たち(一種の愚連隊?)
「雨歩(あまふ)」の存在もあったのに、活かされていないのが残念。
絡めれば、もっと面白かった気がする。

「幼女X」は、テーマは「コンプレックス」なのかな?
大橋一輝のテンション高めの若干一人コント入ったような演技は、
静かな空間に笑いの効果を生んでいて。

そして、背景の映像や文字とリンクさせた演出もスタイリッシュで
驚きだったけど。

実験性に重きを置きすぎて、お話の方は…だった。
ラスト、幼女暴行犯を襲撃した男が自殺し、その血が海になっていく、
という幻想的なくだりは小説っぽくて綺麗だな、と少し思ったけど。
次回作に今回の作品の試みはぜひ活かして欲しい。特に映像回りは。
IN HER TWENTIES 2013

IN HER TWENTIES 2013

TOKYO PLAYERS COLLECTION

王子小劇場(東京都)

2013/02/06 (水) ~ 2013/02/11 (月)公演終了

満足度★★★★★

女性の人生
20歳になったばかりの「私」から30歳間近の29歳の「私」まで。
10人の「私」が自分史をそれぞれに語っていくという、登場人物が20代の
女優のみという、かなり異色の作品。すごく面白かったです!

最初は賑やかに、笑えて、でも最後は切なくも希望に満ちた、
良い意味で演劇の王道、そんな作品。

ネタバレBOX

20歳になりたての「私」は音大に通う、トランペットを演奏する子。
将来は海外への留学を経て、有名なオケで演奏する夢を語る。

29歳になった「私」は編集者。淡々とした語り口で、さらっとした
口ぶりからは、人生の酸いも甘いもある程度知った大人の女性の
顔をのぞかせる。

この二人を軸に、20代前半の「私」5人と、20代後半の「私」5人が
円陣を組んで、それまでの人生を振り返りつつ、夢や恋愛、仕事に
自分にとって大切な存在をゆっくり語っていく…

って言えればいいんですけど、この作品、笑いの要素も多くて。

25歳の「私」が大失恋して凹んでいるところに、26歳と27歳の
「私」がま、時が経てば忘れるって、って慰めに入るも、25歳からは
お前らが今そうしていられるのも、私が土台にいたからじゃないか! と
喰ってかかられたり、

27歳と24歳の自分とが価値観の違いから激しく応酬し合ったり、

同じ自分でもこんなに違ってしまうのだな、とほとほと感じました。

でも、女性ばかりわいわい賑やかにやっている舞台って華があって
いいですね、楽しくなります。単純に観ていて面白いです。

なんかこの作品観ていると、人生行路、脇道にそれたり、違う道に
紛れ込んだり、新しい道を作ってみたりと、最初考えていたのと
違うところに進むことはよくあっても、人間、最終的には、それなりの
ところ、必然あるところに落ち着いていくのだな、と。

劇中でも、大切な人はそんなに広がってはいかなかった、って
28歳の私がしみじみと語るのを観て、自分の人生まで考えて
いってしまいました。

最後、結構しんみりしてくる終わり方といい、この作品は笑って
感じて自分の中で温めて。そして、時に思い出すのが素敵な
楽しみ方のような気がします。
地下室

地下室

サンプル

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/01/24 (木) ~ 2013/02/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

7年経っても全く古びない傑作
数年前の作品の再演だというのに、古びるどころか、
ある部分では、現実が劇の世界にゆっくりと近づいていっている。
そんな気配すら感じました。広いと思っていたはずの自分の周りの
世界が、実は閉ざされ切っている、でも、それに気がつかない。
滑稽なようでいて、誰にでも在り得るその恐ろしさに震えが走りました。

ネタバレBOX

サンプル立ち上げ前に、「青年団若手自主企画」として2006年に
初演された作品、『地下室』の再演。サンプル大好きなので期待
していました。

劇団『サンプル』の大まかな特徴は、
①閉鎖された狭い空間の中での、不条理で飛躍する物語展開
②直接的、かつ極端な性的表現
③引きこもり、閉じた、コミュニケーション不全の病んだ登場人物達
④ごみ袋をひっくり返したかのように雑然とし、でも大胆な舞台美術

があると思っていますが、本作は劇団最初期の作品なので、まだまだ
平田オリザ直系の現代口語演劇、ちゃんとしたプロットのある物語に
なっています。が、既に、作者である松井周氏の個性は確立されてますね。

『地下室』は、特殊な製法の水で話題を集めつつある自然食品会社の
閉鎖的な地下室を舞台に、そこで住み込み制で働く人々の、一種異様な
集団原理を描いた作品です。

閉ざされた空間では集団も閉ざされる。コミュニティの中では、「一人は
集団のもの」という「共有(シェア)」の原理が確立され、守れない者には
厳しい追及が待ち受けている。

揚げ足を取られ、激しく消耗し、集団の言葉、規則は絶対であると、
真っ白になってしまった頭に叩き込まれた後は、店長による、
「イニシエーション」という名の「交わりの儀式」が行われる…。

ここまで読んで、「これってカルト教団や過激派のコミュニティで
起こっていてもおかしくないよね」と思うかもしれません。まさに
そうで、集団の中でしか通用しない不条理なルール、外部からは
コミュニケーション不全に見える組織構造、やたら性的に乱れて
ぐちゃぐちゃになった人間関係など、

ある種の、人間の集まりの赤裸々な姿をのぞき見たような気分に
陥りました。

個人的には、現在の日本社会で一部叫ばれる、「私欲から共有へ」、
「お金より大切なものはある」という言葉が、本作では、歪み切った
コミュニティをつなぎ止める一種のマジックワードになっているところが

あぁ、今の時代の空気感を見事にすくい取っている傑作だな、全然
古びていないな、と強く思わせる要因になり、非常に楽しめました。

登場人物の一人が叫んだ、「今、目を開いたって、外の世界は汚い
ものばかりじゃないか!」、「お前もいい加減目を閉じろ!」という
台詞、あまりに秀逸過ぎてうまい感想が思い浮かばないほどでした。
演劇集団 砂地 『Disk』

演劇集団 砂地 『Disk』

演劇集団 砂地

シアタートラム(東京都)

2013/01/24 (木) ~ 2013/01/27 (日)公演終了

身近に感じられなかった
逃げてばかりの人達の話だと思いました。
別に「逃避」が悪いという話ではないのだけど、この手の
テーマは過去に数多くの作品が生み出されているので、
新機軸が欲しかったです。あと、全体的に演出過多。
滑稽を狙っていたのかもしれないけど、かえって作品の
雰囲気を壊している気がしてもったいないな、と思いました。

ネタバレBOX

亡くなってずいぶん経つ恋人の幻影にとらわれ、一歩も前に
進めないイラストレーターの男と、相手に過度に依存し、結果、
どうしようもない男ばかり拾ってしまう、普通にいそうな感じの妹、

それに、本人は自由人らしい生き方を貫いているようにうそぶいても
人からはどこか逃げているようにしかみえない、タイ在住で日本一時
帰国中の男、

エロアニメ声優で、自分のつくっている作品の意味や意義について
密かに思い悩んでいる、妹の腐れ縁、

の4人が主要人物ですね。この中では一番、妹の腐れ縁の清水が
一番理解しやすかったかも。どんな状況でも、何をやっていても、
たとえ自分がそれを選んでいても、誰かに認められて、存在の
意義を感じて欲しい、というのはありますよね。

でも、清水を含めて、みんなあまりに自分のことだけしか
考えてないので、後半、なかなかに単調で。一人くらい
変化の移り変わりを出していって、そこで他の3人との
対立点みたいなのをつくり出していった方が面白かったのでは。

主人公の男の恋人が、男が理想化し、自分だけを見てくれている、と
いう思い込みとは違って、実際は誰とでも簡単に寝るような女性だった、
っていうのはなかなかキツさが効いていて、ここは結構掘り起こせそうな
ネタだと思ったけど、

意外と妹とのエピソードも大きく絡んでくるので、主題が分散して
なんだかよく分かんなかった。

妹が海外に行って、人に左右されて気疲ればかりしていた頃から
打って変って、自分の生に気付いて兄に話しかける、という結末も
後で考えると空虚ですよね。演出はそれを狙っていた可能性も
あるけど、やっぱりありきたり過ぎる気がしました。

作・演出がほぼ同年代なので、どうしても作る世界観や主張に
世代特有の未成熟感が色濃く漂っていて、さすがにこの手の
作品はなかなか今の自分の歳では厳しくなってきたな、って
いうのが正直な感想です。
やわらかいヒビ【ご来場ありがとうございました!!】

やわらかいヒビ【ご来場ありがとうございました!!】

カムヰヤッセン

シアタートラム(東京都)

2013/01/17 (木) ~ 2013/01/20 (日)公演終了

満足度★★★★

生まれ変わった「やわらかいヒビ」
本作品は、2010年に三鷹市芸術文化センター「星のホール」で
初演されたものの再演となる、劇団の代表作であり、また初の
シアタートラム進出作品でもあります。

私は2年前の初演も観ているのですが、当時相当の衝撃を受け、
以来、「カムヰヤッセン」という劇団名が脳裏に刻まれるなど、
本当に想い出深い作品です。今回の再演でも変わりません。

むしろ、ある部分では、再演の方が深く切り込んでいるかもしれない。

ネタバレBOX

本作品『やわらかいヒビ』ですが、

舞台は近未来の日本。そこでは数々の社会問題に対応する為に
各分野の頭脳を集めた施設「アカデミー」があり、主人公、牧の妻、
上谷はその中でも圧倒的な才能を発揮し、空間輸送用ブラックホール
開発に日々精魂を傾けていた。

ところが、本人の研究以外に周囲を顧みる事の一切無い性格や、
妬みから、同僚の計略でアカデミーを追放された上谷の体に、
原因不明の不調が起こる…

といったもの。ジャンルでいうと…一種のディストピアSFですね。

初演では、主演の板倉チヒロの絶叫し、時には鼻水涙を
まき散らしながら泣き叫ぶ渾身の演技、

裏切り、妬み、嘘、偽善といった負の感情・要素が一体で
襲いかかってくる、ラストの破局に向かって突き進んでいく、
一切の希望無しの絶望的なストーリー展開、

そしてその悲しみと余りの美しさが一部で「伝説」になっている
ラストシーンが大いに話題を集めた作品なのですが、

今回、再演に当たって、大幅に脚本が直されています。
重要な役割を果たす人物も新たに加えられて、作者の
言う通り、「まったく別の作品」に生まれ変わりましたね。
劇団員も入れ替わって、役者も大幅に替わっています。

観ていて感じたのが、この劇団特有の人間の酷さ、残酷さ、
非情さを示すような台詞、演出、展開は書き改められて
よりトラムに相応しい「広がり」を覚える作品になったな、と。
初演では確か用いられる事のなかった音楽が、ここでは
より深く感情を揺さぶる効果をもたらしています。

夫婦の息子、慧吉と牧の関西弁を介してのやり取りが
コミカルで、緊迫感が大分緩和されているのもあるけど
初演ではほぼ無かった、「まだ見ぬ未来への可能性」を
今回は強く感じられるようになってて。

劇中、牧と上谷、二人の夫婦のきずなが問われる場面が
あるのですが、初演では、それは先に待ち受ける悲劇を
より強める効果にしかなっていなかった気がします。

今作では、初演のエモーショナルさはそのままに、一層
台詞が身に入って来る感じ。

アカデミーを追放されて絶望する科学者の妻に向かって、
牧が言った「m+1の公式はmが0なら成り立たない。+1は
mという今があるからこそ、出来るんだ」「あなたは…俺より
頭が良いんだから理解出来るはずだ」と必死に訴える、
あの場面、

初演では全然来なかったけど、今回は目頭が痛くなりました。

伝説のラストシーンは今回削除され、より未来の希望を
感じさせる終わり方になっていました。ここは賛否両論
あると思いますが、初演のはどうにもならない悲劇の上に
咲いた、美しい一輪の華のようなものなので、

より「人間を、未来の可能性を信頼する」ようになった、
今回の上演では無くて良かったのかもしれません。

最後に、本作は本当に傑作で、シアタートラムも良い劇場です。
カムヰヤッセンが現在激推しの劇団であることを差し置いても
この作品は観て損が無いと、私は確信を持って言えますね。
見渡すかぎりの卑怯者

見渡すかぎりの卑怯者

ジェットラグ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2012/12/08 (土) ~ 2012/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

卑怯者はいったい誰なのか?
「箱庭円舞曲」という劇団の作・演出を手掛けている古川貴義氏の
手による、結構ブラックでシリアスな演劇作品。

古川氏は、以前に『11のささやかな嘘』という作品の演出を
手がけていたのを観て、これは! と思ってから、ずっと注目
していた才能です。

それだけに、ものすごく期待していたのですが、それをさらに
上回る完成度で、すっかり大満足。今後の活動への期待も
一気に高まりましたね。

ネタバレBOX

本作は、孤独な創作に苦悩し、周囲からの批判にも絶賛にも過敏になり、
とうとう姿を見せないのにあれこれ言ってくる自分以外の存在がそのまま
「見渡す限りの卑怯者」に映るようになってしまった画家が殺人未遂を
起こして精神病院に強制入院させられるところから始まります。

脚本は、かなり綿密に練られていて、幾つも伏線が張られていますね。
そのなかで何が「正常」なのか、何が「狂気」なのか、観ている人の
既成観念はどんどん揺るがされていきます。

他には…こういう作品を観ると、つくづく自分に「表現する」「創造する」
欲望が欠けていて良かったと思いますね。表現者、芸術家なら必ず
襲われ続ける、過剰に肥大化し続ける自意識や他人の評価からの
苦しみが、リアルに伝わってくる。

身をよじって、「自分の作品」「芸術家としての生き方」の辛さや苦しみを
絞り出すように叫ぶ様子が痛々しかったです。

端々にブラックでビターなユーモアが挟み込まれているけど、正直
笑いどころがちょっと… ラストの展開はかなり暗くて、しかもすごく
怖かったですね。古川氏は、自分の劇団でホラーをやるべきだと
思います。

これからも、皆がつくらないような作品を生み続ける古川氏には
大いに期待していきたいと思います。「箱庭円舞曲」もこれから
チェックですね。今は駅前劇場ですが、すぐにトラムに進出出来ると思う。
The Library of Life まとめ * 図書館的人生(上)

The Library of Life まとめ * 図書館的人生(上)

イキウメ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/11/16 (金) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

さすがの、この安定感
イキウメは、個人的に大好きだというのもありますが、かなり「推し」です。
場面転換や演出が綺麗なのも凄いし、なにより(特に最近の作品では)
笑いの要素がかなり多めで、難しく考えずに楽しく観られるからですね。

今回もかなり色々なところがツボで笑いました♪ 台詞回しが本当にいい!

ネタバレBOX

今回は、

感情表現が顔ではなく、体の動きに出てしまうことを隠している
新婚の男の悲喜劇、『東の海の笑わない「帝王」』、

過去未来の輪廻転生の姿をのぞき見できるタイムマシンを
発明した男達の物語、『輪廻TM』、

など、全7作品を分けずに、上手く結合&暗転ほぼ無しの
場面展開で一気に繋いでいます。

あまりにそれが上手く、どの話の途中からからどの話に飛んだのか、
序盤では分からずに混乱するので、会場のパンフレット参照を推奨。

図書館を模した舞台美術がとにかく素敵だった。その図書館が、
「人間の知恵を集めた場所」=「過去現在未来の人間の記憶を
集めた場所」として描かれ、それが物語の中心を成しています。

その図書館では、誰もが「自分」について書かれた一冊の本を
必死に探して、いつしか出る事ができない、迷宮に陥っている中、
一人の男が別の探し物をしに図書館を訪れ。

ラストではささやかな感動までプレゼントしてくれます。
こういうところが、洒落てて、早くも来年の(下)が楽しみです。

しかし、安井さんの、抜群の笑いとる力は尋常じゃないです。
鬼役、スリ役と立場は違うのに、既にこの人がいないと、
違和感を感じるレベルの、安定した演技ですよ、本当に。
震災タクシー

震災タクシー

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度

う~ん、これはちょっと…。
震災当日に演出家が遭遇した出来事を(ほとんど)そのまま
作品化したもので、そのため、事件らしい事件も起こらず、
淡々と進む。それを興味深く観られるかで、この作品の
評価は決まって来るかと思います。自分には無理でしたね。

ネタバレBOX

震災後、仕事の関係でいわきに向かわなければいけない主人公は
うまく人を集めてタクシー相乗りで料金を安くしつつ、いわきに向かう
事に成功。

この話は、ほとんどがそのタクシーの中での主人公とタクシー運転手を
含む、大人5人と少女1人の会話で進行していきます。いくのですが。

直接的に震災の悲惨さや大変さに言及する事は無く、やれ、道が
凸凹で大変だ、通行止めで迂回を余儀なくされた、という、かなり
普通の話になっています。

作家や演出家の話によると、あの日震災に遭遇した人も、どこで
会ったか、どんな体験をしたかで、その受け取り方は違う、という事で
敢えて普通にしているのでしょうが、いかんせん平坦過ぎて
ちょっとつまんなかったです。

途中、休憩中に寄った高台から見える福島第一原発について、
「絶対安全って言われているんだから~」という、当時の実感なのか、
それとも若干の皮肉も入っているのか、判断に困るやり取りも
ありましたが、結構流されていった感じでしたね。

それにしても、途中の「走れメロス」ネタは何なんだろう。劇団の
過去作からの引用っぽいけど、正直、一見さんにはどういう意味を
持っているのか、全く分からないので、別のネタにして欲しかったです。

全体的に、いつの間にか始まって残尿感を残したまま終わる感じで
何だかな、っていうのが感想です。皮肉っぽいコメントを同乗の
客たちに鋭く投げかけいく女の子だけ面白かったな。
F/T12イェリネク三作連続上演 『レヒニッツ』 (皆殺しの天使)

F/T12イェリネク三作連続上演 『レヒニッツ』 (皆殺しの天使)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/10 (土)公演終了

満足度★★

隠ぺいの構造
終戦直前のオーストリア・レヒニッツ村で発生した、ナチスによる
ユダヤ人の虐殺を背景とした、ひとつの事件が隠ぺいされ、

それどころか、記憶まで書き換えられていく。その様が舞台として
再現された本作。観ていて、最近上演されたNODA・MAP『エッグ』と
テーマ的には被る部分が多いと強く感じました。

ネタバレBOX

過去は、人が記憶に留めておく以上、時の経過によって
改変されていく。それは仕方のないことです。

なら、意図的に集団ぐるみで隠ぺいされたら一体どうなるのか。
いや、隠ぺいされるなら、まだいつか、真実が白日の下にさらされる
日が来る可能性があります。じゃあ、記憶が書き換えられていったら
どうなるのか。

犠牲者たちが望む真実が大勢の前にさらされる時は永遠に
来ないでしょう。「彼らを見る視線は無く、彼らの視線もまた
無い」のであり、ここに犠牲者たちは二度殺されます。

実際の当事者たちは、過去の衣服を次々に脱ぎ捨てて、新しい
姿に転身して指弾を逃れ、トカゲのしっぽ切りよろしく、下っ端の
人間だけが裁かれる構図は、まさに『エッグ』でも描かれた構造で、

ただし、『レヒニッツ』では忘れ去られるのではなく、隠ぺいされ
「噂」として消費されることにより、一層真実が分からなくなっている。

その現在が、簡素な舞台装置に秘められた皮肉とともに、巧みに
演出されていました。

ただイェリネクのテキストはお世辞にも整理されているとはいえず、
これは狙ってのことなのでしょうが、正直、集中力の面では、
なかなかに厳しかったです。

後半、イェリネクの視点から、事件が総括され始め、指弾される
くだりでは、がらっと変わって激越な筆致になり、そこからは結構
引き付けられたのですが。歴史やドキュメンタリーに興味がある人は
必見ですが、それ以外となると、どうでしょうね…。
イントレランスの祭

イントレランスの祭

サードステージ

シアターサンモール(東京都)

2012/10/30 (火) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★★

色々と考えさせる作品
「不寛容」「差別」の問題を正面から扱うなら、いろいろ意見が
あると思うけど、この位が限界なのではないかと思います。
これ以上やってしまうと、陰惨でかつ重い、エグい作品に
なってしまう危険性があるので…。

入場時に配っていた、鴻上氏の、英国留学体験を交えた
挨拶文、恐ろしくリアルで、本作に対する見方が変わるほどです。

ネタバレBOX

ラスト直前で、「宇宙人を殺せ!」コールと共に、ケンゴが
花束でホタルを殴りつけるシーン、結構辛くて正視に
たえなかったんですが、これ以上にリアルにすると
後味が悪すぎますよね…。

本作『イントレランスの祭』ですが、

地球人と宇宙人、見かけ、そして立場の違いから生まれる、
区別、差別、「不寛容」―イントレランスを扱った作品で、

宇宙人と地球人の区別を気にしないケンゴが、安心を得て
太ってしまったホタルの姿をなかなか受け入れようとしない。

逆に宇宙人にとっては人物の痩せ太りはさほど気にならない
問題なのが、ホタルの皇位継承権第9位という立場は自分達の
統合のために何が何でも必要なもので、

そのためにはケンゴの「路上アーティスト」という肩書は釣合が
取れない、抹殺すべきもののように映る。

ある場面では区別・差別されるものが別の場面では区別・差別し、
区別・差別するものが、またある場面では区別・差別される立場に
変わる。

自分が重く区別・差別される立場でありながら、敢えて差別集団
ジャパレンジャー」に肩入れし、自分たちへの差別感情をよそへ
持っていこうとするテレビディレクターの男の姿に、ただの正義では
割り切れない、この問題の複雑さをひしひしと感じさせました。

威勢のいいことを言っていた「ジャパレンジャー」の隊長が、自分が
想っていた弁当屋のバイトの娘が宇宙人のホタルと気が付いてからの
狼狽えようが笑えるけど、悲しい。そして、見えない敵と闘っている、
この手の存在の滑稽さが、こうして客観的に見せられると痛々しい。

ラストは爽やかに終わったと思いきや、結構、人物たちの言葉の
端々から、それでいいのか!? という思いを募らせられる、なかなかに
苦い物語になっていました。

今、思ったけど、花束で殴っていたのは、この後の永遠の別れを
想ってのことだったのかな? そうだとすると悲恋の話でもありますね。。

演出は…正直、ちょっと古い感じがする。でも、その古さ、いなたさが
逆にいい味を出していた場面もあるので、一概にはいえないですね。

結構、殺陣のシーンなんかは楽しめたくちです。あれだけ激しい動きを
綺麗に見せられる劇団員はやっぱり凄いな、と思いますね。次回作にも
歌と踊りは入れてほしいと思ってます。
アミール・レザ・コヘスタニ [イラン]『1月8日、君はどこにいたのか?』

アミール・レザ・コヘスタニ [イラン]『1月8日、君はどこにいたのか?』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/11/02 (金) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★★★

イランを覆う閉塞感の片鱗を垣間見る
映画『ペルシャ猫を誰も知らない』、『これは映画ではない』からも
その一端が分かる、現イランの生活全般にわたる、目に見える・
見えない形で行われる抑圧。

本作は、その抑圧が一気に強まった2009年の大統領選挙前後の
イランの空気を、実験的な手法で見事に表現したものです。その
閉塞感はもしかしたら、現在の日本にも通じるものかもしれません。

ネタバレBOX

『1月8日、君はどこにいたのか?』は、兵役からの休暇で
戻ってきた恋人が不用意に持ち出した銃を盗み出した
女性たちが電話でやり取りする、その模様を舞台化した
なかなか実験的な作品になっています。

最初、銃を盗み出した理由が分からない上、次々に電話を介して
登場人物や場所が移っていくのについていけず戸惑いましたが、

徐々に会話から伝わる、銃を盗むに至った理由が判明すると
ともに、イラン社会の封鎖性と閉鎖性、保守性がよその国の
私たちにもひしひしと伝わる内容となっています。

基本的に、男は権威的で、すぐに逆上して怒り出すくせに
真実を衝かれると、すぐに怯えてしまうような、情けない
存在として描かれています。さながら、権力をまとった、
張り子の虎のよう。

その男たちが動かす、イランの国家も、見せかけだけの
中身が伴わない存在と指弾しているかのようでもあります。

登場人物たちは、目の前に対する暴力的な抑圧に対して、
抵抗するすべを持たない。例え、銃を手にしても、それで
戦おうという意思は希薄で、手にした武器でますます
自分の壁を高くして閉じこもってしまう、

そんな絶望的な、何もできない、閉塞感すらじわじわと
伝わってくる、そんな作品でした。

若い芸術家、サラが銃を手にして何をするか、と問われた
ときに、自分の血を使って作っている作品に向かって、
血液を入れた袋を銃で撃って撒き散らしたら真に迫るでしょ、と
答えた時、私は限りない切なさを思わず感じてしまいました。

そういうやり方でしか、抵抗を示せない状況下におかれているのかと。
でも、彼女は芸術を通して、自分の意見を開陳できる力を少なくとも
備えているわけで、その背後には、数え切れないほどの声なき声を
持つ女性たちの存在があると思うと、なんだか、ね。

最後、偶然、銃を手にすることになった、不法占拠した
土地に住む明らかに弱い立場の若者は、観客に向かって、
自分の家が取り壊されようとしていることを告げ、言う。

「家の塀を乗り越えてきたら、これを見せて、家を
壊したかったら、まず自分を殺してからにしろと言うんだ」
「家を潰したかったら、自分も一緒に潰してしまえばいい」

劇は、この若者が最後の電話を誰かにかける場面で
終わるのですが、鳴り響く呼び出し音が到底、最後の
脱出口になりえない、それどころか破局へのトリガーにすら
聞こえ、衝撃的な作品を観た、という気持ちを覚えましたね。
アールパード・シリング [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部』

アールパード・シリング [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/10/27 (土) ~ 2012/10/30 (火)公演終了

満足度★★★

宣伝で失敗した作品かも
ハンガリーの地方を舞台とした、そして背景に形骸化した
キリスト教があるにもかかわらず、遠く離れた、別の文化圏の
日本に住む若者にも十分にリアルに伝わる作品でした。

それだけに、本作について、十分に内容を伝えられなかった
F/Tは、他に宣伝面で何か有効なことが出来たのでは、と
本当に残念な気持ちになりました。

ネタバレBOX

本作は、ただ観客が席に座って観ているだけのタイプの
演劇ではなく、途中で、出演者による問いが客席に向けられ、
考えて応えることを要求される、インタラクティブなものと
なっています。つまり、ある程度の心の準備が必要だということです。

しかし、事前に主催者側からの案内が無かったため(もしかしたら
そういう意図なのかもしれませんが)、突然投げかけられる問いに
客席はしんと静まり返り。

ほとんどの客が突発的な事態に反応できずに終わってしまい、
円滑にコミュニケーションが取れなかった。そんな気がします。

演劇は、演者と観客双方で作りあげていくものとしては、甚だ
不本意な結果となってしまったように思います。もっと事前に
どういうタイプの作品か分かるように宣伝してくれたら良かった。

翻訳者は日本人を立てた方が良かったかもしれないですね。
健闘されていましたがニュアンス的に分かりずらいところがありました。

作品自体は、ブタペストから離れた田舎町で、未だにキリスト教的
価値観(何時の隣人を愛せよ)に縛られ、現代の急速な流れの中から
取り残されて閉塞していく学校空間に、自由主義的な発想を持つ
演劇教師が赴任してくることから始まります。

ここ、東京と、地方都市の関係を考えると、そのニュアンスが
分かりやすいと思います。その先詰まり感や圧迫感は。

演劇教師は古株の事なかれ主義の教師や、現実に対応できずにいる
ローランド神父と対立しながらも、古い価値観しか知らなかった子供の
目を開かせ、徐々に慕われていくようになる。

教師が去った後、10年後、15年後、どうなるのだろう? 私(教師)と
子供達との間に接点はあるのだろうか? という映像が流れますが
これは前を向いて前進するのか、はたまた過去に逆走していくのか
そういう意味の問いかけもあるのではないかと感じました。

観ていて感じたのは、ハンガリーにおけるジプシー(ロマ人)への
見え隠れする差別感情、未だに根深いキリスト教価値観、そして
実は隠れつつも抱かれている「ヨーロッパ人ではない」という意識。

また、映像や観客との相互やり取り、また即興も多く含んだ作品は
いつしか目の前で行われているのが「演劇」なのか、「ドキュメンタリー」
なのか、境目を分からなくさせていきます。不思議な作品でした。

それだけに、F/Tの事前準備、劇団とのやり取りが円滑に行って
いなかったのでは、という疑いを持ってしまったのが悔やまれます。
モナカ興業#12「旅程」

モナカ興業#12「旅程」

モナカ興業

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2012/10/19 (金) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★★

新しい出発?
舞台上で鳴り続ける不協和音に、シンプルで影を作りやすい照明、
最初見た時、「ノアの方舟」を思わせた、逆台形の形をした
巨大なセット。

そこで繰り広げられるのは、徹頭徹尾ダークで、普段は笑顔を
見せるような人の裏側に隠れた醜さや冷たさ、無関心さ。

誰も抜けられないような蟻地獄のような世界観で、一時間半
観続けるには体力もいる、緊張感の溢れた舞台ですが、
きれいなものを見飽きた人にはこれほどうってつけの作品は
無いんじゃないかと思います。

ネタバレBOX

基本的な登場人物は、

・夫婦と娘。夫が株式投資で妻が実家から受け継いだ家を抵当に
入れ、大失敗。それがもとで一家は離散。娘は喧嘩する両親が
嫌で家出、男子学生に暴行を受ける。

・建築資材会社社員たち。明らかに出来るが、少し生真面目で
 頑張り屋の女性に、その恋人のあまり有能とはいえない感じの男。
 その後輩の、今風で仕事も女性関係もスマートそうな子。

ちなみに、両グループは、投資に失敗した夫が建築資材会社の
監査室長ということでつながります。

モナカ興業特有の、最初から物語を説明しないつくりは、観客を
おいてけぼりにしかねない危険性があるのですが、巧みな台詞や
人物の見せ方でぐいぐいと引き付けていきます。

登場人物に、いわゆる「良い人」が一人もいないんですよね…。
表面的には良い人でも、あるきっかけで一皮むけば、陰惨な
実態が白日の下にさらされる。でも、えてして、人間って誰でも
そういう一面があるんじゃないかと。

だから、強く心をとらえて離さないんじゃないか、と。そう思いましたね。

どうも自社が不祥事を起こしているらしい、との疑いで、社内調査
チームに選出された女性社員が持ち前の鋭さと熱心さで、腐敗の
実態を監査室長に報告するも、事なかれ主義での室長はもみ消して
明らかにしない。

そうこうしているうちに、社外に実態がリークされ、大問題に。
内部告発を疑われた女性社員は監査室長により、チームを外される。

食い下がる女性社員に監査室長が言い放った言葉が秀逸すぎました。

 「オレは家庭を背負っているんだよ!」
「ちゃらちゃら男と遊び歩いているお前とは違う!」

と言い放っていましたが、既に一家崩壊していく過程を目の前で
見せつけられている観客からすると、なにをかいわんやの世界です。

今作も、崩壊に向かっていく家族、恋人、会社それぞれの終幕、
そして新しいスタートを、「旅程」―旅の始まりと、その過程に
なぞらえて語っていますが、正直それを前向きととらえるか、
後ろ向きととらえるかは難しいところでしょう。

結局、人生は長い旅程で、プラットホームではそれぞれが交わるが
最後に列車に乗るのは一人、ならぬ独り。最後の場面で、そんなことを
思いました。
音楽劇「ファンファーレ」

音楽劇「ファンファーレ」

音楽劇「ファンファーレ」

シアタートラム(東京都)

2012/09/28 (金) ~ 2012/10/14 (日)公演終了

満足度★★★★

素直に良いと思える渾身の作品
「ファ」と「レ」しか歌えない少女、「ファーレ」の成長を描く物語―

『わが星』『あゆみ』の柴幸男氏の、待望の新作は誰もが
肩の力を抜いて楽しめるストレートな音楽劇。音楽に、
柴作品では欠かせない「□□□」の三浦氏、振付に
「モモンガ・コンプレックス」の白神氏を迎え、三者で、
この二時間の心地良い物語を描き出します。

柴作品特有の、音楽と動きのある見せ方、優しげな世界観は
そのままに、より多くの人が楽しめる作品が生まれました。

ネタバレBOX

衣装が凄くポップで可愛らしく、ファッショナブルで、でもどこかで
見たような…と思って確認してみたら、faifaiの人がデザインしていました。
この舞台に完璧に映えてて、とにかくセンスがいいなぁ、と思いました。

柴氏の過去の作品に見られた、物語のカットアップやリバースの
手法は本作では息をひそめ、氏の作品を初めて見る人でもかなり
楽しめると思う。

逆に、氏の言葉遊びやヒップホップ、連想ゲーム的な台詞回しが
好きな人は少し普通に感じるかも知れません。今回、結構みんなが
普通に台詞を口にしていたのに驚いたくらいです。

柴氏がいうには、「ファーレ」という女性の過去から今に至るまでの、
文字通り成長の軌跡を描きたかったそうです。成長の中で、「ファ」と
「レ」が歌えるようになるんじゃなくて、他の音を他の人が補完
していく事で何かが生まれる。

そうじゃないか、と思って、この『ファンファーレ』を造ったそうです。

上記の「協働」に関する事は、劇場で配布している「ままごとの新聞」にも
書いてあるんですけど、柴氏がとても良いことをいっています。曰く、
自分ですべてをコントロールしたい欲求から、誰かと一緒に作品を
作り上げていくことへと関心が移ってきたようで。

今後の作品も、そのことを念頭において作られていくようで、
早くも柴氏の次の展開が楽しみだったりします。

話自体はシンプルなんですけど、絶対に堪能して欲しいのが、
この舞台のテーマ曲になっている「うたえば」ですね。「音楽劇」と
銘打たれているだけあって、歌が話の流れで大きな比重を占めます。

この『ファンファーレ』は3幕から成っていますが、そのラスト3幕目の、
本当に良い場面で「うたえば」が鳴り響くので、心を打ちます。会場では
泣いてる人もいましたが、すごくよく分かります。
私も結構涙腺まずかったです…。

「うたえば」(※実際には、もう少しいじられていますが)
http://soundcloud.com/musical_fanfare/0903-1

最後に。やっぱり坂本美雨氏(実際の舞台にも出演!!)の声は素敵だな!
樹海 -SEA of THE TREE-

樹海 -SEA of THE TREE-

ナッポス・ユナイテッド

ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)

2012/10/06 (土) ~ 2012/10/11 (木)公演終了

満足度★★★

バランスの取れたブラックコメディ
死をもくろんで樹海にやってきた男女四人が偶然
鉢合わせして…で始まるコメディ。

基本は笑いを取りつつも、たまにジャブ程度の
黒さも突っ込んできてなかなか見応えのある
舞台でした。分かりやすさに勝るものなし。

ネタバレBOX

木立が絡み合う模様などを表面に模した段組み、緩急を
付けてくるライティングなど、細かいところでレベルの高さが
見え隠れする、今回の舞台。

すっかり落ちぶれた元カリスマ美容師、自意識過剰な故に
死を選んだフリーター女子、すべてが上手く行き過ぎて
逆に生きがいを見出せなくなった初老の会社経営者に、
いつ死んでもいいか、と悟り切った男。

互いに死を選んで樹海に来た訳を語るも、既に互いに
出会ってしまったことにより、死への決意は大幅に揺らいで。
結局、最後は、二度と出られないとされる樹海からの脱出を
いちかばちか試みることで幕を引きます。

結局人間が死を選ぶ理由って、「孤独であること」、それに
尽きるんです。誰にも理解出来ない、理解してもらえない。
その絶望感が死への引き金なんですよね。だから、一人
じゃないことを自覚した人間はもはや死なない。

それにしても、森の狐と狸が、自分たちを森の狭いところに
押しこめといて、それで死ににここに来るのは余りに身勝手
過ぎない? と愚痴るのは皮肉が効いている話でしたね。

役者同士の掛け合いも面白く、特にフリーター女子と、
カリスマ美容師の、ああいえばこういう式の応酬は
なかなか面白かったです。息が合っている感じでした。
エッグ

エッグ

NODA・MAP

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/10/28 (日)公演終了

満足度★★★

3つの時代をつなぐ「エッグ」
改装なった東京芸術劇場で一番最初に観た作品。
真新しく、以前より段違いに心地良くなった空間で観る本作は
中盤まで観客をおいてきぼりにしかねないほどに、ハイテンションで
物語を進めていく。なので、前半~中盤、作品世界の理解がかなり
難しいかもしれないです。

その分、後半で、物語の全貌が明らかになると、一気に目が離せなくなり、話の進行自体もゆっくりになっていきます。ラストは切なくも哀しい〆で、
印象深かったですね。

ネタバレBOX

「エッグ」という、東北出身の若者が事実上生みの親となった
新しい形のスポーツがまずは話題にされる。どうも、この競技は
毎回オリンピックの公式種目に選出されそうでされず、その動きが
選手、そして国民の半ば悲願になっているようだ…。

と思いきや、男性が中心のはずの「エッグ」が、実は成立当時は
女性のスポーツだったことが判明し、みんなで看護婦の格好をして
競技に臨んだり、舞台設定が東京オリンピック時の東京のはずが
戦前の「失われた帝国」、満州帝国であったりと、次々に新しい事実が
判明し、観客は混乱させられます。まるで、確かなことは何もないように。

既に、「正しい歴史」は時のかなたに追いやられてしまったかのように。
「エッグ」の為に遺された公式記録がでたらめ千万だったことでも
それは分かります。

逆に、正しい歴史を知っている者は、次から次へと過去の自分達が
関与した「過去の時代」を後ろに捨て去って、眼の前の「新しい時代」に
転身を図っていく。その姿は、古いゼッケンを捨て去って、新しい
ゼッケンで競技に臨む選手のように。

しかし、そうした華々しくも、きれいな立ち位置にいつもいる人々の
足元では、何も知らない、ある種素朴な人達の無数の死がいつも
在るという事を、この作品『エッグ』はえぐり出していきます。

献身的に、理想に邁進していく人ほど、「時代」における用が済んだら
切り捨てられる。それは、「エッグの聖人」という、過去、そして今でも
ほとんど何の意味も無い称号で計られるには、あまりに重い事実でしょう。

ラスト、誰もいなくなり、きれいさっぱり何も無くなった、夢の満州帝国で
使い捨てられて車椅子の上で孤独に息を引き取る阿部とイチゴの姿は
まるで過去の、そして現在進行形の日本の民衆の姿を見るようで、
敢えて美しく演出されている分、切なくも哀しい光景でしたね。

全体的に、前半から中盤まで駆け足過ぎて、観客としては少し
から回ってた感がなきにしもあらずかも。それでも、時折入る
笑いがいい感じに効いていたけど、後半、どんどんダークで
シリアスに進行していくので、結構観るのは消化不良感があったかな。


その事も含めて、単純に終わらない、情報量の多い演劇だと思います。
温室

温室

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2012/06/26 (火) ~ 2012/07/16 (月)公演終了

満足度★★★★

正しい事はどこにあるのか
ノーベル文学賞受賞劇作家にして、「不条理演劇」の大家、ピンター。

ピンターの作品の特徴は、部分的にみると全く支離滅裂なのに
全体でみると何故か綺麗に流れる台詞回し、全てが不確かな
状況説明、夢幻的で不穏な舞台の雰囲気… そして痛烈な皮肉。

本作、『温室』は、そのピンター独自の個性と魅力が最も先鋭的に
出ている作品で、それ故演出には大変苦労されたと思います。
演出家、役者共に健闘している、素敵で、異空間を旅するような
感覚のお芝居を120%体験出来て本当に良かったです。

ネタバレBOX

今作、『温室』は療養所と思しき場所(明示はされない)で、
収容患者の一人が死に、一人が何者かにより男子を出産
させられたことが報告される場面から始まります。

真紅に統一された家具が点在して置かれる他は簡素ともいえる
舞台は客席の中央部分に設置され、丁度、観客は舞台をのぞく
仕組みになっています。また、舞台は終始、時計回りに回り、
時として緊迫した雰囲気をかもすかのように早くなります。

権威を振りかざし、秩序を最大の価値と信じて疑わない所長、
その下で、表向きは従順を装うも、その実、全く尊敬心を
持ち合わせず、足元をすくってやろうと考える専門職員たち。

その微妙なパワーバランスが、冒頭の事件をきっかけに一気に
崩れ、暴力や殺意の気配が後半にかけて徐々に舞台を覆います。
断続的に鳴り続ける不協和音の演出とあいまって、不気味とも
いえる空間でした。

最後の場面で、暴動を起こした収容者たちにより所長以下、
全ての専門職員が殺され、唯一残った一人の職員が昇格して
新しい所長になった事が報告されて、本作は終わります。
しかし、背後関係は分からず、この職員の仕組んだことなのか
それとも、突発的な暴動だったのか、それとも別の原因が
あるのかは全く分かりません。ただ事実のみが淡々と語られる。

ピンターの作品は、故に、ベケットやイヨネスコなどの
系譜を汲む「不条理演劇」に位置付けられますが、全く
訳が分からないのではなく、事実関係は語られなければ
その人だけにしか分からない、そういわれているようです。

誰かにとっての真実は、誰かにとって真実じゃない。
やっぱりピンターの作品は最高だと思いました

高橋一生と山中崇がすごく良かったです。両人とも、表向き
保たれている秩序の中で、本性を現した人間の狂気をよく
演じ切ったと思います。

来年、深津氏が別役実(氏の作品も大好きです!!!)の『象』を
演出すると聞いて、体温がまた上がってしまいました。
夏なのに…。
千に砕け散る空の星

千に砕け散る空の星

ゴーチ・ブラザーズ

シアタートラム(東京都)

2012/07/19 (木) ~ 2012/07/30 (月)公演終了

満足度★★

あらゆる全てが少しずつ
かみ合っていない印象。素材はすごく良さそうな感じは
するんですけど、台本、演出、役者、その全ての要素が
少しずつズレていて、不協和音を発し、最後、う~ん、って
感じで終わっちゃった印象ですね。勿体ないです。

ネタバレBOX

すぐ下の方が書いていますが、ゲイのネタが本当に多い。
写真家の森山大道が欧米の写真について「ゲイっぽい
写真を見せとけば意味深に見えると思ってる。退嬰だ」と
言っていましたが、演劇にも言えるかもしれないですね。

全体的に演出の拙さが目立つ気がしました。
他の方が指摘しているように、設定と演出がかみ合ってなかったり
そもそも、あの舞台装置は何だろう… 隕石を舞台のあちこちに
散りばめていたけど、あまりセンスを感じるものでは無かったです。

物語は…『ハーパー・リーガン』のサイモン・スティーヴンズっぽさは
あったんだけど、いい加減、子供に理解されないで苦しみ、それを
ぶちまける親や、親とのディスコミュニケーションがトラウマになっている
ネタとか、現代演劇で取り上げられ過ぎているテーマで、正直食傷気味。
他の視点で掘り下げて欲しかった。

皆が生を、死をどう思うのか、時間の経過と共にその変化を追っていく…
とかだったら結構面白そうだったのだけど。家族の話に収斂したせいか、
あまり広がりを感じなかったです。

役者も何人か舌がもつれ気味だったり。準備期間が足りなかった?
舞台上で演じる、以上のものをあまり感じなかったかも。

ミルファームに向かう途中、自分の娘の息子ロイとジェイクが交わす
会話が良かったな。お互いを想う心が不器用な台詞からでも伝わってきて
少し涙腺が熱くなった。そのシーンが個人的には白眉です。

オープニングが轟音と共に始まって、ラストが静寂の中で終わるのは
多分狙っていたんだろうな、と思っています。
THE BEE Japanese Version

THE BEE Japanese Version

NODA・MAP

水天宮ピット・大スタジオ(東京都)

2012/04/25 (水) ~ 2012/05/20 (日)公演終了

満足度★★★

メビウスの輪になった暴力
公式サイトによると、2006年にイギリス、翌2007年に日本でそれぞれ
初演された作品の再演作品との事です。

しかし、5年の歳月を全く感じさせないほど生々しい会話の応酬は、
この作品が既にある程度の普遍性を持ってしまっているのか、
それとも5年間の間、社会の方が何も変わるところが無かったのか
判断に迷うところです。

ネタバレBOX

筒井康隆円熟期(と個人的には思っています)の作品、「毟りあい」を
下敷きに書かれた作品なので、マイルドな演出が施されているとは
いえ、筒井の攻撃的かつ不条理な作品展開、ひいていうなら個性が
全面に出されています。

最初、被害者であったはずの、何の変哲もないごく普通の男が
ある時を境にして加害者に変貌する。この時、男の妻子を人質に
とっている、加害者であるはずの脱獄囚は被害者になったわけで
この構造が興味深く感じられました。

そして、最初は、それぞれ人質に向けられていた、徐々に加速度を
増す暴力の応酬が、やがてメビウスの輪の如く、暴力をふるう側の
自分自身に向かってきている、皮肉だけど恐ろしい帰結。

徐々に聞こえ始め、暗転では舞台上を覆い尽くさんばかりに
大きくなる蜂の羽音は、男が徐々に正常さを失っていく、その
境目で鳴らされる警告音であり、もしかしたら狂気へのいざない
であったのかもしれません。

「今度は…俺の小指を送ってやるよ…」

既に、目的が何であったのかすら消え失せてしまい、自己破滅的な
暴力を日課のようにふるうしかできない、異常性に一瞬身震いしました。
負傷者16人 -SIXTEEN WOUNDED-

負傷者16人 -SIXTEEN WOUNDED-

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2012/04/23 (月) ~ 2012/05/20 (日)公演終了

満足度★★★★

誰も過去からは隠れる事も逃げる事も出来ない
「輪廻」…ともいうべきなのでしょうか。
過去に虐げられてきたユダヤ人がひとたび虐げる側に回れば
以前自分達を苦しめてきた者たちと同じこと、いや、実際に
現在進行形で抑圧を受けている者にとってはそれ以上の
残酷なことをしてのけてしまう。

しかし、いつまでも虐げる・虐げられる者の関係が変わらないとは
誰もいえないのです。かくして、負の連鎖は終わることがない。

その永遠にも続くように感じられる関係性が、主人公であるユダヤ・
パレスチナ人二人の関係性にも重ね合わされていると思えるところが
素晴らしくよく出来た演劇作品だな、と強く感じました。

ネタバレBOX

「イスラエル-パレスチナ問題」は多くの人々を巻き込みながら、未だ
解決の糸口が見えない難問の一つですが、ここ日本では地理的な
問題もあって、その重大性がいまいち伝わっていないきらいがあります。
だからこそ、この作品が上演される意味がある。

アムステルダムでパン屋を営むハンス。
とんがった感がありありのパレスチナ人青年のマフムード。

人を避けるように、人目から隠れていくように生きている、序盤から
何だかいわくありげな二人ですが、物語が進むにつれて暗い過去が
暴き出されていきます。

恐ろしいのは、彼等が体験し、忌み嫌ってきた過去が、二人の「現在」まで
縛り、規定し、ある種「アイデンティティ」にまで成長してしまっている事です。

幼少時に、強制収容所で過ごし、対独協力者として生き残り、その後
盗みに入ったパン屋で偶然にも拾われる事になったハンス。

同じく幼い頃から、占領下のパレスチナで生まれ育ち、虐待を受け続け
長じてからバス爆破事件で死傷者を出すような事態を引き起こし、
アムステルダムにまで逃げてきたマフムード。

ハンスは、刺されて倒れていたマフムードを見て、これは自分がかつて
受けた「借り」を返さなければいけない時だ、と思ったと言いましたが、
私はそれだけでなく、マフムードの中に自身と同じ「匂い」を敏感に
感じ取ったからじゃないか、と今では少し考えています。

「過去」が二人をその他大勢の人達から遠ざけ、孤独にし、そして
マフムードに至っては「自爆テロ」(自身が起こしたバス爆破事件が
結果として彼のその後を縛り、死ななくてはいけない、という結末まで
招き寄せたのは確かだと思います)という形で、

新しい命を間近に控えた家族までかなぐり捨てて、人生の幕を下ろして
しまった、という結果を知るにつれ、積み重なった過去の重み、そして
そこから人は逃げる事も隠れる事も最終的には出来ない、という現実まで
突きつけられたようで、

黒く染まっていく舞台を見つめながら、憂鬱な気持ちになりました。

そして、そういった人々の「死の記憶」「死の過去」を業のように背負った
イスラエルとパレスチナが果たして和解を選べるのか、よしんば
赦し合えたとしても、お互いの過去に向かっていけるのか、その今後を
考えるにつれ、また同時に暗い見通ししか出来ないのです。

それだけにラスト直前、一晩だけではありましたが、お互いがついに
直前まで消す事が出来なかった「ユダヤ人」「パレスチナ人」を遂に超えて
「人間の友人」としてお互い通じあえた場面に、私は希望をおきたいと
思いたいのです。

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