r_suzukiの観てきた!クチコミ一覧

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マがあく

マがあく

シラカン

STスポット(神奈川県)

2022/03/30 (水) ~ 2022/04/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「部屋」=領域をめぐる諍いを淡々とシュールに、ポップに描き出す不条理劇でした。

舞台は入浴中の男の部屋。「下見」と称してこの部屋に忍び込んだ女性と何も知らない女友達、不動産業者と客が鉢合わせし、権利を主張しあっているところに、大家も登場、さらに風呂上がりの男も交え、事態は混乱を極める。最終的には「部屋」自身が争いの幕引き役として乗り出してきて−−。

登場人物それぞれの主張に一貫性はそれほどなく「えっ!」となるような発言も淡々となされるため(それが笑いを誘うのですが)、今目の前で起こっている攻防戦がどういう状況にあるのか見失ってしまうこともありました。とはいえ筋やテーマでなく、目の前で展開する状況そのものを見せるという意味では、とても演劇的な試み、企みを持った作品だったと思います。「部屋」自身の声や目線の導入も、(ある種の「神」の存在のように)状況を俯瞰し、設定に立体感をもたらす役割を果たしていて、面白かったと思います。ドミノでつくられた部屋の境界線が、上演中ずっと、登場人物たちの身体との間に、えもいわれぬ緊張感を生み出していたのも、印象的でした。

平穏に不協和音が

平穏に不協和音が

演劇企画集団LondonPANDA

小劇場 楽園(東京都)

2018/03/29 (木) ~ 2018/04/01 (日)公演終了

満足度★★★

夫婦間の「あるある」な齟齬から「ないない」(?)な秘密の暴露まで、心を開いて話し合い、分かり合いながら、離婚を選択する、そのプロセスに引き込まれました。二人が抱えてきた秘密は、多少突拍子なくも思えますが、それでも結論が出る朝までの時間を、ドキドキしながら見守ったことは確かです。
出演者のお二人も、しっかりとその場に存在しながらも、余白(謎)を残す佇まいが印象的でした。

惜しむらくは、子供の存在がほとんど感じられなかったこと。もちろん、会話には登場しますし、別れ話の発端には育児が絡んでもいます。
ですが、キレイに片付けられた部屋、「養育費はいらない」前提の離婚話、離婚後連絡がとれなくなるというエピローグには、小さな子供の影は感じませんでした。夫婦の関係によりフォーカスするためだったのでしょうか。ただ、そうだとするならば、あのラストはかなり怖いものにも思えます。

アメリカン家族

アメリカン家族

ゴジゲン

吉祥寺シアター(東京都)

2010/04/29 (木) ~ 2010/05/02 (日)公演終了

満足度★★★

「家族の形」って……
「再生の物語ではない」とのことでしたが、多少風変わりではあっても、これはやはり「家族の絆(とその重要性)」に焦点を当てたものに見えました。

母が出て行った後の、荒れ果てたリビングとダイニングを舞台に描かれるのは、非行、引きこもりなど、それぞれに問題を抱えた家族の、なじりあいや暴力をも交えた激しいコミュニケーション。とはいえ「そろって誕生日を祝う」ことへの異常なこだわりも手伝って、その様子はどこか滑稽にも見え、笑いを誘いさえします(このあたりは俳優の魅力でもありますね)。












ネタバレBOX

家族やその一人ひとりの登場人物が抱えるドラマを描くというよりは、この不恰好な関係性、その激しさ(ポジティブな面もネガティブな面も)の方を描くことに力点が置かれているので、舞台上の盛り上がりとはうらはらに、登場人物の心象や動機が追いづらく、多少戸惑いを感じる部分もありました。特にこの家に「他者」としてやってくる(居候含め)4人のありように関しては、もう少しリアリティーなり、モチベーションなりが見えても面白かったと思います。

個人的にとても興味を引かれたのは、
ここで描かれる激しいやりとりが、結局は(他者の交わらない)いわゆる「家族の形」の中に回収されていくということ。エキセントリックに見えても、この家族ははじめから壊れてはいなかったのか、あるいは作り手の側に強い「形」への憧れがあるのか……。

いずれにせよ、ひとつの「家族観」を見るという意味でも考えさせられる上演でした。
迷迷Q

迷迷Q

Q

こまばアゴラ劇場(東京都)

2014/04/24 (木) ~ 2014/05/01 (木)公演終了

満足度★★★

ポップ、グロテスク、キッチュ……その先にあるのは?
 動物や生命、性に対するフラットな視点と禁忌に踏み込む大胆さで異彩を放つQ。そのグロテスクかつキッチュな魅力が、今回はやや自家中毒的に見えてしまいました。母子の語りの中に織り込まれた、あられもなく、多面的なセックスや生殖のアレコレ、そこに横たわる違和感が、それ自体の面白さ、珍しさから抜け出し、外の世界(社会/他人)に開かれていく回路をもっと明確に掴みたかったと思います。たとえば、混血の女の子「バッファローガール」にはその可能性を感じたりもしたのですが……。とはいえ、これだけ悪趣味とも言えるアイテムを、時にはグルービーに、ポップに料理してしまう手腕には、眩しいものを感じています。

青春超特急

青春超特急

20歳の国

サンモールスタジオ(東京都)

2018/04/19 (木) ~ 2018/04/29 (日)公演終了

満足度★★★

「卒業(式)」を起点/終点に、部活、文化祭、放課後など、高校生活のさまざまな場面、その断片が重ねられた青春ドラマです。リア充からオタクまで、ここに出てくる少年少女たちは、とにかくその時を大真面目に生きていて、ちょっと斜に構えた風のキャラクターでさえ、青臭さゆえの可愛らしさを滲ませていました。決して言葉数は多くはない。にもかかわらず彼らの対話やその間に覗く不安や迷いにはリアリティがあり、カラオケやダンスのシーンでほとばしるエネルギー、エモーションとの間の振れ幅も強く印象に残ります。中でも駅に佇むオタクの鉄男くんと、イケてる(はずの)同級生たちとのちょっとした交流が心に沁みました。

惜しいなと感じたのは、中盤にいったん「卒業式」が入り、そこが(かなり単純な、青春賛歌的)クライマックスに見えてしまったこと。実際はその後に改めて展開される日常〜卒業の流れの方が本筋かと思うのですが……。とはいえ、12名ものキャラクターをそれぞれ魅力的に描き、かつ、エンターテインメントとしてのステージングもできているこの集団、作品には、小劇場の枠を超えた底力があると思います。

今作は二十歳の国の「青春」からの卒業公演。
青春は、遠く離れてからようやく味わえるものですが、年を重ねれば自然と、作り手の向き合う現実に応じた表現に関心も向くでしょう。少し大人になった二十歳の国がどのように世界をとらえていくのか、楽しみにしています。


時をかける稽古場2.0

時をかける稽古場2.0

Aga-risk Entertainment

駅前劇場(東京都)

2017/03/22 (水) ~ 2017/03/28 (火)公演終了

満足度★★★

<直球のエンターテインメント作品>ほど、創作のハードルの高いものはありません。
これまでの数多くの作品を通じて育まれてきた定石・様式を自らのものにしつつアイデアを展開し、そのプロセスをオリジナリティのあるものにしなくてはいけない。当然そこでは、俳優たちのアンサンブルの強さも必要とされますし、観客を冷めさせない細やかなスタッフワークも求められます。
「時をかける稽古場2.0」は、こうしたハードルに果敢に挑んだ秀作でした。同じ劇団の稽古場を舞台にしたタイムスリップものという、一見シンプルな設定が、圧倒的なスピード感をもって混乱していくさまは爽快。またその複雑さを観客と共に解きほぐしていくような作劇、アンサンブルの演技(つまり、観客を混乱させるのではない)にも好感を持ちました。かなりの稽古量がこの完成度の背景にあったのではないかと想像します。
惜しむらくは、ドラマを展開させる軸のひとつとなったインフルエンザをめぐるドラマ。これは昨今では、業界関係者でなくとも共有できるネタですが、そこでの感情のもつれや解決が、(精緻なボケツッコミの一方で)どこか表層的に終わってしまったように見えました。
アイデアを具現化する巧みな作劇、強力なアンサンブルを持つこの劇団に、より奥行きのある感情、関係の表現が加わるなら、困難な<直球エンターテインメント>の道もより開けるのではないかと思います。

ひび割れの鼓動-hidden world code-

ひび割れの鼓動-hidden world code-

OrganWorks

シアタートラム(東京都)

2022/03/25 (金) ~ 2022/03/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「表現」の源泉を求めた、古代ギリシャへの旅。
白い布をかけ、色をなくしたシンプルな舞台は儀礼の場のよう。
その周囲を「俳優」が歩き、時間の旅を始める冒頭から、深い時間の奥行きを感じました。「俳優」と「コロス(ダンサー)」が対置されながら進行する展開のなか、印象に残ったのは、ディデュランボスの祭礼の場面です。その踊りの輪には、盆踊りにも通じる、死者や過ぎ去った時間への思いが表れていました。

舞台構成、ダンサーたちのキレのある身体……頭脳と視覚を刺激する作品です。断片的で抽象的ながら、不思議なニュアンスを感じさせるイキウメの前川知大さんが執筆したテキストとのコラボレーションも含め、「ダンス」でもない「演劇」でもない、「パフォーミングアーツ」を開発する意欲、意思がそこにはありましたし、その地盤はすでに十分に固められつつあるとも感じます。この魅力的な場が、時には逸脱や混沌も含みつつさらにオーラ、熱量を放つ展開をみたいと思います。


グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory

グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory

劇団印象-indian elephant-

調布市せんがわ劇場(東京都)

2014/03/26 (水) ~ 2014/03/30 (日)公演終了

満足度★★★

社会問題の多面性に挑む真面目さ
 インドでの代理母出産をめぐるさまざまな問題点、当事者たちの葛藤を描いた佳作。インドのクリニックに取材したというだけあって、代理母たちの生活、特に帝王切開をめぐるやりとりには痛いほどのリアリティを感じました。
 先進国と途上国の関係の複雑さはもちろんですが、この物語の起点にある晩婚・晩産、不妊といった問題もまた、決して当事者本人だけの責任に落とし込まれるべきでない、非常に複雑な背景を持っているものです。さまざまな視点をテンポよく交えて物語を進める本作には、一面的な善/悪を作らない工夫が凝らされているとも感じました。もちろん、そのことによって、多少、典型的な人物造形をせざるを得なかった部分も、ドラマとしての盛り上がりを作りづらかった面もあるかもしれません。しかし、社会問題への取り組み方としては、誠実ですし、だからこそ、「正しさの主張」を感じることもなく、違和感なく観ることができました。
 それにしてもなぜ、若い男性がこの問題をとりあげるに至ったのか。そのモチベーションはどこにあったのでしょう。観劇後、ふと疑問に感じたのも事実です。ラストシーンでは、待望の子どもを得た女性が、これまでとは異なる日常に戸惑う姿が描かれます。なんだか皮肉なこの結末は、問題の複雑さを表現してもいるのですが、ここにもう少し、「社会の問題」としてこの課題に取り組んだ、モチベーションが見えても良かったなと思いました。

月並みなはなし[2010]

月並みなはなし[2010]

時間堂

座・高円寺2(東京都)

2010/03/11 (木) ~ 2010/03/14 (日)公演終了

満足度★★★

爽やかな修羅場
比較的物語性のある会話劇を観ながら時おり考えるのは、「せりふ=本音なのかどうか」ということ、また、「嘘は前提とされているのか」ということ。

限られた月への移住権をめぐって、議論し、対決し、揺れる人々。
希望者自らが挙手制で他の候補者を一人ずつを落選させていく――という身もふたもない状況には当然、大きな感情の起伏が伴います。
しかし、そこで不思議だったのは俳優達の佇まいが、どこかさっぱりと明るいようにも見えること。それはごく自然に舞台に立とうとする俳優のあり方で、意図しないことなのかもしれないけれど、彼らが「自然さ」「明るさ」をまとえばまとうほど、その裏には想像もつかないほど生々しい感情が隠されているようにも見える。このズレはとても面白いと思いました。

舞台美術や衣裳、チラシなど、ビジュアルのセンスにもこだわりが感じられ、気持ちのよい空間づくりがされています。それだけに、個人的にはこの気持ちよさの裏にある「生」の方へ針が触れる瞬間がもう少しはっきり見えてもよかったというか、分かりやすかった気もします。





ネタバレBOX

「月の移住」という夢は一見ファンタジックですが、この作品を見る限りでは、人びとは月に行っても、地球に居るときと同じ生活を営むのかもしれません。いや、もしかしたら、この選ぶ/選ばれないという一種の「修羅場」は彼らに傷を残しさえするかもしれません。
では地球に残された人は不幸だったでしょうか。落選した男が恋人と寄り添って立つラストシーンには、「生活していくこと」の現実と幸福をじっくりと噛み締めたくなるような美しさがありました。
喫茶久瀬

喫茶久瀬

文月堂

サンモールスタジオ(東京都)

2010/03/02 (火) ~ 2010/03/07 (日)公演終了

満足度★★★

たっぷり!
古びた喫茶店を舞台に、そこに集う人々の悩みと絆、再生を描く物語。

「失われたご近所」を描く物語でもあり、そこでは「ここも!? あなたも!?」と驚いてしまうほど誰もが問題とドタバタの種を抱いています。

あまりにもてんこ盛りなので、そのぶん、せりふまわしや設定、モノの扱いなどに「素直(シンプル)すぎるな」「もうちょっと細部を見せてほしい」と感じる部分もありました。でも、大人になっても決して「オトナ」にはなれない人々の心情をこねくり回さずに描く筆致はむしろ気持ちのよいものとも言えますし、スピーディーで巧みな展開(これは脚本のセンスですよね)と俳優たちの熱演には飽きさせない魅力があり、素直に笑い、楽しめます。

てんこ盛りなだけにすべてのエピソードを着地させるのには多少時間もかかり……2時間をちょっと超える、その「ちょっと」ぶん、スマートでもよかったかもしれません。この芝居には合わなかったかもしれませんが、敢えて閉じない話があるのも個人的には好きです。


ネタバレBOX

いわゆる「アラフォー」の惑いを描くその先にあるのは、決して大仰な成功でも、人一倍の幸せでもありません。登場人物たちは「幸福」へのキーのようなものを手に入れ(触れるくらいで?)、舞台は終わります。

エピローグに「子どもの誕生」が描かれる(ここ、非常に複雑でナイーブな問題を孕みもしますよね)ことも含め、ある種「ユートピア」的な物語ではあります。でも、いずれにせよ、今ドキの大人のユートピアは「雨降って地固まる」ことのようで。前提として雨は降る。そのこと自体にリアリティを感じもしました。

会場には過去の作品の舞台写真がさりげなく展示されていました。初めて観る者にとっては興味深く、イメージも広がります。こんなところにもカンパニーの気持ちよさは宿っているのですね。










罠々

罠々

悪い芝居

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2017/04/18 (火) ~ 2017/04/23 (日)公演終了

満足度★★★

複雑な構成にもかかわらず「エンターテインメントとして2時間突っ走る!」という意志はブラさず、実際になんだかんだで見せてしまう力のある芝居でした。さまざまな因縁、過去を錯綜させた物語の、暗渠のような暗さ、寂しさと、テンポの速い(時には笑いも交えた)演技やシンプルな衣装・装置のアンバランスにも、明るい虚無と暗い深層が入り混じるような独特の味わいがありました。
サスペンスの体をとった一種の伝統的自分探し劇ですが、ビデオカメラの使用、Youtuber、テレビで活躍した元漫才師……などの設定を通じ、虚実を曖昧にする現代的仕掛けも施されています。多彩な要素を複雑に見せること自体に、この作品のグルーヴはあるのだろうとも思う一方で、ここに描かれた現代の闇、あるいは過去からの呼び声に、もう少しシンプルに、俳優と共に向き合う余裕と時間が欲しいとも感じました。

透き間

透き間

サファリ・P

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/03/11 (金) ~ 2022/03/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

アルバニアの作家、イスマイル・カダレの『砕かれた四月』を原作とする舞台。
現代に生き続ける「暴力」の源泉に迫る題材選び、取材も踏まえた台本づくり、さらに「舞台化」とはどういうことかを真摯に考え、形にした、非常に意欲的で洗練された公演でした。

慣習によって運命づけられた「復讐の連鎖」が支配するアルバニアの高地。
都市部から新婚旅行にやってきた「妻」は、復讐を果たしたことで復讐される身となった「歩く人」に強く惹かれ、彼が運命から逃れ出られるよう奔走します。

運命の守り人のような老人の住う荒屋、逃れてきた男たちが集う塔、そこに横たわる寝たきりの負傷者、都市に生きる知識人、死んでも蘇る兵士たち……生と死、暴力、因習をめぐる象徴的な要素が交錯する物語は、16個の小舞台とその間を走る隙き間、そこに生きる俳優/踊り手の身体に託されます。そこでは、隙き間から現れる死者の手をはじめ、山地を歩くこと、走ること、情を交わすこと……のどれもが、死に向かう身体でさえ、生々しい生の営みとして表現されていた、されようとしていたと思います。

シンプルに刈り込まれ洗練された台詞や舞台装置に忠実に世界観を立ち上げることはもちろん、俳優の身体がそこからいかに逸脱し、より豊かなイメージを放つかも表現としては期待された舞台だったと思いますが、やや端正な組み立てにとどまった感もありました。(台本を読むと、その豊穣さ、色っぽさは十分残され、生かされているとも感じましたが)テキストと空間、身体の関係性について、あるいは抽象と具象、俯瞰と没入のバランスなど、いっそう探求可能な作品でもあったと思います。

当日パンフレットの解説が丁寧、かつ深い思考を呼ぶものでした。
背景、文脈を踏まえていた方が、味わい深い作品だと思いますので、こうした事前情報は大事ですし、さらにプレトークなどがあってもよかったのかなと感じました。

二ツ巴-Futatsudomoe-<舞台写真公開中!>

二ツ巴-Futatsudomoe-<舞台写真公開中!>

壱劇屋

ABCホール (大阪府)

2018/04/06 (金) ~ 2018/04/08 (日)公演終了

満足度★★★

「ノンバーバル(ワードレス)でもここまでできるのか!」と「やっぱり限界があるなぁ」と、両極の感想を同時に感じた観劇でした。言葉がなくても基本的なストーリーは無理なく理解できる一方、人間関係が入り乱れ、さらに殺陣に突入すると、正直その一太刀ひと太刀の背景、理由が読み切れなくなってしまいました。殺陣が軸になる芝居なので、息もつかせぬアクションの一方で、よりドラマのある一太刀もみせてもらえると印象が深まったのではないかと思います。また、もし、それが台詞なしで可能になるとしたら……それは大変な発明にもなりうるのではないでしょうか。

もちろん、エンターテインメント性と表現力を持った身体(俳優)が次々と登場する展開は鮮やかで爽快感がありました。アンサンブルキャストによる水の表現なども(アンサンブルは終始同じ格好なので、敵味方を始めとする役割の変化が分かりづらい面もあったのですが)面白く拝見しました。

人力で、汗を書いて表現する、直球のエンターテインメントに挑んでいると感じました。







ネタバレBOX

舞台をよく知るベテラン勢の中、NMB48のお二人も健闘されていたと思います。特に久代梨奈さんは身のこなしがよく、軽すぎない、骨太の存在感を見せてくれました。また、谷川愛梨さんも華奢ながら芯の強さを見せる演技ができていたのではないでしょうか。
ひとつだけ、注文があるとすれば、不慣れな殺陣では、ともすれば手数に追われ、顔がうつむきがちになる気がします。お嬢様的な役柄の谷川さんのロングのヘアスタイルは、久代さんとの対比という意味でもよかったと思いますが、もう少し顔を見せる工夫もあるとさらに素敵だったのではないかと感じています。
不思議の国のアリス

不思議の国のアリス

壱劇屋

門真市民文化会館ルミエールホール・小ホール(大阪府)

2022/03/24 (木) ~ 2022/03/25 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

うさぎ頭の人物との出会いから未開の惑星へと迷い込んだアリスの物語。無重力空間とマイムのマッチングは絶妙で、舞台上の浮遊感や身体の重みに、観ている側もシンクロするような感覚がありました。ロープを使った表現、謎の生物たちの造形も印象的で、スマートさの中にも常にシュールな「不思議」が感じられる時間でした。
(個々の動きや場面展開スムーズさの一方で、さらにメリハリのある構成があっても見やすかったのではないかと思います)

若手を軸にした公演で、テクニカルな練度にはまだ上を目指せる余地がある気もしますが、アフターイベントとして披露された「コーポリアムマイム」の解説と出演者を交えた実演では、劇団が取り組んでいる課題やビジョンの一端を、観客と共有する姿勢も伺え、「こうしてファンと地域との信頼関係が築かれつつあるのだな」と得心もしました。

iaku演劇作品集

iaku演劇作品集

iaku

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/05/16 (水) ~ 2018/05/28 (月)公演終了

満足度★★★

思いもかけぬ妊娠の可能性に動揺する夫婦と、母の末期がんと恋人の存在とを同時に知った兄弟。
舞台上では、生/死(中絶・尊厳死)の境界線を前にした二組の物語が同時進行し、やがて交錯します。

仕事人間で、職場での立場や体裁、出産後の生活に対する不満、不安を述べる妻の主張は、産んでも産まなくても生きづらい社会を反映しているようで、とても頷けるものでした。また、そうした気持ちをもまず理解してほしいという立場もよく分かります。
一方の兄弟のテンポのよいやりとりも、マザコン風の兄の主張が結局は母自身ではなく、自らの日常を守らんがためなのだと、次第にわかっていく過程がユーモラスでもあり、リアルでもありました。

大掛かりなセットも小道具もない、椅子だけのシンプルな空間で、対話を重ねる中から具体的なディテールを持った人間ドラマが立ち上がってくる面白さの一方、後半に前景に出てくる「母」と「未来の子供」(特に後者)の存在の仕方には疑問が残りました。二つの「生」と「死」をめぐるドラマは、その具体的な感触、多様な視点を含むゆえに魅力的だったと思うのですが、それが「進み続ける人生の時間」という大文字の美しさ、尊さのようなものに包みこまれることで、かえって見えなくなってしまった気がします。

ネタバレBOX

タイトルの「粛々と運針」とは、流れていく時間、人生の時間を表しています。舞台上にはもう一組、老いた「母」と「これから生まれる子供」がおり、二人が「チクチク/タクタク」と運針を続けているのです。

生まれた命は尊ばれ、愛しまれるべきですが、生まれる前の命に「生まれたい」と語らせることが果たして、ここで妻が語っていたような、女性の立場をめぐる応答になっていたでしょうか。それはむしろ、現状肯定を後押しする圧力にもなりかねないように感じました。
江戸系 諏訪御寮

江戸系 諏訪御寮

あやめ十八番

小劇場 楽園(東京都)

2014/03/12 (水) ~ 2014/03/16 (日)公演終了

満足度★★★

重厚なドラマ、ミスマッチの美学?
 土地に伝わる「鬼」伝説をめぐる、二つの家族の物語。まるで大河ドラマのような濃厚な設定に、今どきあまりない(スタンダードな意味での)「物語」への強い意欲を感じました。伝説や呪詛といった土俗的な題材を使って人間の情念を描く作風には、どこか懐かしさも漂いますね。
 口上があり、歌もあり(生演奏つき)、一つの空間を二つの場で分け合う工夫もあり、「楽園」という狭く特殊な空間で、いかにエンターテインメント性を高めるか、さまざまな創意が凝らされた舞台でもありました。オールディーズを中心とした歌の場面は「和」風の舞台に対するミスマッチの面白さがあり、内容に合っていないような、合っているような微妙なところが味だったのですが、ストーリーが複雑なだけに、あまり頻繁だと、むしろ意識が途切れてしまう面も。
 華やかな仕掛けとしての演出もあれば、グッと耐えて戯曲に添う演出もあっていいのだと思います。演技もしかり。もう少し「引きどころ」があると、いっそうの豊かさを味わえたのではないでしょうか。



お気に召すまま

お気に召すまま

ヌトミック

こまばアゴラ劇場(東京都)

2019/05/12 (日) ~ 2019/05/19 (日)公演終了

満足度★★★

吊り屋根の下の土俵のようなスペースで繰り広げられる、恋と権力をめぐる、文字通りの「闘い」。音楽やそのパフォーマンスのあり方を参照し、さまざまな演劇実験を重ねるヌトミックの、予想以上に「物語」ではないシェイクスピア劇に驚かされました。
台詞の切り取り方、発語や身体の状態、マイクパフォーマンスや土俵外での演技……といった要素の多くが、テキスト(やそれを重視する多くの上演)の構造分析や批評になっていることは伝わってきますし、そうした作品の中での俳優の立ち方にも関心を持ちました。とはいえ、これらの批評的観点が連なり重なりながら、一つの視座をつくっているというふうにも見えないので、なかなかついていくのが難しかったというのが正直なところです。

オーシャンズ・カジノ

オーシャンズ・カジノ

北京蝶々

王子小劇場(東京都)

2012/04/18 (水) ~ 2012/04/30 (月)公演終了

満足度★★★

アンコちゃん奮闘記に期待
主人公アンコの爆走キャラと帯金ゆかりさんのエネルギッシュな演技、存在感が今も鮮やかに蘇ります。(ダメな)彼氏大好きパワーで、現代社会の暗部がほの見えるヤバい場所についうっかり足を踏み入れちゃう「アンコ」シリーズもいけちゃうかもしれませんね。
女子は可愛いし、演出も賑やか。サービス精神にあふれた舞台でしたが、正直もう少し緩急が欲しかったです。カジノの場面の華やかさや時折挟まれるギャグも、あまりにも「全力投球のサービス」の気合いに満ち満ちていて、ここまで完成度を高められるならむしろ、人と人の関係を見、せりふを聞く余白も持ちたかったなと思うのです。そういうところにこそ、エンターテインメントの奥行きは現れるのではないでしょうか。
「カジノ利権と地域経済」というテーマをエンターテインメントに昇華しようという心意気は大いに買うところです。脚本の執筆前には取材もされたとのこと。であれば、(ディテールでも構わないのですが、)この問題について、もうひと息深い、オリジナルの視点を押し出して頂けると、いっそう野心的な作品になったのではないかと思います。華やかさと勢い、分かりやすさの中に、社会性が埋没してしまった感がありました。

サザンカの見える窓のある部屋

サザンカの見える窓のある部屋

カムヰヤッセン

小劇場 楽園(東京都)

2011/03/03 (木) ~ 2011/03/06 (日)公演終了

満足度★★★

温かい小品
記憶を外部化し、保存・編集できるようになった近未来の物語。消去されてしまった記憶はどこへ行くのか、家族をつなぐ絆を復活させることはできるのか――。
こじんまりした空間で、劇団5人だけで挑んだ小品。
やさしい雰囲気の漂う作品で、かつ丁寧に作られているなと感じました。



ネタバレBOX

印象的だったのは、過去のプレイバックのシーン。照明の切り替えだけで、これを分からせる手腕はなかなかだと思います。

脚本もサザンカ/ツバキの件も含め、よく考えられていますね。家庭劇の背景にSF的世界を置くアイデアは◎。世界が広がります。

ちょっとこう……「しっかり構成」に寄った印象もあり、個人的にはもうほんのちょっと、強い感情的執着や破綻、あるいはSF的怖さが匂ってもいいかな、とは思いましたが、「温かみ」という質も大事ですものね。

夕夕方暮れる

夕夕方暮れる

立ツ鳥会議

萬劇場(東京都)

2019/05/31 (金) ~ 2019/06/02 (日)公演終了

満足度★★★

舞台となるのは、これといった特徴もない小さな公園。そこを訪れる人々の、さまざまな人生模様が交錯していきます。5日間にわたって起こる複数のエピソードを、時系列を折り重ねて見せるアイデア、つかの間の逗留の場や通路としてこの公園を訪れる人々とそこにこだわり清掃を続ける女性の存在を対置させた構造など、作家の企み、意欲を感じる舞台でした。

隣接するアパートの価値を高めるため清掃に励む女、いつまでも子供の頃のように友人を助けたい万引き癖のある男など、出てくる人々の造形は、ユニークでありつつ、それぞれに生きにくさや世の不条理を写し取ってもいます。独立して見えるエピソードが少しずつ関連を持っていることも興味を引きましたが、いずれも対象から距離をとった描き方のせいなのか、グッと引き込まれるというまでには至らず……。種明かし的になる必要も、ことさらエモーショナルになる必要もないですが、もう少し、話の展開以上の会話の奥行き、ドラマを楽しみたかったとも思います。

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