ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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川辺市子のために

川辺市子のために

チーズtheater

サンモールスタジオ(東京都)

2024/02/03 (土) ~ 2024/02/12 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

吉祥寺で『ヘルマン』を観た際、挟まれていたチラシを読んで気になった。チケットを取ろうと思ったら全公演完売。何か妙に観たくなってキャンセル待ちに申し込んだ。主演の大浦千佳さんが「もう絶対に今後この役をやることはない」とツイートしていたのも一因。運良くキャンセル待ちでチケットが手に入ったが当日はまさかの大雪。「不要不急の外出を控えて」の気の滅入る悪天候。いや逆に凄い作品が観れるチャンス、とばかりサンモールスタジオはガチガチの超満員の客で溢れ返った。素晴らしい熱演をたっぷりと味わい、階段を上ればサンモールの外はガチガチの積雪。ズボズボ靴がめり込んだ。

映画は観ていないので比較は出来ない。劇団の主催自ら監督して映画化、主演に杉浦花さん。
川辺市子役の大浦千佳さんに妙に見覚えがあったが、『柔らかく搖れる』のシンママだった···。凄い振り幅。
語り口が面白い。失踪した一人の女性を巡る、各年代の知人達の回想録。刑事がそれぞれが知っている限りの川辺市子のエピソードを語らせていく。その断片的な話を元に観客は不在のその女性について想像を巡らせる構造。
サンモールスタジオの狭いステージの中心に畳4枚程を組み合わせたスペース。周囲を椅子が逆L字型に囲み、証言者達が座る。
相対するようにL字型に配置された客席、観客はそれぞれの記憶が再現されていく様を息を潜めてただ見守る。通路さえ物語の重要なステージに。

非常に映画的。半纏をすっぽり被って声しか聴こえない大浦千佳さんがしゃがみ込んでいる。その登場シーンからゾクゾクする。「川辺市子は嘘つきだ」との証言や語る人によって状況が食い違う出来事。嘘をついているのか記憶違いなのか妄想なのか?結局のところ、真実は判然としない。煙のように残像のように川辺市子の断片が煌めいては瞬いて、そしてふっと消えてしまった。

驚いたのは刑事役の男。寺十吾氏っぽいなあ、と思っていたら本人だった。ありとあらゆる演劇の重要な役は全部寺十吾氏が司る決まりなのか?マジで驚いた。

平山秀幸監督の名作『愛を乞うひと』や阪本順治監督の傑作『顔』、たっぷりと漬け込んだ今平風味の下味。そして物語を彩るのは甘酸っぱくも激しき痛みの走る恋心、どうにか自分がしてあげられることがほんの少しでも何かきっとあるんじゃないだろうか?何一つ出来やしない無力な男が陥る勘違いの妄想、誰にも益しない醜い純情。周囲にそんな情念を呼び起こす魅力的な女の一代記。
だが彼女が本当に心から求めていたのは無記名の穏やかな日々、ありきたりな単調に繰り返される毎日でしかなかったのに。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

1987年生まれの川辺市子が2015年8月に失踪してしまう。戸籍上では川辺市子なんて女は存在しない。川辺月子という1990年生まれの女はいるのだが。
東大阪市にある同じ団地の幼馴染、平井珠生さんは「市子が小学校に入って来ず、3年後月子として入学してきた」と語る。同級生で仲良くなった花村柚祈(ゆずき)さん。
エロエロな母親役の田山由起さん、家に入り浸り嫌らしく手や足の指をチュパチュパ舐め回す情夫の奥田努氏、名演出。
初めての彼氏、植田慎一郎氏と片思いを拗らせてつけ回す朝田淳弥氏。パティシエを目指す新聞配達員、きばほのかさん。間違い電話から市子と巡り合い同棲することになるサトウヒロキ氏。

女性の語る川辺市子のエピソードはリアル。きばほのかさんの話なんか展開が巧い。逆に男性陣の話は作り物めいていて、どうもマンガっぽい。後半の展開に無理があり、ちょっと勿体無くもある。
だが、「何でもないような事が幸せだったと思う」的な余韻は美しい。冒頭とラストに繰り返される恋人達の日常会話。無意識に過ごしていた生活の中に散りばめられていたかけがえのない優しさ。

※コメント有難うございます。自分もかなり観劇の参考にさせて頂いております。
兵卒タナカ

兵卒タナカ

オフィスコットーネ

吉祥寺シアター(東京都)

2024/02/03 (土) ~ 2024/02/14 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1940年(昭和15年)11月、スイス・チューリッヒにて初演。内容に日本大使館が抗議を入れた。ナチスに弾圧されスイスに亡命したドイツ人劇作家、ゲオルク・カイザーの作品。この5年後に亡くなっている。

1920年(大正9年)、歩兵連隊に入隊したタナカ(平埜生成〈ひらのきなり〉氏)は親友のワダ(渡邊りょう氏)を連れて東北の故郷の村へと帰省する。妹のヨシコ(瀬戸さおりさん)との縁談を進める為だ。極貧の村では英雄である軍人の帰還に大いに沸き立つ。母親(かんのひとみさん)、父親(朝倉伸二氏)、祖父(名取幸政氏)。ありったけの御馳走と酒と煙草を用意して待っている。

衣装や小物など、異国の人間がイメージした日本というコンセプト、ジャパネスク風味。
中国映画、『南京!南京!』にて南京入城の儀式の際、兵隊達が奇妙な踊りを舞いながら行進していく場面がある。それを中国人捕虜達は無言でじっと眺めている。このシーンには大日本帝国という奇妙な国と天皇を崇め奉る祭祀的国家のグロテスクさが炙り出されている。理性では如何ともし難い異様な精神の視覚化。良くも悪くも他者から視えた日本人。
今作もドイツ人の目線で異世界、日本を眺めているようだ。
天井から降りてくるピアノ線に括り付けられたフックに荷物を引っ掛ける。『母 MATKA』でもあった光景。
宙空に浮かぶ球体は国体か?

配役はこまつ座を観ている錯覚に陥る程、揃えてきた。
平埜生成氏は前園真聖やロンブー亮にも似ていて、カッコイイ。観兵式に立つことを許された誇り。
渡邊りょう氏もいい味、名助演。タナカの人となりが伝わる。
瀬戸さおりさんは綺麗だな。泣かせてくれる。
朝倉伸二氏は梅沢富美男みたいで盛り上げる。
かんのひとみさんはもう何をやっていても正解。

素直で従順で上から言われたことに黙って従い、真面目に役割をこなしてきた立派な人間。その行き着く先が非人間的なこの世の地獄。タナカの叫びが耳をつんざくラスト。この支配体系の中で誠実であることに一体何程の価値があるというのか?

これを1940年に日本人に叩き付けたゲオルク・カイザーの恐ろしさ。間違った支配構造を正すのは個人の魂の叫びだけだ。
キャッチコピー「衝撃の最後の5分間!!ネタバレ厳禁!!」
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

第三幕、軍法会議の裁判長・土屋佑壱氏のステップや振り付けをコミカルに取り入れた役作りは観客大喝采。アイディアがずば抜けている。
職員の村上佳氏が突然エレキギターを取り出して掻き鳴らす演出も効いている。しかもやたら巧い。
第二幕の永野百合子さんは娼妓5人を兼ねて舞う。今作の振付も彼女。不思議な時間だった。

凄く古典的な物語なのだが深く考えさせる重みがある。テーマは『個人(=国民)と天皇(=国家)』。本当は一幕ものでテンポよくぶった斬った方が受けただろうが。

※昭和天皇(摂政宮)の左手はステッキなのか独特の手の振り方からなのか。
夜は昼の母

夜は昼の母

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2024/02/02 (金) ~ 2024/02/29 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

難解。
こういう作品を心から楽しめる人こそが演劇愛好家なのだろう。自分なんかは解読しようと悶々としてしまうので楽しめはしない。だけど役者陣はヤバかった。山崎一(はじめ)氏はもうジャック・ニコルソンに見えた。今、日本で一番金の取れる役者じゃないだろうか。生の彼を目撃する為だけに足を運ぶ価値は充分にある。凄い男。もう原作なんて吹っ飛ばして全ては山崎一氏の夢だった、で良かった程。いろいろ思い返そうとしても山崎一氏しか出て来ない。記憶まで侵食されているのか!
騙されたと思って観てみて欲しい、本当だから。

岡本健一氏はキムタクに見えたり、森田剛に見えたり。今更なんだがいい役者だ。16歳の糞ガキ役で誰にも文句を付けさせない。こういう才人が客を呼び集めることで先に繋がる文化は必ずある。(この手のガチガチの作品が全公演前売り完売とは日本は演劇先進国である)。
竪山隼太(たてやまはやた)氏はやたら人気がある。常に怒り狂っている。
那須佐代子さんはいるだけで作品の格が上がる。何かもう凄いレヴェルにまで来てる。
革命前夜の雰囲気。何かの拍子でこの小劇場から、世界に向かって切り付ける新しいタイプのナイフが勃発しそうだ。それにはまだ見ぬ全く新しい価値観と全く新しい観客が必須。面白いことになりそうだ。

ネタバレBOX

スウェーデンの作家、ラーシュ・ノレーンの自伝的作品。
辺鄙な場所にある客の来ないレストラン。(設定ではホテルらしいが、そうは見えない)。
16歳の誕生日を迎えるダヴィドは引き籠もりニートの女装ホモ野郎、ジャズを崇拝し何百枚ものレコードを万引きした。家族の恥さらしと散々な罵声を浴びて日々を生きる。
兄のイェオリはこんな家を出たくてしょうがない。サックス(中嶋しゅう氏の遺品!)を吹きまくる。
母のエーリンは左の肩の筋を違えてからというもの酷い咳をゴッホゴッホし続ける。借金塗れの生活、ひっきりなしに働き続ける。
父のマッティンは腕の立つ料理人だが、病的なアルコール依存症。精神科に強制入院させられた事もある。癖のような不快な咳払い。

ラジオから流れるアメリカの死刑囚キャリル・チェスマンの死刑執行と阻止運動の模様。深夜に生中継される自転車耐久レースを観たくてたまらないダヴィド。

多分、作家が自分の少年時代を思い返している。思い出しながら、いろんな記憶にカッとなってナイフで切り付けたり。自分の記憶の筈が登場人物一人ひとりの記憶が混線しそれぞれ勝手気ままに喋り出す。収拾のつかない記憶の掴み合い。全員ぶっ殺して自分も死んじまえればいいのに。自分の記憶なのか、誰かの記憶に取り込まれたのか。皆が「家を出て行く!」と罵り合う。酒を一口喉に流し込めさえすれば嫌な事皆何処かに消えて行ってしまう。後のことはその後にゆっくりと考えよう。とにかくここを何とかやり過ごして酒を一杯。

※『シャイニング』で凍死したジャック・ニコルソンが映画のラスト、何十年も前の記念写真に写っている感覚を山崎一氏に感じた。
逢いにいくの、雨だけど

逢いにいくの、雨だけど

スーウェイ

小劇場B1(東京都)

2024/01/31 (水) ~ 2024/02/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

A CAST

横山拓也の代表作ともなれば、そりゃ観てみたいもの。タイトルも詩的で煽情的。
だがいざ観ると、ただただ鬱になった。オリジナルを知らない所為なのか、何か綺麗な巧い話には成り得ていない。個人的にはひたすら鬱。
「受け入れてやっていくしかないじゃない!」

オリジナルは2018年11月初演、2021年4月再演。
勿論脚本の完成度は高く、是非とも一度は観るべき作品であることは間違いない。(佳乃香澄さんは浜口京子っぽかった)。

子供の頃、左目を失明してしまう男とその事故に一端の責任を感じている女の物語。事故の起きた1991年夏と今現在の2018年冬が同時進行で語られる。

BUCK-TICKの名曲、『RAIN』が頭の中で鳴る。

Sing in the rain. 人は悲しい生き物
笑ってくれ 君はずぶ濡れでダンス
いつか世界は輝くでしょうと 歌い続ける

ネタバレBOX

子供達が通う絵画教室の夏休みキャンプ。母の形見の大切な宝物のガラス製のペン。それをふざけて取り合いになった女の子と男の子。もののはずみで左目に突き刺さってしまう。絵が上手で褒められてばかりいた男の子は失明し、両親は離婚する。男の子は義眼を嵌めて27年後の今では自動販売機の営業に就いている。野球場に営業に来た際、彼(武谷公雄氏)の義眼にいち早く気付く職員(関洋甫〈ようすけ〉氏)。職員もまた右目が義眼だったのだ。共通点から気を許し合った二人は年賀状の遣り取りをするまでに。彼から送られて来た羊のイラストが子供の読んでいる、賞を取った絵本のキャラと同一であることに気付く。その作家にコンタクトを取る職員。人を失明させた上、彼の生み出したキャラクターまで奪い去るつもりなのか?

母を早くに亡くし、叔母に育てられた女の子。事故が原因になったのか、父親も家を出て行った。美大を出てからも焼肉屋で働きながら絵本を描き続ける。到頭新人賞に選ばれ、出版が決まった。彼女(はやしききさん)をずっと支え続けたマネージャー的存在の後輩(佳乃香澄さん)。そこに届く職員からの手紙。事故で失明させた友達との27年ぶりの再会。無意識に彼の創った羊のキャラを使用していたこと。

女の子の父親(三澤康平氏)と男の子の母親(土田有希さん)は大学時代からの親友であった。自分の女房が昔からの男友達と親密にしていることがどうにも気に喰わない旦那(山村真也氏)。しかも今回の事故で自慢の息子が片輪者に。

早逝した姉の娘の面倒を見続ける妹(領家ひなたさん)。姉の夫への秘めた恋心。二人がきちんと結婚して娘を本当の親として育てることが正解だと思っていた。

誰の想いも空回り。全く思惑と現実はリンクしない。
ブルーハーツの『青空』みたいな気分。

こんな筈じゃなかっただろ?
歴史が僕を問い詰める
眩しい程、青い空の真下で

MVPは武谷公雄氏、若き日の役所広司と佐々木蔵之介を足したような雰囲気。まるでぼんやりと佇んでいるような、どこぞでたゆたっているような存在感はまさしく文学。彼がこの27年間で培ってきた内的世界に登場人物や観客が触れることこそがこの物語の核心。どうしようもない事故の結果、大きくずれていった世界と自分の行き先。誰を恨み誰を憎み誰に何を伝えようか?

三澤康平氏はteamキーチェーンの『雨、晴れる』でのトランスジェンダー役が鮮烈。今回もその清潔感と女性の親友との関わり合い方にそっちの要素も仄めかしているのかな?と思った程。誰もが亡き妻の妹と一緒になった方がいいと思う展開の中、それを拒絶して別居する頑なな姿勢がやたらリアル。本当は何を考えていたのか?本当はどういう人だったのか?作品の謎として残る。

領家ひなたさんは亡き妻の妹、自分の二十代を姪っ子の世話に捧げた。この人のキャラが痛烈。余りに痛々しくて落ち込む程。世界は優しさだけで出来ている訳じゃないんだ。何一つ思ったようにいかない世界に打ちのめされても···、それはただただ続いていく。ラストの受話器を手に取る表情が映画だった。

土田有希さんは複雑な役で領家ひなたさんと対になる設定。どうしようもない現実に向かって叫ぶ。「受け入れてやっていくしかないじゃない!」
ラスト、息子である武谷公雄氏からの電話を受け取った時の表情。それはもう誰も共有することが許されない、彼女だけの想い。
「彼女、僕のこと不幸だとでも思ってんのかな?」

疑問が残るのがキャスティングの年齢的なもの。当時の父母の年齢を越えた子供達が、今だからこそ理解できる各々の複雑な気持ちと、醸成熟成された痛みこそが本作のテーマだろう。その為の27年間の隔たりな訳で、年齢を感じさせることが重要だった筈。幾つに見えるようにするべきか役作りを徹底した方がいい。

ある戯曲を別の劇団が演るということは曲のカバーに近いと思う。何か本来の作品とニュアンスが違ってしまっているようにも感じた。(勿論その良さもある)。
岸辺のベストアルバム‼︎

岸辺のベストアルバム‼︎

コンプソンズ

小劇場B1(東京都)

2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ずっと前から東京AZARASHI団を観に行った際、星野花菜里さん関係でチラシが挟まれていた為、気にはなっていた。昨年チケットを購入していよいよ観に行く筈が事情があって行けなくなった。そして到頭今回観ることに。何故かメチャクチャ人気がある。開演前から行列、超満員完売。

笑いのセンスが自分好み、出ている役者も実力派揃い。キャスティング・センスも冴えてる。

春雨(はるれいん)というふざけた名前の女性(波多野伶奈さん)が書いた片思いの妄想ノート。彼女の妄想世界が展開される。そこに現れるジャスティン・バービーというふざけた名前のイマジナリー・フレンド(端栞里さん)。彼女にはやらなくてはならないことがあった。
「南極ゴジラ」の端栞里さんはルックスと使い勝手が良いのか売れっ子に。

子供をバスに乗せ幼稚園に送る同い年の三人の母親。偶然にも全員、子供の名前がソウ。しかも夏子(西山真来さん)、千秋(佐藤有里子さん)、冬美(笹野鈴々音〈りりね〉さん)と季節の名前を持つ。子供達が「地獄に送られる」と泣き叫ぶのが最高。
佐藤有里子さんは存在だけで超面白い。陰謀論者。
西山真来(まき)さんの佇まいも素晴らしい。
笹野鈴々音さんは鵺的の『バロック』が強烈な印象だった。
「人妻JK魔法少女りりちゃん!」

歌舞伎町でホストクラブを立ち上げた大宮二郎氏、スポンサーの星野花菜里さん、アドバイザーの近藤強氏、新人の藤家矢麻刀(やまと)氏、ドキュメンタリーを撮影している宝保里実さん。ダークマン機関?だかなんだかの歌舞伎町地下の鼠王国だかなんだか。
近藤強氏の宮台真司ネタが痛快。「いきなり脱構築か!」

カフェの店員、佐野剛(つよし)氏が個人的MVP。知り合いにかなり似ていて驚いた。ウィレム・デフォー系。

笑いの方向性が最高。星野花菜里さんは久々に観たが間違いない。

ネタバレBOX

幼稚園のバスの事故で子供達が皆亡くなってしまう。
14歳で少女二人を惨殺した少年A(酒鬼薔薇聖斗をイメージ)。彼を英雄視し、恋する波多野伶奈さん。
少年Aの幼少時のイマジナリー・フレンドで彼を救おうとする端栞里さん。
セーラームーンの全滅トラウマ・ラストが伏線に。

前半は最高で興奮しっ放しだったが長丁場でダレたか徐々に失速し、定型文的な納まり具合には残念。前半の話の狂いっぷりはヤバかった。

ネタはメタフィクションもので、何か最近はどこも同じようなものばかり。もうネタがないのか?創作の中の登場人物が作者から創作を乗っ取っていくような話。
筒井康隆の1981年刊行の『虚人たち』という実験小説があって、登場人物は皆、自分達が虚構の創造物だと知っている。作家の思惑を類推しながら、自分が与えられた役割を何となくこなしていく話。勿論誤解も多々あるが。
そしてこれを踏まえて映画化したような作品が黒沢清の『ニンゲン合格』で、事故で10年間意識不明だった西島秀俊の目が醒める。空白の10年は取り戻しようがなく、ラストまた事故に巻き込まれて死んでいく。最後を看取る役所広司に西島が尋ねる。「果たして俺という人間は存在したのか?」と。役所広司は答える。「確かにお前という人間は間違いなく存在していた」と。これはたかだか2時間の映画という虚構の中で、現れて消え去る登場人物の渾身の存在証明。役所広司が観客に伝えたことは「たった2時間の作り話だったにせよ、確かにお前は存在していた。お前の痛みや悩みや苦しみも確かにここに在った。それは間違いのないことだ」ということ。2時間のフィルムの虚構空間の中で確かに生きて存在していたのだ。

『ミッション: 8ミニッツ』という傑作映画があって、ここが仮想世界であることを知った主人公が現実を騙してそこで生き続けることを選ぶラスト。きっと方法はまだ幾らでもある筈。
短編3傑作

短編3傑作

Nana Produce

テアトルBONBON(東京都)

2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

昨年の『いごっそうと夜のオシノビ』がメチャクチャ面白かったので期待大。だが今回は毛色が違っていて笑いは薄い。どちらかというと考え込ませて鬱になる系。だとしたらもう少し深く掘り下げるネタでもあった。ちょっと今回は作品の並びのチョイスが違った気がする。

プロジェクション・マッピングが痛快で見事なものだが、ちょっと邪魔な気もした。役者の顔に投影が被るのは残念。

「日本テレビスポーツのテーマ」でスタート。ジャイアント馬場の入場曲でもあった。
①『さらば鎌玉』
4年付き合って別れた二人、日澤雄介氏と原幹恵さん。最後に引越し先として鎌玉駅徒歩10分のマンションを案内するが···。
劇団チョコレートケーキ演出の日澤雄介氏は宇崎竜童みたいな情けない不動産会社社員を好演。原幹恵さんは豪華。未練タラタラ、よりを戻したい男とそんな気はさらさらない女の一幕。

②『人の気も知らないで』
OLの留奥(とめおく)麻依子さんとやまうちせりなさんがお茶している。同僚の結婚披露宴での余興の打ち合わせをする為、上野なつひさんが到着するのを待っている。後輩が事故に遭って入院中。話は段々と建前と本音の境界を踏み越えて個々の人生観の核心を刺激していく。
留奥麻依子さんは天海祐希みたいで表情で笑わせる。
やまうちせりなさんは奥貫薫っぽい花粉症。
上野なつひさんは有賀さつきみたいな迫力。

③『仮面夫婦の鑑』
浜谷康幸氏と増田有華さんの夫婦が派手に喧嘩。「炎のファイター~INOKI BOM-BA-YE~」(「ALI BOM-BA-YE」)が掛かって、卍固めまで繰り出す。
二人の喧嘩の原因は果たして何なのか?

ネタバレBOX

②のネタが重すぎる。事故で右腕を肘から切断の同僚についての話題。他人の不幸は所詮他人の不幸でしかない現実。自分自身で自分の問題と向き合うことだけしか人には出来ない。他のことは所詮は綺麗事だったりもする。

③は顔にコンプレックスがあった増田有華さんが勝手に整形してしまう。旦那も対抗して整形するがわざとちょっと不細工に。旦那の父親の容態が悪いのだが、この二人で行っても何処の誰だか判らないだろうというネタ。

後篇では妊娠して出産間近の増田有華さんがバイトでヌードモデルをやり、近所の喫茶店に絵が飾られていることに激怒する旦那。

全体的にどうもスッキリしない流れ。面白いんだが笑えはしなかった。
アンネの日

アンネの日

serial number(風琴工房改め)

ザ・スズナリ(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

石原燃脚本、東京演劇アンサンブルの傑作『彼女たちの断片』を思い起こさせる。全ての登場人物の人生が徐々に重なり合って協奏曲となり、共通項である“生理”を入口とした女性論、人間論が紡がれる。それぞれの初潮を迎えた時のエピソードから、それを人に伝えた時の気持ち、その時の相手の反応。女性だったら誰もが抱え隠し持つ経験。人によって歓びだったり痛みだったり恥辱だったり優しさだったり。

初潮から閉経まで女性の生理期間を日数として数えると、最大にして9年間だと語られる。女性の一生の内、9年間は生理中だということ。男性には想像もつかない。
かつて中米の人と結婚した知り合いの女性が、高地の生活環境での生理が重過ぎて帰国したことがあった。その時は「へえ、そんな辛いもんなんだ」位の感想だった。
自分にとって生理とは全く感覚的に掴めないもので、今回初めて知ることばかり。こういう教育こそ学校でやるべきだと思う。女性だけでなく男性こそ知るべきだ。皆こんな辛い思いを当り前に繰り返しているのか?

プラカードやスケッチブックをラウンドガールのように抱えたアンネ・ガールズの入退場、椅子と机をマスゲームのように配置していくスマートな演出。背景の壁は残雪の残る山の岩肌を思わせる。

アネモネコーポレーション生理用ナプキン開発部、サブリーダー、李千鶴さんは身体に害のないオーガニック(化学合成された成分を含まない製品)生理用品の開発を提言。突然の提案にリーダーの林田麻里さんは難色を示すも、ザンヨウコさん含め同期で未婚の女達が中心となり社内のコンペ企画に参加することに。

ツワッチ役林田麻里さん、見事にニュートラルな立ち位置で物語のバランスを担った。
ドイカナ役李千鶴さんの親友の死が物語の核となる。何故、そこまでオーガニックに拘るのか?
個人的MVPはタボ役ザンヨウコさん。この人が口を開くたび、客席がどっと沸く。幼い頃に親が離婚、父親と祖母に育てられた生い立ち。

鬼の企画部部長、オキョウさん役伊藤弘子さん。離婚して息子を育てている。更年期と閉経について語る。
コンノ役橘未佐子さん、母親に愛されなかったトラウマを、結婚して出産した今も抱えている。

エイカ役葛木英(くずきあきら)さん、好奇心旺盛なボーイッシュな化学者。初潮を教室で男子にからかわれたトラウマ。突然の謎の結婚に社内は興味津々。
企画部の若きエース、サヤカ役瑞生(みずき)桜子さんは永作博美みたいな清純派顔だが、かなり気が強そう。邪悪な役を観てみたい。
リオ役真田怜臣(れお)さん、本物のトランスジェンダー。整形なしで辺見マリ似のこの美貌。

勉強になった。
世の中、本当に知らないことばかり。

ネタバレBOX

生理とは果たして何の為にあるのか?
人間以外だと一部の猿や蝙蝠、ハネジネズミやツパイなどの哺乳動物にしか見られない。他の動物だと発情期の子宮内膜の充血だけだったりする。
月に一度、妊娠可能になった女性は受精の為に子宮内膜に厚いベッドを敷く。しかし受精しなかった場合、子宮内膜のベッドは剥がれ落ち、血液とともに子宮口から排出される。これがずっと繰り返される。
最近の主流になっている学説は受精卵選別説(子宮内膜には受精卵の状態を把握し見分ける能力があり、確実に子孫を残す為に子宮内膜を常に新鮮な状態にしているというもの)。

『アンネの日記』に記されている14歳のアンネ・フランクの綴った一節。「生理があるたびに(といっても、今までに三度あったきりですけど)面倒くさいし、不愉快だし、鬱陶しいのにもかかわらず、甘美なひみつを持っているような気がします。」
オランダ・アムステルダムでの隠れ家生活でこんな文章を書ける感性。
忌まわしき忌むべき穢れ、不浄、恥ずべき汚らしいことと長らく日本では禁忌化されてきた月経。
1961年(昭和36年)、27歳の主婦・坂井泰子(よしこ)さんが設立したアンネ株式会社。「アンネナプキン」(日本初の使い捨てナプキン)の登場は女性を解放し、日本を世界一のナプキン先進国とした。

RCサクセションの『いい事ばかりはありゃしない』の一節、
「月光仮面が来ないのとあの娘が電話かけてきた」
「月光仮面」の意味が「月のもの」だと知った時は驚いた。
「売春捜査官」

「売春捜査官」

Last Stage

シアターKASSAI(東京都)

2024/01/17 (水) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。
2017年8月、「なんかやる制作委員会」による『空想ペルクライム/Les Nankayaru』が中目黒キンケロ・シアターにて上演された。脚本・演出の花奈澪さんはウサギの縫いぐるみを頭に被り一言も喋らない。(確か口が利けない設定だった)。高校生の青春モノで、好きな男子が苦しみ足掻いているのを救う為にラスト飛び降り自殺する。(彼女の中では自分が犠牲になることで彼の苦しみが軽減すると信じている)。何か哀しくて病んだ純情が忘れられない余韻。
その時の好きな男子役・白柏寿大(しらかしじゅだい)氏が今回のゲストだった。185cm!!

面白い。色々と考えさせられた。吉田翔吾氏は凄えな。有無を言わせない。勿論、丸山正吾氏も名アシスト。青柳尊哉氏が人気あるのはよく分かる。
今作は照明がかなり重要で、ありとあらゆる工夫を凝らしている。素晴らしいセンス。プロフェッショナル。
長渕剛の『乾杯』っぽいSEだったり、音入れも興味深い。
花奈澪さんのジッポの火が点かなくて2回やってすぐに煙草の流れを放り捨てた判断力の速さ。そういうことだよな。正解を探すのではなくて、自らの動きで正解にする力。
「女は命令なんかで動かんよ。」

浜辺のシーンはThe ピーズの名曲、『日が暮れても彼女と歩いてた』を感じていた。

何にもいらない もう他にはいらない
彼女がまだそこにいればいいや
日が暮れても彼女と歩いてた
気がふれても彼女と歩いてた

ネタバレBOX

『熱海殺人事件』は昔、小説を読んで、仲代達矢の映画を観て、何が面白いんだかよく判らなかった。つまらない事件を捜査側が無理矢理壮大な大事件に仕立て上げるギャグぐらいに思い。舞台を岡村俊一版とカガミ想馬版で観て一応消化した気になる。もうこの系はいいだろう、と。(ただ、今思えば階戸瑠李さんの『熱海殺人事件~友よ、いま君は風に吹かれて~』を観なかったことが悔やまれる。彼女は翌年急逝し、それが最後の舞台となった。グラビアアイドルを演じながらもガチガチの役者馬鹿だった)。

当時観て思ったのはつかこうへい作品は観る側よりも演る側にビンビン来るんだろうな、と。狂おしく自らの内面を空っぽになるまでゲエゲエ吐き出さなくてはならない。内臓から腹の腑まで燃焼し尽くさなくてはならない。本当に自分の奥の奥まで曝け出すマゾヒスティック・ナルシシズム。自己啓発セミナーさえも思わせる方法論。全てを空っぽにした先にあるもの。全部自分を出し尽くしたあとに残るもの。

大山金太郎が上京して殺そうと思ったものは業〈カルマ〉だろう。自らの、そして生まれ育って見聞きし共同体に染み付いたもの。それを殺してしまわないことには自分は解放されない。無論殺したところで解放される訳もないことすら何故か知っている。それでもやらないわけにはいかない。それに対し李大全は愛した故郷から自死を求められた時、「愛してます!」と答える。憎むべき“業”に愛を告げる。“業”を心の底から抱きしめる。何となくつかこうへいの作劇の核が理解出来たような気がした。

※「アイちゃん、女ちゅうもんはそげん売春宿でもトップにないたいもんね?」という大山の台詞。
『仁義なき戦い 完結篇』で宍戸錠が演じた晩年の大友勝利の名台詞を思い出す。脳梅を患い更に兇暴化。
「牛の糞にも段々があるんでぇ。おどれとわしは五寸(ごっすん)かい!」
巻き糞の世界にも序列がある、という意味。しかもこれは宍戸錠のアドリブだそうだ。

大山は“弁償”という言葉に過敏に反応し、到頭殺しに至る。“弁償”という言葉に何が象徴されているのか?
「売春捜査官」

「売春捜査官」

Last Stage

シアターKASSAI(東京都)

2024/01/17 (水) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

部長刑事・木村伝兵衛を女性に据えた『熱海殺人事件/売春捜査官』。長崎県五島出身の在日朝鮮人・李大全が、上京した地元の娘達を集めて売春グループを組織している。そこで働いていた女性・山口アイ子が熱海の海岸で首を絞められて殺される。容疑者として逮捕されたのは五島から上京してきた大山金太郎、被害者の幼馴染。

木村伝兵衛に花奈澪さん。
彼女の昔の恋人、熊田留吉刑事に丸山正吾氏。
大山金太郎に吉田翔吾氏、飛び蹴り連発汗だくだく。
ホモ刑事・水野朋蔵に青柳尊哉氏。
ゲストに高田淳氏、この人もヤバかった。

前半は吉田翔吾氏の爆発的エネルギーに圧倒される。その猛スピードに振り落とされそうだ。
そして『熱海殺人事件』と言えば、浜辺の絞殺シーンの再現。勿論今回も凄まじい。花奈澪さんの表情の繊細な構築は文学だ。更に青柳尊哉氏の慟哭も鮮烈。観てるだけでくたくたになる魂の殴り合い。
中邑真輔の名言、「K-1とかPRIDEとかよく分かんねえけど・・・、一番凄えのはプロレスなんだよ!」何かそんな気分。この空間を体感できる喜び。
「我、孤立を恐れず、孤高に陥らず、その孤独を友とせん!」
「私に出逢って下さった全ての皆様、有難うございました!」

ネタバレBOX

演出のカガミ想馬(a.k.a.石部雄一氏)プロデュースでは、『熱海殺人事件 /ザ・ロンゲスト・スプリング』を観たことがある。浜辺のシーンの那海さんがまた凄かった。

※エンディングはYOASOBIの『祝福』。
すいません、どうかしてました。

すいません、どうかしてました。

大人の麦茶

新宿シアタートップス(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/01/17 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

テイストが高取英の『帝国月光写真館』。月蝕歌劇団の新宿スターフィールドの気分。80年代ソフト・アングラのガチャガチャしたムード。

堀江鈴(れい)さんと今川宇宙さんの親友女子の絡みは美しい。オープニングの歌も良かった。美声。東京ドリームユートピアに一緒に遊びに行く約束、大切なチケット。
「全部ある感じ!!」

華道家女子高生タレント役、川原美咲さんのファンが結構来ていて、調べたら元AKBだった。
寮母役、千代延(ちよのぶ)果穂さんのクライマックスでの熱演が光った。(寮母である彼女のことを「先生」と呼ぶのは変な気がした)。
クビになったスナックのママ役、わかばやしめぐみさんはやっぱジョウキゲンだよね。左耳のイヤリングが飛んでしまい、拾えないままシーンは進み、蹴られたり踏まれたり。ずっと注視していたが到頭拾えた時はホッとした。
校長先生役、若林美保さんのエアリアルシルクが炸裂。「ストレートプレイでも充分見せられる女優だな」と思っていたがここでこれを捩じ込むとは!初見の人はぶっ飛んだだろう。
デレデレ女刑事役、望月麻里さんも印象に残る。

奥谷知弘氏の夢の中、6枚のイラストの鯉が泳いでいる。裏返すと合体して一匹の巨大な鯉になる。このシーンが好き。

全体的に作風は好きじゃないんだが、不思議になんか後味が良かった。今作で退団する作演出の今川宇宙さんの好き放題にベテラン連中がノリまくっている熱気。今川宇宙さんはどこまで創造力のアンテナを伸ばせるのか試している感じ。若き才能、情熱を全肯定する姿勢が皆の原初衝動を呼び醒ましているのか。今川宇宙さんが皆にメチャクチャ愛されていることがよく分かった。

ネタバレBOX

山奥の全寮制女子高が舞台。40年前、永遠の友情を誓い合った堀江鈴さんと今川宇宙さん。だが堀江鈴さんは帰省すると一家無理心中に巻き込まれて死んでしまう。
そして現在、現実の陰惨な事件の無惨絵を描くことでバズっている死体画家「Quiet.」(奥谷知弘〈ちひろ〉氏)。両肩が重く色覚異常と線を引けない症状に悩まされ、今は絵が描けない。

華道家女子高生タレントとして活躍している川原美咲さんは学校を自分を憎み、降霊術を使って堀江鈴さんの霊を呼び出す。彼女を騙し、校長先生(若林美保さん)に乗り移らせて生徒一人ひとりの名前を呼ばせる。それに返事をした者は皆、異空間に飛ばされてしまう。捜査に来た県警も、果ては非通知で日本中無差別に掛かってくる電話に返事をした者達さえも消えていく。最終的には自分も異空間に消える無理心中的な霊的テロ行為だったのだが···。
(この呼ばれて答えてしまうネタは『恐怖新聞』の最終話を連想させる)。

自分の死体の絵を描いた「Quiet.」に興味を持ち、奥谷知弘氏の夢の中に会いに行く堀江鈴さん。親友と再会して自分の似顔絵を渡したいと考え、奥谷知弘氏に依頼する。

何でチンピラが数千万円持っているのか?何故県警の車まで消えたのか?日本中に電話を掛けたのは誰か?何で初心者霊能者(五味未知子さん)の説得で簡単に川原美咲さんは改心したのか?突っ込みどころは無限にある。だが亡霊とおばちゃんとなって再会した親友二人の会話がオープニングにループする辺りが素晴らしくてどうでもよくなる。東京ドリームユートピアに行くのは来世でもいいんだ。絶対二人で行こう。
「全部ある感じ!!」
東京物語

東京物語

松竹

三越劇場(東京都)

2024/01/02 (火) ~ 2024/01/26 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕60分休憩25分第二幕80分。
2012年1月初演、2013年7月再演。
山田洋次92歳!二代目水谷八重子84歳!
皆高齢だからコンパクトにまとめるだろうと勝手に思っていたが、ガチガチの作風。夢の世界の住人である監督やら役者やらは老いることを知らない。皆もう一度全盛期が訪れるのではないかと思う程のエネルギー!
2013年11月、新橋演舞場で公演した中村勘九郎、今井翼、檀れい主演の『さらば八月の大地』。幻の満映を舞台に狂おしき映画への情熱を描き、小津安二郎愛に溢れていた山田洋次。(あの時の檀れいさんの美しさは未だに筆舌に尽くし難い)。
オリジナルの『東京物語』は小津安二郎52歳、笠智衆49歳、東山千栄子62歳、原節子32歳の陣容。大体日本映画オールタイム・ベストをやると『東京物語』、『七人の侍』、『浮雲』と相場は決まっている。この全人類共有の無常観をどう調理するのかとくと拝見。

ある意味主人公の石原舞子さん(長男の嫁役)が素晴らしかった。三雲孝江を思わせる上品な町医者の奥さん。拘りの舞台美術を背にしたその所作で作品世界を肌感覚で観客に提示。幕が上がると時代も空間も飛び越えて昭和28年の居間に放り込まれる。

話は至ってシンプル。戦争の傷痕もかなり復興し、広島の尾道から年老いた夫婦(田口守氏と水谷八重子さん)が息子夫婦(丹羽貞仁氏と石原舞子さん)のもとを訪ねて上京。特に要件などなかったが、忙しい子供達は厄介に感じて余り相手をしてやれない。夫婦の感じる疎外感。

美容院を経営している長女役、波乃久里子さんがまた巧い。オリジナルでは杉村春子の演じた役を田中眞紀子っぽさもある女傑風に盛り上げてくれた。旦那役の児玉真二氏も最高。
戦死した次男を愛し続けてくれるヒロイン瀬戸摩純(ますみ)さんも見事。
長男の医者、丹羽貞仁氏がまた絶品。結局誰も何も悪くないことを的確に表現。誰も何も悪くない世界で感じるこの痛みの元は何なんだ?

一番、『東京物語』で好きな台詞は「じゃ、しなくたっていいんだね、勉強しなくたっていいんだね。あ〜楽チンだ、あ〜呑気だね。」だったので子役二人の演技には大満足。山田洋次は分かってる。どうでもいいような子役の立ち居振る舞いこそが心臓部だってことを。
赤星東吾君、平山正剛君にリスペクト。

水谷八重子さんが瀬戸摩純さんの狭いアパートに泊めて貰って帰って来る。「東京に来て一番楽しかったわ。」と皆に笑顔で語る。このシーンは必見。受ける共演者も涙ぐむ程の名演。これこそ今作の肝。
田口守氏は笠智衆よりも志村喬っぽい味付け。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

『東京物語』はいろんな特集上映や名画座のオールナイトに組み込まれる為、観たくもないのに散々観てきた。『丹下左膳余話 百萬両の壺』、『鴛鴦歌合戦』、『柳生武芸帳』(第一部だけ)、この辺は始まるともう憎しみすら覚えた。(共感してくれる人もいる筈)。『激殺! 邪道拳』とか『恐怖奇形人間』とか何周も廻って好きになったり嫌いになったり。

ラストはやはり山田洋次のサービス精神。そこが小津との境目。小津作品の場合は何もかも失くなっていく、消え去って行く様を当たり前のように描く。山田洋次はそれじゃ物足りない。「今が一番幸せだよ。」と言わせる。評論家受けは悪いだろうが、山田洋次ファンとしては納得。褒められる為に作品を創っている訳じゃないんだ。
欲を言えばもう一度、『男はつらいよ』を作って貰いたい。令和の今に全く通用しないのかも知れないが、山田洋次の笑いのセンスをぶつけて欲しい。今の時代に“寅さん”は輝けるのか?
散々な天災や事故、周囲に降り注ぐ不意の死の訪れ。自分の無力さに誰もが打ちのめされる今こそ。

ただ生きる 生きてやる
地上で眠り目を覚ます
エイトビート エイトビート
エイトビート エイトビート

ただ生きる 生きてやる
呼吸をとめてなるものか
エイトビート エイトビート
エイトビート エイトビート

ザ・クロマニヨンズ 『エイトビート』
√オーランドー

√オーランドー

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2023/12/22 (金) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ヴァージニア・ウルフの『オーランドー』のダンス化と言われても何が何やらさっぱり。ロビーに飾られた『オーランドー』の作品内年表やら何やらをチラ見して「つまらなそうだな」と身構えた。頭でっかちな芸術風味の下らない時間稼ぎをしたり顔で満喫するのは御免だ。そんなものはブランドしか判断基準のない連中の領分。自分の頭で物を考えることを放棄した奴等の末路···、なんて杞憂に終わり、普通に面白かった。

中村蓉さんの挨拶からスタート。後ろに投映される『オーランドー』の序文をパロディにしたような前口上。そこに軟体動物のような動きを繰り返す役者が登場。するとその様子を実況説明し始める役者が現れる。更にその実況している者の動作を実況し始める別の役者。更に···、とメタ的に十数人が誰かの実況をし続ける。一人の女性がダンボール箱から白い紐を取り出し、それにぶら下げた分銅を揺らす。バックでは『オーランドー』の章が進んでいく。凍った池の上でアイススケート。ユーミンの「BLIZZARD」で皆で踊る。そこに中村蓉さんが再登場。照明トラブルの為、一時中断とのこと。始めからやり直すので休憩に。「さっき私凄く噛んじゃったのでもう一度やらせて下さい。」観客笑って大拍手。これで場の空気が和み、時間を置いて再開。遣り口が分かってきたので楽しみ方も準備万端。役者達は振付から動作から先程と変えてみせた。『オーランドー』をパラパラめくっていくように進んで行く。筋ではなく世界観を味わうようなスタイル。

中野亜美さんのスーパーマリオ・ジャンプが炸裂。新聞売りの少年だったり、勲章を追い掛ける群衆だったり。川島信義氏との「価値観の違う二人は一緒に暮らせるのか?」という対称舞踏がとても良かった。

小津安二郎の『晩春』、笠智衆が原節子に説教をする名シーンの音声が延々流れる。「幸せは待っているもんじゃなくって、やっぱり自分達で創り出すもんだよ。」

ヨガのポーズを取りながら延々マイクを持ったインタビュアーに答え続ける女。男から女に性転換する際の3人のチアガール。二人羽織。詩を書き綴る。工夫を凝らして飽きさせない。原作を知らなくても楽しめる。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

何故か開演前、延々坂本龍一の曲がかかっていた。
天使の群像

天使の群像

鵺的(ぬえてき)

ザ・スズナリ(東京都)

2023/12/21 (木) ~ 2023/12/29 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

女優・堤千穂さんの新境地!ほぼすっぴんで新しい教師像を生み出した。いつも斜め上の虚空をぼんやりと見つめる新任女教師。このキャラクターは大いに魅力的でずっと観客の脳裏にこびり付くことだろう。彼女を観る為だけでも今作に価値はある。

野花紅葉さんは少女漫画のキャラそのもののルックス。小松菜奈に見える位、異様に美しかった。もう矢沢あいとかの描くイラストだ。

森田ガンツ氏は名助演。“カントリーマアム”。
函波窓氏もきっちり高校生になっていた。
佐瀬弘幸氏は『デラシネ』の大御所脚本家と同一人物だと誰が信じる?
寺十吾氏は狙い澄ました通り。

かなり凝ったセットで舞台美術の荒川真央香さんは大変だったろう。斜線が織り成す幾何学的なステージ。床も水平ではない。下手に斜めに走る鏡の壁、奥に透過率を変えたハーフミラー、照明が映し出す格子の影。心象風景の視覚化、何処までも記憶とイメージの世界。照明の阿部将之氏の苦労。客席の前の空間に椅子を並べ出演者達が座ってステージを観ている。相当実験的な作劇。
音響作家・北島とわさんの構築する音が不安を煽り続ける。水の滴る音、何かを叩く音、不快なノイズ音が居心地の悪い空間に木霊し、無意識に潜む記憶を引きずり上げる。

学校が大嫌いだった主人公は勤めていた会社が潰れ、一応持っていた教員免許で高校の臨時的任用教職員に。不登校になった男子生徒に責任を感じて担任は休職中、そのクラスを代理で受け持つ。今では教師はハラスメント対策で常に発言を慎み、スクールカウンセラーにスクールロイヤーが常備。カウンセリングを希望するのは心の病んだ教師達ばかり。病んだ教師と病んだ生徒、病んだ保護者に囲まれて主人公はますます学校が嫌いになっていく。

堤千穂さんに尽きる。これを見逃す手はない。終わり方は大好き。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

開演前から堤千穂さんっぽい人が舞台にいる。始まって声を聴いて、なんだ違う女優だと思った位別人。今迄の美人女優的な役回りは全てかなぐり捨てて臨んだ今回の役は新しい扉を開いたよう。全体主義に支配された学校というシステムが大嫌いな、やる気のない教師。いつもここから消え去ることを夢想。

同じくラストに到頭現れるモンスターペアレント、寺十吾氏。彼だろうと思っていたが、声を聴いてどうも違うなと判断した程、別人。帰りに配役表で確認した。この男の設定も凄い。自分と学校との関係性を半生から語り出す。この歪んだ思考回路、捩じ曲がった劣等感、幼稚な判断能力、まさに今この世に実在する一人の人間、一つの短篇小説のような重さ。周囲に思い当たる人は沢山いるだろう。怒涛の人物造形に感服。

人を傷付けないように、嫌われないように、無言で要求される「いいひと」を演じ続けることに疲れ果ててしまった生徒達。「本当の事」を口にすれば皆に怒り嫌われ疎外され糾弾されることだろう。沈黙の暴力の中で一つの価値観に屈服されていく群像。何処かに消えてしまうしかないのか。

主人公の大好きだった小学校の担任の先生(ハマカワフミエさん)、突然何処かに蒸発したっきり、今では主人公の心の中にいる。「ありのままでいいよ。あるがままでいいよ。間違っていてもそれはそれでいいよ。」主人公はそんな気持ちを一体誰に伝えればいいのだろうか?

不満点は脚本と演出が乖離している感じ。演出家がやりたいことが多過ぎてホンと噛み合っていないような。SEの入れ方なんかちょっと無理がある。小崎愛美理さんははち切れそうな衝動を自ら書くべき。どんな作品になろうと皆それを欲している。

失踪した村田君が主人公の心の風景に現れて欲しかった。勿論面識もなく誰だか分からないのだが、会話もないそんなシーンも欲しかった。

多分、失踪も自殺も作品内では同じ意味。もう自分の人生と関わることはないということの象徴。

この作品を観れたことは有り難い。こういう試みを全面的に支持。

吉水雪乃さんが眉間に皺を寄せる癖(役作り?)が多いのが気になった。勿体無い。
閻魔の王宮

閻魔の王宮

劇団俳優座

俳優座劇場(東京都)

2023/12/20 (水) ~ 2023/12/27 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

今作で描かれるのは日本で言うところの「薬害エイズ事件」。1980年代、厚生省と製薬企業5社は血友病患者に対し、ウイルスを加熱処理で不活性化していない非加熱製剤を流通させ、全血友病患者の4割をHIVに感染させた。製造元のミドリ十字は危険性が問題視されていたにも関わらず、在庫処理の為黙って捌き続けた。

1993年頃から1996年頃まで中国河南省(かなんしょう)政府が血液売買を奨励。同じ針を使い回し、血漿成分以外を体内に戻す際、複数人の血液を混ぜたものを使った。河南省の58郡において各平均2万人の農民が売血し、100万人近くがHIV感染。未だに住民の7割が感染して「エイズ村」と呼ばれる地域は数多い。そして残された100万人近くの「エイズ孤児」。

トンネルをイメージしたセット、三基の並べられた長机が道となっている。中央の長机は回転可動式。地獄へと続く地下鉄の線路内のイメージか。映画『エンゼル・ハート』では鉄の檻のような古めかしいエレベーターで地獄堕ちを表現していた。

目当ての清水直子さんはクライマックスで見せ場が待っている。地獄そのものの現実の中で、最後まで「なりたかった自分」になろうと藻掻く。地獄に光を照らす為に、自らを犠牲にする。「暗いと不平を言うよりも、すすんであかりをつけましょう」というカトリックの神父の言葉を思い出した。

滝佑里さんは久我美子を思わせる昭和美人。寅さんのマドンナなんか似合いそう。清楚で品格のある彼女が地獄に堕ちてゆく様が見所。

果たして幸せとは何なのか?カポジ肉腫の斑点が身体中を埋め尽くす。死を前に人は家族の幸福を願う。せめてお前だけでも幸せに生きてくれ。自分を犠牲にしてでも灯したい“希望”、それだけでも己の人生に何某かの意味があったのだと信じたかった人々の話。

ネタバレBOX

モデルとなった王秀平(ワン・シューピン)は感染症を専門とした医師で肝炎の研究者。1991年、河南省の血漿経済プロジェクトの一環で血漿収集センターへの勤務を命ぜられる。そこでC型肝炎の保菌者も採血され、他の血液と混合されていることを知る。更にコスト削減の為、使用済みの機器を再利用していることも。地元の保健当局に訴えるも無視された為、国の保健省に告発。C型肝炎の検査を義務付けることが決まるも職を追われる。1995年、血漿採取センターでHIVウイルスの陽性者を発見、感染率のデータをまとめる。公衆衛生当局が無視した為、再度保健当局に告発。産婦人科医・高耀潔(こうようけつ=ガオ・ヤオジェ)と共にエイズ予防啓蒙活動を行なう。現地のイメージを悪化させ、経済発展に悪影響を及ぼすとして当局より圧力。王秀平は度重なる妨害工作を受け、2001年に米国に移住。
2003年、到頭中国政府が公式にエイズ患者の存在を認めた。高耀潔は河南省で輸血によってHIVの感染が広まっている事実を公表しようとした為、自宅軟禁状態に。2009年米国に亡命。
2019年、王秀平はロンドンで開幕予定の今舞台の制作に関わっていた。中国当局からの圧力が家族や友人に及ぶ。開幕の前月、突然の心臓発作で59歳で亡くなった。

一人が複数の役を演るのだが、ただの人手不足にしか見えない。何役も兼ねる意味がない。時間が足りなかったのか演出も練られていない。何とか形にしたような無理矢理さ、本当にオリジナルの脚本はこんな雑な物だったのか?

原題『地獄の宮殿の王』と閻魔大王はそぐわない。生前の罪を裁く裁判官のイメージ。この内容だと、「誰が地獄の王宮に相応しい人間か?」だろう。
abc 赤坂ビーンズクラブ

abc 赤坂ビーンズクラブ

エヌオーフォー No.4

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/12/13 (水) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

水野花梨(かりん)さんが3回目。
高橋紗良(さら)さんと竹内麗(うらら)さんが2回目。

コントとダンスとスケッチと歌のヴォードヴィル・ショー。毎回観ていくうちに嵌ってきた。

大学生の高橋紗良さんと片想いのチャラ男との恋愛話が細切れエピソードで続いていく。恋愛成就には唐揚げ!とリコーダーを吹く。

毎回定番の短編劇、更なる飛躍を求めて小劇団を辞めた元看板女優(美波花音さん)と劇団に残り守り続けた女優(高橋紗良さん)とのエピソード。無理を言って里帰りを果たした美波さんの行動にマネージャー(北村夏未さん)は心中苦々しい。小劇団の今作で女優業の引退を決めた高橋さんとの友情ともライバルともつかない愛憎こもった絆。

一番面白かったのは「死んでやる!」と会社を飛び出した友達を止めようとビルの屋上に上ったOL(北村夏未さん)、飛び降りようとしている女(森下結音〈ゆいね〉さん)を必死に止めるが全くの赤の他人であった。何とも言えない気まずさの中で培われる不思議な関係。

定番の歌とダンスが段々と観客に沁み込んでいく。

ネタバレBOX

水野花梨さんはパーフェクト・アイドル。
高橋紗良さんはツッコミの時の口上がたかみなソックリ。
竹内麗さんは軽辺るかさんに似ている。
森高菜月さんは日本武術太極拳の本物の選手で刀剣を使った演武が凄い。ド迫力の肉体美。
森下結音さんは国立音大生。
北村夏未さんは美人OL風。
美波花音さんはダンスが映える。
山田美空(みく)さんは19歳!
皆、売れて欲しい。
ガラスの動物園

ガラスの動物園

劇団銅鑼

銅鑼アトリエ(東京都)

2023/12/15 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

今年3月、山中透(ダムタイプ)+壁なき演劇センターの『ライト・オン・テネシー・ウィリアムズ』を観た。『ガラスの動物園』の再構築と作家の人生の紹介みたいな構成で非常に面白かった。それで気になった『ガラスの動物園』を到頭観ることに。
ステージは椅子とドア枠以外、全ての舞台美術、小道具がピアノ線で天井から吊るされている。小さな動物のガラス細工がゆらゆら揺らめき光に反射して美しい。電話やレコードプレイヤー、箪笥、花瓶など全て段ボールと木片の手作り、DIY精神溢れる。吊るす為に軽量化も考えたのだろう。パイプ椅子で四方を囲む形の客席。

会場でかかっているSEが気になった。レナード・コーエン、ニール・ヤング、エディ・ヴェダー系のアイルランド風味の楽曲、雰囲気がある。(ザ・ポーグスか)。

主人公のトムは中山裕斗氏。金城武とショーケンを足したような感じ。
母親のアマンダは大橋由華さん、顔立ちがのんに似ていて華がある。凄い量の台詞の大洪水。母親にしては若過ぎるが。
姉のローラは井上公美子さん、片ちんば(脚長差)で跛を引いている。学生時代は金属の器具で脚を固定していた。負のオーラ。
トムの仕事仲間、ジムは伊藤大輝氏。川地民夫っぽい。

この戯曲が何度も舞台化される理由が分かった。いろんな遣り口があり、いろんな伝え方が出来る。
今回観れたことは有り難い。また別の方法論の作品も観てみたい。役者は金の取れる面子、次作にも興味。

ネタバレBOX

今作はテネシー・ウィリアムズの自伝的作品で、語り手であるトムは本名のトーマスから来ている。5歳の頃、ジフテリアに罹り脚の神経が痺れる障害を患う。彼は同性愛者であり、夜中に映画を観に行くことにもそんな隠語を連想させられる。
双子のように仲の良かった2歳上の姉ローズは統合失調症と診断され、テネシーがアイオワ大学にいる時期にロボトミー(視床と前頭葉との間の神経線維の繋がりを切断する)手術を受けさせられ廃人に。テネシーは両親を生涯許さなかった。劇作家として成功した後、ローズを最高級のサナトリウムに入れ、面倒を見た。
父親の不在はフィクション。

そのローズをモデルにしたローラにこんな台詞を言わせる。「“手術”を受けたと思うことにするわ。角を取ってもらって、この子もやっと普通の馬になれたと思っているでしょう。」

多分、演出が物足りない。ローラとジムの魔法にかかったようなひとときと一転して全てが霧散する残酷な現実。ここが弱い。そして母親に罵倒されて家を出て行くトム。トムの心の奥にずっと傷付いたローラが棲みついている。何をしても何処へ行っても彼女の苦痛は晴れることがない。彼女の痛みと共に暮らしていかないといけない。もう少し互いの関係性にとって象徴的なものを差し込むべきだった。
萎れた花の弁明

萎れた花の弁明

城山羊の会

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『劇団普通』を主催する石黒麻衣さんが女優として出演されるとのことで気になり観に行った。イメージ通りの配役、文句無し。
超満員熱気ムンムン。途中で帰る女性がいたが、それが正常な程下ネタ満載。たけし軍団の臭いがプンプンする。新人マッサージ嬢に金の力で抜きをひたすら要求するような笑い。常連であろう女性客も多かったのが流石。

舞台はそのまま三鷹市芸術文化センター。前説は本物のセンターの副主幹、森元隆樹氏。そこにやって来る岩谷(いわや)健司氏。どうも政府のお偉いさんらしい。森元氏が施設の案内をしようとするも中国人の団体客が押し掛けて来て席を外す。代わりに新卒の岡部ひろき氏が相手をするのだが···。

性欲の化け物、岩谷健司氏が好き放題。ノリがガダルカナル・タカ。全裸になり、巨根を見せ付けながらも立ち居振る舞いが紳士。
岡部ひろき氏はしずるのKAƵMA似。
村上穂乃佳さんが綺麗だった。
岡部たかし氏の中国語が立派だった。

驚く程独特の笑いが炸裂。脳がバグるようなセンス。業の深い因縁が絡み合ったある家族の揉め事に何となく巻き込まれる岩谷氏の物語。誰も予想のつけようがないラスト。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

異様に面白いシーンの空気感はあるのだが話があんまりスウィングしない。淡々と進む。

三鷹市芸術文化センターの壁が左右に開くとホテルの一室。岩谷健司氏は常連の店からマッサージ嬢を呼ぶ。入って二日目の石黒麻衣さん。「健全店に変わったので性的サービスは一切出来ない」と断りを入れる。了承した岩谷氏、マッサージが始まるとギンギンに勃起したペニスを見せ付け、鼠径部のマッサージを要求。断る石黒さん。果てしない押し問答。泣き出した石黒さんは主に祈りを捧げる。現れたイエス(朝比奈竜生氏)は声が小さくぼそぼそ喋る為、殆ど聴き取れない。
まあそんな話。
ジャズ大名【愛知公演中止】

ジャズ大名【愛知公演中止】

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2023/12/09 (土) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

岡本喜八の大ファンだった筒井康隆、自作の小説『ジャズ大名』を監督が映画化することが決まった時は喜んだもの。二人共ジャズとスラップスティックをこよなく愛した。昔、原作の短編を読んで、「これをどう映画化するのか?」不思議に思った。観てみると成程、フリー・ジャズのジャム・セッションが延々と続き、ジャズの狂騒的なリフ、リズム、ビートの熱に浮かされた人々の精神の高揚が描かれる。ずっと繰り返されるリフの作曲も筒井康隆。盟友山下洋輔が協力した筈。話なんかあってないようなもの、ジャズの狂熱で憂鬱なもの全て吹っ飛ばしちまえ。取り憑かれた様にリフが身体中を這いずり回り訴えかける。何だか判らないけれど、どうもこいつに夢中だ。

舞台化にあたり、主演の千葉雄大氏がまさに適役。すっとぼけた可愛らしさ、ずっと見ていられる。
藤井隆氏なんかキャスティングしとけば何とかしてくれる。
ある意味主役の富田望生(みう)さんはとんでもないパワー。ここまでの存在に成り上がった。
ふざけた家臣は大鶴佐助氏。ニヤニヤニヤニヤ好き放題。
トランペッターの辰巳光英氏は若き筒井康隆に見えた。
「ええじゃないか」の練習にムエタイの首相撲を入れたり細かなギャグが散りばめられている。
入手杏奈さんは何役も兼ねて踊り明かした。へとへとになるまで。

アクターも芸人もダンサーもジャズマンも「ええじゃないか」軍団も訳の分からないフェスにて踊り明かす。演劇を観に来た筈の観客はいつしか何を観せられているのか解らなくなる。しかし終わってみれば全員総立ちのスタンディング・オベーション。訳が分からないが参った!てな感じ。『ジャズ大名』の面白さを作り手が理解している。これはフェスだ。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

凄くノリノリで観ていたが、黒人達の過去話からテンポが落ちる。更に長州藩の陰謀あたりは挿入が下手。こんなもの背景でしかないのだから、巧く差し込むべきだった。何かだらだらだらだら停滞感。ギャグの一つとしてリズミカルにやらないと。

クライマックス、日本人側からの新しいリフでジャズが劇的に進化して時代をぐんぐん先行してしまうギャグなんか欲しかった。ずっと同じリフだと飽きる。最後に戻るとして、途中どんどんどんどん進化してこそのジャズ。
夜の初めの数分間

夜の初めの数分間

劇団牧羊犬

王子小劇場(東京都)

2023/12/13 (水) ~ 2023/12/19 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

フェルナンド・メイレレス監督の『ブラインドネス』を彷彿とさせる設定。
ある時突然、世界中のガラスやレンズや鏡に人間が映らなくなった。鏡の原理とは反射した光を網膜が電気信号に変えて脳が認識する訳だが、人間の姿だけを脳が認識しなくなったのか?とにかく認識出来ないので自分の姿を自分で見ることは不可能。鏡も水面もショーウィンドウも写真も映画も人間だけは写らなくなる。テレビ番組もセットに声だけになり、アニメや人形劇がメイン、エンターテインメントの主流はラジオに戻ることに。
いわゆる「現象」が始まって24年経った。
人々は自分の姿を確認する為に、似顔絵を描く絵描きを「カガミ」と呼び重宝することに。言葉の表現で姿を実況解説する者を「声カガミ」と呼ぶ。

美貌の大人気女優、神戸(ごうど)ひまわりは極秘出産の為、長期休養に入る。ちょうどそのタイミングで「現象」が始まった。産まれた娘、画子を自分専属の「カガミ」として育てるひまわり。毎日毎日母の顔を写生させられる画子。天才的な画力とセンスを兼ね備えた画子は少女にして「ミラー・グランプリ」で優勝。出自を隠して人気「カガミ」となる。

神戸ひまわりに井上薫さん。最早、今作は井上薫オン・ステージ。プライドの高いナルシシスト、嫌味な大女優を素のように演じてみせる。彼女の出ているシーンは全て面白い。ファンは必見。元は間違いなく取れる。

娘の画子に平体まひろさん。全く彼女のイメージとかけ離れたひねくれてすさんだ毒舌家。ボサボサの髪は「た組。」の加藤拓也に寄せているように見えた。

凄い発想をする作家、ワンポイントSFとして面白い。井上薫さんは恐ろしい。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

大友達人氏はひまわりの元マネージャー、後にプロデューサーとして大成。口癖通り、「OK」と名乗る。
渡部瑞貴さんは女優業に挫折したが「現象」を逆手に取って声優として大ブレイク。Gu-Guガンモみたいな声が必殺。

熊野仁氏は東山紀之っぽい美形、「声カガミ」としてひまわりに仕える。
山田梨佳さんは彼の妹、事故で盲目に。触診師として働く。

川口茂人氏は交通誘導員だったが、大ファンだったひまわりに「いつも皆の安全を守ってくれて有難うございます」と声を掛けられて人生が変わる。
小駒ゆかさんは彼の娘。人の遺影を描く「カガミ」になりたいと画子に教えを請う。人の心の中の風景を読み取る才能に長けている。

田名瀬偉年(たつとし)氏はカメラマン。この時代に道行く気になる人に声をかけ被写体になって貰っている。そして誰も写っていない背景だけの個展を開く。目には見えないがその空間に人の存在をきっと感じられる筈だと。

徳岡温朗(あつろう)氏とセキュリティ木村氏は公園の公衆トイレの前で「カガミ」をやっている売れない絵描き。

復帰を画策する神戸ひまわり、だがもう時代が違う。今じゃ誰も知らない老いさらばえた老女。その現実を受け入れざるを得なくなるクライマックス。画子とひまわりが見つめ合い、泣きながら嫌な真実を伝える。夢に逃避して生きていたひまわりは受け入れ難い現実に狂いそうになる。だが必死の画子の瞳の中に自分が見える。互いの瞳の中に自分が映っている。その時、世界中で「現象」が変化したのだ。日が暮れて『夜の初めの数分間』だけ、人間の瞳の中に姿が映るように。

透明人間の原理と同じで服だけは見える筈だが、どうも脳の問題なので人間の存在全体を認識出来ない設定。広瀬正なら何とかそれっぽい理屈を付けそうだが。ミラーやモニターに人が映らない為、交通事故が多発。赤外線センサーと警報を組み合わせた商品の発明で大金持ちになった男が描かれるが、赤外線なら脳は認識するのか?設定を突き詰めると粗が出る。

昔、BOØWY時代の布袋寅泰が語っていた言葉。「ギター・ソロになると、皆速弾きで音数を一つでも増やそうとするが、自分は逆に音数を減らすようにしている。それがセンス。」
全くその通りでどれだけ要らないものを削除するかがセンス。今作は作家の優しさが全面に出てしまい、出演者全員それなりに見せ場が与えられる。ただ全体を通して観ると主旋律を邪魔するノイズになってしまっている。善人ばかりの織り成す人間ドラマが互いの色を打ち消し合って、作品の印象を茫洋としてしまう。寓話としての力が弱い。
ラストに辿り着くエピソードが詩的で美しいだけに勿体無い。

『ブラインドネス』では原因不明の失明病が流行り出す。未知の伝染病だと怖れた政府は患者を病院に隔離する。主人公のジュリアン・ムーアだけは何故かその病に罹らない。失明した夫を補佐する為、目の見えない振りをして病院に入る。患者に溢れていく病院は無法地帯の収容所と化し、元々盲人だった連中が支配者となって仕切り出す。地獄のような殺し合いの中、やっと逃げ出した主人公達は外界で絶望的な現実を知る。世界中の人が失明して、何処もかしこも獣のように争う人間の群れ。そしてその中でも優しさと美しさが人間の中に確かに在ること。盲目の世界でこそ、人間の真の姿がはっきりと見えることを知る。
ただ、映画の出来はイマイチなのでお薦めはしない。
#34「闇の将軍」四部作

#34「闇の将軍」四部作

JACROW

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第0話『やみのおふくろ』
初演2018年、第4回えんとつ王決定戦(新潟で行われた短編演劇フェスティバル)。半年後に東京で再演。正味20分程の短編。

昭和21年(1946年)から昭和22年(1947年)まで。
初の選挙で敗北、信じて金を渡した有力者に裏切られたと喚く角栄(27歳)を母は諭す。田中フメ役、宮越麻里杏さんが「あんにゃ(長男へ呼び掛ける新潟弁)」と。田中角栄役狩野和馬氏との二人芝居。子供の頃、どもりを克服する為に母に渡された漢詩。何てことはない話なのだがこの二人の織り成す世界が美しい。何というか、そこに嘘がない。

アフタートークの狩野和馬氏の佇まいが西尾友樹氏に似ていた。一流の俳優の醸し出す雰囲気。デ・ニーロとかパチーノとかジョー・ペシとかそんな奴等に酔わされて映画館に通い詰めたもの。マーティン・スコセッシの『アイリッシュマン』に酔い痴れた連中はこういう作品を一度は観てみるべき。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

田中角栄初当選時の演説がメイン。第一話の冒頭、第三話のラスト(田中眞紀子)と聴かされてきたが寅さんの口上ぐらい切れ味抜群。「待ってました!」てな感じで『田中角栄ビギンズ』の閉幕。

「人を喜ばせることが俺の目的ならば、俺を騙して巻き上げた金で奴が芸者遊びを愉しめたのならそれはそれでいいじゃないか!」
元気な角栄の生命力は腐ることを知らない。周りの全てを元気にして楽しませてやる!

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