「海ゆかば水漬く屍」 公演情報 「海ゆかば水漬く屍」」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    上手い人が演ると面白い
    それは、当然のことなのだけど。
    椿組と言えば、テント公演、群衆劇の熱さ、
    なのだが今回は4人芝居。

    ネタバレBOX

    別役実の脚本ということで、少し悩んだ。
    別役実の不条理劇が「これぞ演劇!」みたいな感じがあって、妙に古くさく感じて好きではないからだ。
    繰り返し上演されるところを見ると、演じる側、演出する側からは、別役実の戯曲は結構気持ちいいのかもしれない。


    椿組は夏の風物詩となった花園神社のテント芝居のイメージがある。
    大勢の役者が出てきて、熱い芝居をするというイメージだ。

    今回は4人芝居。

    冒頭、傷痍軍人らしき2人が登場する。
    このやり取りがかなり面白い。

    それは辻親八さんの「声」から発せられる押し出しの良さにあるのではないだろうか。最初は座ったままで布を被されていて声しか聞こえないのだが、その「声」がいい。相手をねじ伏せる強さがある。それを受ける木下藤次郎さんの弱っぽい感じがまた上手いのだ。
    だから、不条理感の前に、リアルが立っていた。
    2人の会話が絶妙なのだ。

    4人芝居のはずだが、なかなか出て来ない夫婦のコンビネーションがまたいい。

    辻親八さん演じる男の両親だと言う夫婦が、2人の傷痍軍人の間では「上」にいたはずの辻親八さん演じる男の、その上に立つのだ。

    有無を言わさず辻親八さん演じる男を倒しあっという間にねじ伏せてしまう。それは強い言葉や語気ではない、すっと相手を倒してしまう夫婦の畳み掛け、浴びせる台詞の上手さなのだ。そしてそれを浴びて微妙にトーンダウンする辻親八さんの演技のバランスが絶妙なのだ。

    母親役の水野あやさんの「母親」的な迫力がとても上手い。
    鍋焼きうどんを突っつく細かいやり取りがまた面白い。

    正直、ラストは「なんだかなぁ」と思う戯曲ではあるのだが、この4人の役者さんたちの演技を観ているだけで楽しめる舞台であった。4人のバランスがとってもスリリングなのだ。

    戦争で死んでしまった者、生き残ってその男の体験を自分のものとしてしまう男、さらにその男に付いて回り、戦争に行ったわけではないのに、自分の体験とし、傷痍軍人と偽って生きる男。
    彼らを、まるで罰するように現れた夫婦は、男たちの幻だったのか。

    死んでしまった者には「生きていることの実感」=舞台の上の男にとっては「痛み」「苦しみ」は、ない。ましてや便意を堪えるものであるはずもない(この不条理的設定が個人的には鼻につくのだが・笑)。
    2人の男たちの前に現れた「両親」を名乗る夫婦は、戦争で命を奪われてしまった者の「無念さ」を訴えていたのかもしれない。
    傷痍軍人の男は、夫婦がいつか現れることを予感していたのではないだろうか。自分の苦悩の終止符を打ってくれる2人の到来を、だ。

    ……鍋焼きうどんの匂い、空きっ腹に応えた(笑)。

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