SUPASHI-BA 公演情報 SUPASHI-BA」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    演出花5つ星
     女3人、男2人の仲良し5人組。うち1組は既に夫婦になっている。1幕2場。1場と2場が、内容的にも時間的にも空間的にも白と黒という単純明快な指標によって対比されている点で、演出の力が圧倒的な作品である。(少しつけたし12時32分。更なる追記2016.3.12 02:37)

    ネタバレBOX

    1場では、舞台の基調色は白であるのに対し、2場は黒であることには大きな意味がある。1場の白は、ロシアの凍える雪や氷・寒さを表象し、2場の黒は、一郎の喪を表象している。このことが、実に端的に舞台の美術構成に現れているのである。
     先ず小屋に入って驚くのは、この小屋の雰囲気が普段とはまるっきり異なることである。普段、この小屋の板回りの壁は濃いグレーで塗られてやや昏い印象を受けるのだが、出捌け口を含め、客席の一番前の壁面まで総て白で覆い尽くされているのである。こんな使い方は初めて見た。無論、最初にも書いた通り、ロシアの寒さや雪・氷をイメージしているであろうことは容易く類推できる。だが、本当はもう一つ別のイメージを落とし込んでいるとは考える。最後に明かすから、読者もそれまでに考えて欲しい。
     更に今作は、この狭い小屋にロシアの雄大な大地のイメージや皆の故郷のゆったりした時空を表象する為、小道具などは最小の形で作られている。演劇の原点たる想像力に最も大きな場所が与えられている点でも評価したい。板上は無論素舞台である。役者の提示する身体表現を通じて、観客は適確にメッセージを受け取らなければならない。即ち板上と観客相対の想像力の勝負なのである。この演劇の原点に劇場の時空を過不足なく設定している点に、金 世一演出の真骨頂がある。
     5人のアウトラインを紹介しておいた方が分かり易かろう。先ずは一郎:AI(Artificial Intelligence・人工知能)の研究者で、この分野では世界トップクラスの研究スタッフが集うモスクワに赴任している。大吉:8年前に結婚した幼馴染の妻・ゆりと父の経営していた居酒屋の跡を継ぎ、現在は父に負けまいと一所懸命。ひまり:一郎から結婚を申し込まれた可愛子ちゃん、ちょっと天然だが仲間皆に好かれフォローされている。まりこ:東京へ出て編集者をやっているキャリアウーマンだが、弱みを見せるのが嫌いでちょっと堅物のイメージはあるものの友逹思いの柔らかな面も併せ持つ。

     オープニングでは白い衣装を纏った一郎が入場するが一切科白を喋らない。唯、辺りをゆっくり逍遥するだけである。この時の一郎の表情にも注意しておいて欲しい。(この場面の意味はラストで明らかになるからである。即ち死後の世界のイメージだ。一郎は、ひまりとの約束の時に仲間の下へ魂の形で戻ったのだ!)
     彼らが育ったのは急行も止まらない田舎町だが、それだけに人間関係が濃いとも言える。そんな幼馴染仲良し5人組の過去と現在を、一郎がひまりに結婚を申し込んだ未来のある日、ひまりの誕生日前後の今、過去を1場で現在を2場で対比的に表現して見せた。
    裸舞台である。そして小道具は総て切り抜きである。おまけに白と黒を板上で変えるだけである。だが、極度に単純化し得ること、し得たことが、この作品の優れた到達点であることも事実だ。演劇の本質の総てがここに顕現しているからである。このように骨太で本質的な舞台を何人の演出家が創造し得ているか? 

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