木に花咲く 公演情報 木に花咲く」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    どうしたらいいのかわからないから狂ったように咲いている
     学校でのいじめ、家庭内暴力を振るう子供に向き合う家族をテーマにした演劇である。

     祖母役を演じた加藤久美の迫真の演技に、客席の僕たちは圧倒されました。
     劇中で、客席からすすり泣く声がよく聞えました。閑話休題のおじいさんとおばあさんの語らいのシーンでほのぼのとしていても、ストーリー全体がシリアスであるため、笑い声を押し殺してしまいました。

     母親役の菅田華絵さんが第3幕あたりから目頭がうるうると赤くなっていて、今にも泣き出しそうでした。エンディングでは口がプルプルと振るえ、瞳から涙が溢れ出していました。

     演者の皆さんの感情がキャラクターに入り込んでいます。客席の僕たちも一緒にもらい泣きしてしまいました。

    ネタバレBOX

    【あらすじ】

    冒頭第一幕。桜が咲いた樹の下で老婆が花見をしている。
    お婆さんは男の子に膝まくらをしていたことを回想している。
    膝にかかった頭脳の重さを今でも忘れていないと、亡き孫に語りかけるようにささやく。

     男の子は学校の階段から転落して大怪我をした。
    父母は、自分でつまずいたのが原因だと学校側から説明されたのだという。
    お婆さんは、孫はあの子達に突き飛ばされたに違いない、なぜ自分達の息子がいじめられていることに気がつかないのか、と父母に叱責する。

     しかし、母親はあの子たちに会ったことがあり、いたって普通の子でいじめをするような子供達ではない、と反論する。

     祖母はかわいい孫に、お前のことはおばあちゃんが一番わかっているとなぐさめる。そして、友達なんていらない、勉強に集中して出世するように説く。いじめてくる子よりも偉くなり、見返してやるんだ、と説教する。

     同級生達に迎合して、仲良くなり友達を作ろうとした孫に、こころが弱くなった表れ。自分が弱くなった証拠だと老婆は叱る。
    他人を憎しみ続けることが、強さである。絶対に負けてはいけないと命ずる。

     人を憎しむことが強さだと云う老婆はまるで鬼のようなことを言う人に見える。しかし、根っから嫌な人間ではない。
     桜を眺めていると、死んだはずのおじいさんが登場する。課長などに出世したいという野心がない男であった。
     亭主関白だけど、寡黙で不器用な男。そんな夫にに呆れつつも、生涯の伴侶として共に過ごしてきた。

     孫の母親がおばあさんの元へやってくる。死んだおじいさんにあった夢の話を語る。
     孫の父親である娘婿も祖父に性格が似ている。老婆自身も、孫の母である娘に、あなたは私と同じように、似た性格の男性を選んだ。運命だと言う。

     月日は流れ、息子の父と母が不仲になる。教育方針や子育ての考え方に相違ができ、夫婦喧嘩になった。父親は妻と話し合った。悩んだ末に、お婆さんと息子を離れ離れにし、別居する決断をした。

     ある日、息子が母親に刃物を向ける事件が発生した。母親は息子が来ていないかお婆さんに相談する。そこへ息子が飛び込んでくる。
     おばあさんは息子に、母親が憎いならおばあちゃんを刺しなさいと。息子はそんなことはできないと泣き崩れる。

     父親は勤め先に同級生の親がいるつながりを使い、同級生に息子をクラス会に誘ってもらうようにお願いをした。
     招かれざる客であった息子がクラス会に来たことで、逆にいじめ行為がエスカレートしてしまった。
     父親は「僕は人からどう言われようと構いません。先生やクラスの皆に謝りにいく」という。
     お婆さんは、父親にそんなことはおよしなさいという。祖母は息子に、友達なんかいらない、いじめっ子達を憎しみなさい。勉強をして将来出世することで偉くなりなさい。見返してやりなさいと叱咤する。

     しばらく経ち、母親がお婆さんの元へ駆け込んでくる。息子がやってこなかったかと訊く。
     おばあさんは息子の事情を知っている様子で母親に「何か学校であったんだね」と尋ねる。

     学校で同級生の女子の財布が無くなるという事件が発生した。クラスのみんなは、息子に嫌疑をかけた。
     息子は僕がやったと言い、教室を飛び出したという。
     母親は教師からどこにいったか知らないかと連絡がきたのだという。

     この事件の顛末は、実は女の子は自分のロッカーにちゃんとカギをかけてしまっていた。財布は盗まれてなんかいなかった。その事を忘れていた勘違いなのであった。

     老婆は母親に、息子は父親の元に向かっているに違いないという。
    「僕は人からどう言われようと構いません」という父親をどうやって憎しんだらいいのかわからない、殺しに行ったに違いない。やめさせるように父に連絡を取り、急いで逃げる様に連絡を取るように母に指示する。

     息子が見つかったとの連絡が来た。家の近所にあるビルから飛び降りたという。変わり果てた姿だった。
    おばあさんは苦しかったろうと孫を想い、涙する。

     数年が経ったある春の日。桜の木の下で転寝をしていたお婆さんの元へ母親がやってくる。おばあさんは母親に桜が狂って咲いているのだと言う。

      桜が満開に咲き乱れるのは、咲きたいからではなく、どうすればいいのかわからないのだ、と老婆は想う。
      学校でいじめられる、家庭内暴力を振るった孫が、自分がどうしたらいいのかわからなくて狂ってしまっていた。このことを祖母は桜の木に花咲く姿に例え、孫の姿を投影していたのだろう。

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