片づけたい女たち プレビュー公演 公演情報 片づけたい女たち プレビュー公演」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-1件 / 1件中
  • 満足度★★★★

    批評性
    50代女性の日常的な会話をユーモラスに展開しながらも、
    強い批評性を秘めた作品。さすが、永井愛氏。
    批評と言っても、社会を単純に批判し、観客を上から啓蒙している訳ではない。批評の刃は主人公自身を切り裂いていく。
    それは、作者をも、観客をも、安住させたりはしない。

    私の席は舞台から遠かったので、小劇場の臨場感に慣れている身としては、そういう部分で物足りなくはあったが、とてもよくできている作品だと思った。

    ネタバレBOX

    部屋を片づけられない女と、その友人二人との50代女の日常的な悩みなどを基に話は展開していく。
    物語は軽妙なタッチで始まるが、最終的には人生において「片づけられていないもの」という重いテーマが起ちあがってくる。
    それは「傍観」という問題。

    高校時代、ベトナム戦争反対の決議をとろうとした際に、多くの人が会に参加さえしなかったことに怒り、「俺はお前らの側には立たない」というような言葉を残し、学校を退学したという優等生でカッコよかった男の話題がある。その男は、学校で一番頭が良かったにも拘わらず、高校中退ということもあり、その後、出世もせず、肉体労働の仕事中に高い処から落ちて死んでしまったという。

    その彼の存在が、高校時代から現在まで、ずっと「傍観」しつづけている主人公の人生を問うている。

    主人公は、高校時代、友人が部活中に顧問の先生からセクハラされたことを、コトナカレでやり過ごしたことを思い出す。

    更に、つい先日も、直近の上司が首切りにあった際に、何も言わずに傍観をしてしまったことに思い至る。

    そして、そのことで、30代の男と先日別れた理由が、彼に原因があるのではなく、自分に原因があるのだと気づく。
    彼を最初は優しい人だと思っていたが、よく考えたら単に闘わない順応主義者でしかないと思い軽蔑して別れた。だが、実はそれは近親憎悪であって、逃げている男に、傍観者としての自分の姿を見て軽蔑していただけだった。

    そのように、人生において片づけてこなかった「傍観」のことを突きつけられる。ある日、郵便受けに、差出人不明で、そのような主人公の姿勢を批判する文章が入っていたという。
    誰からのものかわからない。上司の可能性が高いが、他の人かもしれない。
    そして疑心暗鬼になる。

    この主人公に限らず、このような「傍観」の問題はどんな人でも、少なからず思い当たることがあるだろう。
    個人的な人間関係の問題から、会社での振る舞い、そして社会的な事象まで(政治、原発、被災、戦争、貧困、、)。

    様々な位相で、この「傍観」という問題は、現代最大の問題のひとつだと言っていい。

    そして、完全にこの問題に対して、傍観者ではなく生きるなどという理想論は通用しないのもまた真理だから話は難しい。作者もそのことをよくわかっているのだろう。
    そのため、「傍観」批評でありながら、上から批判している感じがしない。葛藤を葛藤のまま描いているという感じがする。その点がとても良かった。

このページのQRコードです。

拡大