花札伝綺 公演情報 花札伝綺」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    詩人の台詞
    昨年のインドネシア、英国、カナダと回った海外公演で喝采を浴びた作品。
    “見世物”のだいご味、芝居の原点を感じさせるエネルギー溢れる舞台に
    これがアングラであるとかなんとか、そういう括りなどどーでもよくなる。
    役者陣と演出の充実ぶりに、レパートリーというシステムの良さを再認識した。
    改めて“詩人が書いた台詞”の、言葉のすごさを感じる舞台だった。

    ネタバレBOX

    舞台中央にドラキュラが入るような棺桶が立てかけられ、蓋に時計が嵌め込まれている。
    大正時代の下町の葬儀屋、この家の人間は
    父親の団十郎始め猫に至るまで皆死んでいる。
    一人娘の歌留多だけが生きていて、彼女は盗人・墓場の鬼太郎に恋して結婚すると言う。
    団十郎は死んだ美少年に娘を誘惑するように持ちかけ、
    歌留多を何とか死の世界へ取り込もうとするが…。

    全員白塗りの顔でキョンシーみたいだから死者であることがすぐ分かる。
    それが実に生き生きとしているから可笑しい。
    着物をアレンジしたキッチュな衣装がカラフルでいかにも外国でウケそう。
    歌って踊って、生きている者を死の世界へ取り込もうという目的に向かってまっしぐら。
    「♪さあ、思い出してみな、死んでないヤツが一人でもいたか?♪」

    のっけからこの価値観の逆転が素晴らしい。
    「不完全な死体として生まれ、何十年かかかって完全な死体となるのである」という
    テラヤマ自身の言葉通り、生きていることなど
    完全なる死体になる為の通過点に過ぎないのだ。

    墓場の鬼太郎がとても魅力的で、演じる伊藤弘子さんがタカラヅカのように素敵。
    ソロも確かな歌唱力で、安心して聴いていられる。
    何を盗んでも朽ち果ててしまうなら「視えないものを盗んでやる」という
    盗人としての矜持も鮮やかに、死の世界でも変わらずこれを貫くところが痛快だ。

    鬼太郎の仕事を助ける獄門次を演じた谷宗和さん、
    登場人物の多くがカタギではないが、中でも裏街道を歩んできた人間らしい
    軽やかな身のこなしや台詞に色気があってとても魅力的だった。

    卒塔婆おぎんを演じた平野直美さん、
    お歯黒のメイクとキョーレツなキャラで忘れられないが、歌も上手い。
    すごい存在感で、舞台に出て来るとどうしても目がそちらに行く。

    棺桶も使った出ハケが自然で人数の多さを感じさせないスピーディーな展開。
    歌が話の流れを断ち切るような舞台も多いが、これはむしろ流れを加速させる。
    その理由は歌詞とダンスの表現力だと思う。
    歌詞が台詞と強くリンクしているから聴いていて無理がない。
    そして振り付けが、芝居の続きとして違和感なく“演じられている”。
    エネルギッシュな舞台だが、勢いで押し切るのではなく緻密なバランスが感じられた。

    この日は流山児★事務所の次回作品「テラヤマ歌舞伎 無頼漢」の脚本を担当する
    中津留章仁氏の姿もあった。
    「作品を作ることは人と人とのぶつかり合い」という流山児氏。
    テラヤマの詩的な台詞を、“論理”の中津留氏がどんな本にするのか、今から楽しみだ。

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