新宿・夏の渦 公演情報 新宿・夏の渦」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    新宿
     若い頃、新宿で毎日を過ごしていた自分には、マイノリティーの被差別状態を描いたこの作品を通して見えてくるのは、新宿という名の街。否、都会そのものである。いわば都会の腸と言ったらよいか。
     この劇団の社会性が、ちょっと変わった形で現れた舞台と言えよう。いわば、身体化した街という形だ。
     良く、幕が上がったら、そこからは、役者と言う。実際、ミロ役は素晴らしい演技だった。歌舞伎の女形の名優にインタビューアーが、「どうやって女性を演じるのですか」という質問をした話を読んだことがある。問われた役者の答えは、「男を殺すんです」というようなものであった。最近では、男性の中にも女性的なものがあり、女性の中にも男性的なものがある、ということが、諸学問の間でも認められるようになってきたが、俳優というものは、このような離れ業ができるものなのである。実際、自分の目の前で、男性が、なまめかしい女性性を獲得していた。
     ピープルシアターに出演する役者は、実力のある者が多い。身体能力の高さも抜群である。女性用の服装、靴のままで、カンフーのような動きをこなす。”おかま達”の置かれた微妙な社会的位置を後ろ姿で演じて見せる。
     都市の都市たる所以は、狭い所に多種多様な個性が犇めき合うこと。当然、その人間関係は、非常にセンシブルである。その辺りの呼吸も役者達は、登場人物のキャラクターを活かしながら演じている。
     更に、仕掛けがある。舞台と現実が、繋がって仕舞いそうな、新宿の新宿らしさとでも言って良いかも知れぬ演出が施されているのだ。実は、この公演に登場しているのは、役者だけでは無い。本当に新宿のその世界で生き、働いている方々も出演しているのである。観客は、演技者と本物を見分けられるか否か、狭く多様な演劇空間と現実の狭間を自分自身で見極めることすら、求められていると言えよう。

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