壁の中の妖精 公演情報 壁の中の妖精」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    珠玉の至芸、ここにあり!!
    再演の度に劣化する作品は数多観ましたが、こんなにも、回を重ねるごとに、舞台が完成度を増していく作品て、なかなかありません。
    本当に、何もかもが、秀逸で、これをご覧になった方は、きっと全員、春風さんのファンになるに違いないとさえ思います。
    史実に基づく作品の、崇高な家族愛が、巧みな舞台構成と、春風さんの信じられないような、素晴らしい表現力で観る者の心を射抜き、本当に、演劇ってこんな素敵な可能性に満ちた活動なんだと、きっと、感涙される方が、たくさんいると思います。

    スペイン戦争の知識なんて全くなくても、大丈夫!これは、逆境を、家族一丸となって、乗り越えた、普遍の愛の物語です。

    【1人ミュージカル】という、コピーが災いしているのかもしれません。
    確かに、春風さんお一人が、語り、歌い、踊るのですが、ミュージカルというイメージとは異質な作品です。このコピー、ミュージカル嫌いの人の足を遠ざけてしまっているようで、以前から、気になります。
    究極の一人芝居と言う方が、ピッタリだと思います。とにかく、休憩15分入れて、2時間20分、春風さんお一人で、何役も演じ、台詞に歌にダンスに、淀みなく、命を吹き込まれて行く様子に、心を動かされない方がいらしたら、お目に掛かりたいくらいです。
    真実に基づく壮絶な家族の体験劇ですが、決して、深刻にならず、隋所にユーモアが散りばめられているので、常に笑顔で観ていられるのが、またこの作品の素晴らしいところ。

    福田善之さんが、きっと丹念に史実を調査し、その長い一家の経験の中から、演劇的エピソードを絶妙にチョイスされた過程が、嬉しく想像できる、秀作中の秀作舞台。上田さんの楽曲も、とても胸に沁みる曲ばかり。

    どうか、一人でも多くの、世界中の演劇ファンに、ご覧頂きたいと、切に思います。
    こんな素敵な舞台が、そんなに知られていないなんて、本当にもったいなくて、もったいなくて…。

    ネタバレBOX

    一人舞台と言っても、一人のキャラクターが、語り続ける芝居ではありません。
    幼少時のマリア、マリアの母親、少女のマリア、成熟したマリア、老年期の母親、母親になったマリア…と、主体で語る人物が場面ごとに変化し、春風さんは、その役の衣装に身を包み、他の役は、声色等で、演じ分けて行きます。

    まだ宝塚退団直後は、あの劇団特有の大袈裟な演技が、ともすると過剰に見える部分があり、特に、冒頭の幼女の場面は、わざとらしい感じがありましたが、最近は、春風さんの演技が、朗読に近くなり、男役の声も変に作り過ぎないので、余計、真実の物語の気高さが、ストレートに耳に入るようになりました。

    もう7回ぐらい、観ましたが、いつも驚くのは、幼いマリアがベットに眠って、何秒もしない内に、母親の衣装の春風さんが、客席ドアから登場すること!
    最初観た時は、「あれ、一人芝居と思ったけど、他にも出演者いたんだ!」と、すっかり勘違いしました。歌舞伎の早替わり以上の驚きです。

    他の場面転換も、実にお見事で、一人芝居の陥りやすい単調さを回避する技術が素晴らしく、いつも感心します。
    語り部を場面ごとに替える手法も巧みなら、間に、妖精が語る御伽噺を、影絵で見せ、語ったり、場面も状況も変化に富むので、全く厭きることがありません。

    いつも、客席を巻き込んでの、楽しい卵売りのシーンは、客席の嬉しげな笑顔を見るだけでも、幸せな充足感を感じてしまいます。

    劇中で、何度も歌われる「生きているって素晴らしい」という、歌詞そのままに、この舞台を観ると、辛くても、生きて行こうと思えます。
    社会主義の夫を30年も、愛情に満ちて、匿い続けた崇高な家族愛の物語りですが、どんな民族にも、どんな教義の方にも、万人に理解されるであろう、究極の愛の物語だと確信します。

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