このままでそのままであのままでかみさま 公演情報 このままでそのままであのままでかみさま」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-2件 / 2件中
  • 満足度★★★★

    すべてが詩的で幻想的。
     横浜の倉庫を改造した素敵な空間。何より広く天井が高い。その会場と音響と照明と本と役者と、全てが相乗効果をあげている。特に音響と照明が立体的なことに驚く。

     観客は決まった席がなく、会場の好きなところに移動しながら見ることができる。まだまだ演劇は決まった座席で見るものという固定観念が強く、動きながら見る人は少なかったが、劇場の人からアドバイスをうけて、意識的に動いてみた。すると本当に空間の広がりを感じ、芝居が何倍も魅力的に思えた。役者が演じているエリアまで進んでいく勇気はなかったが、この芝居にはそれもありだろう。面白い試みだ。

    ネタバレBOX

     固定観念を打破し、観客を劇空間内にリアルに引きずりこむにはどうしたらいいか、それがこれからの課題だ。役者が演じているのを客席で見るのではなく、われわれが演出家の用意した異空間に出向き、役者たちとともにその世界で過ごすのだ。

     新しいし、面白い。世界で通用する芝居だ。
  • 満足度★★★★

    あなたは正しい。
    子供の頃、隣町の教会で毎週日曜日に行われているミサに親に内緒で参加していたことがある。終わった後に、おいしいお茶とおいしいお菓子がいただけるのだ。それだけの理由でミサに参加するとは何とも現金な子供であったが、かみさまにお祈りすることはきっといいことなのだから。漠然とそう信じていた。
    この作品はそんなあの頃の記憶が蘇ってくる不思議な体験で、信じることを終わりにした時、いろいろなことが変化していくことや、誰かを信じること、言葉を信じること、誰もが普遍的に抱えている感覚について思い出させてくれるお芝居だった。そして何より、あの空間にいられたことが幸せでした。

    ネタバレBOX

    会場に一歩足を踏み入るともうすでに目の前では何かがはじまっていて。
    あるひとは『ユダヤ人問題によせて ヘーゲル法哲学批判序説』を音読し、あるひとは静かに佇み、またある人たちは踊ったり、追いかけっこをしたりして、はしゃいでいた。白っぽい着衣をまとい、どこか浮世離れをしているそのひとたちは、中世のヨーロッパ建築を思わせる異国情緒漂う空間のなかに点在していて、わたしたち観客はあたかも天使たちの住む楽園にうっかりお邪魔してしまったようだった。

    開演時間が近づくにつれ、自由奔放に動きまわる天使たちの戯れのなかに混じって一緒に踊ったり背後からついていったりするひとたちや、戯れの輪の中に存在していようとするひとたちが増え、なかには絵画の中から飛び出してきたような赤いドレスを着た美しい女のひとや、シルクハットに黒いマント姿の不思議なジェントルマンが立ちすくみ、ひとつの世界を生み出していて、観客と演者の境界線がボーダーレスになっていた。というよりも、同化していた。

    ほどなくして開演時間が訪れて入口の扉が施錠されると、これまでの伸びやかな空間は一変し、ぴーんと糸が張り詰めたような静寂が訪れてヨブ(田口アヤコさん)がヨブ記の冒頭を朗読する。 そのひとことひとことに呼吸が重くなるような、閉塞感を感じたけれど、立ち上がる物語には、大きなダイニングテーブルが壁に照射され、ろうそくの明かりの灯るそのテーブルの周りを囲うように、ヨブの子供を思しき者たちが時々じゃれあったりしながら幸福をつくりあげていく。柔和な照明とやさしい音楽も流れていて、それはとても穏やかな食卓…。
    しかし幸せはそう長くは続きませんよ。
    サタンがそう嘲笑うかのようにけたたましい不幸な音を辺りを満たして…。

    「ぼくは死にたい・・・。」
    「けど世界が終って欲しいとは思わない・・・。」
    あるひとりの青年はひとりごとのようにそう繰り返し、まるで闇の手に抱かれて、孤独の力に翻弄されていくよう。
    「あたしとこどもをつくろうよ。」
    そう言う彼女の言葉は、嘘じゃないのに心なしか空回りしているみたい。

    壁に大きく照射される、溢れだす言葉が砕け散っていくイメージ。
    言葉がすべて。だけど、言葉は何も伝えないこと。への矛盾や戸惑いを抱えながらこれからも生きていくわたしたちはどれだけ清い心でいられるだろう。理不尽なおもいをしても尚、正しくいられるだろうか。
    劇中、出演者の女性から「あなたは正しい。」とわたしは言われた。
    多分、大丈夫だとおもう。出来ることならそう信じていたい。

    溢れだすイメージの洪水のなか、観るひとのなかでそれぞれ紡がれていくようなお話だった。わたしのなかにも残像や触感はまだまだあるのだけれど、言葉にできるのは今はこれだけ。 この作品のなかで強く感じたのは、足音と呼吸といびつで金属的な残響音。そして、国境という概念が失われた世界。変な話、スケールが大きくなればなる程、強度を増す演劇だとおもった。次回も是非、みたいです。

このページのQRコードです。

拡大