桜の森の満開の下 公演情報 桜の森の満開の下」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★

    贅沢で凄絶な美しさ
    坂口安吾の「桜の森の満開の下」を初演したのは東京演劇アンサンブルだそうである。
    豪華な舞台美術と衣裳。俳優たちの確かな演技力。わずか1時間のうちに、歌舞伎、能、アングラ劇、モダンバレエの要素がすべて入ったような贅沢で凄絶、濃密な芝居。それでも、短さや物足りなさはまったく感じない。海外公演でも高い評価を受けているのがうなずける完成度の高い芝居だった。
    ここの劇団の芝居では、まだはずれた経験がない。
    東京演劇アンサンブルについて説明すると、ミュージカルに特化していなかったころの劇団四季と文学座をミックスしたような雰囲気の劇団である。
    いわゆる新劇の劇団とは少し毛色が違う。久保栄のような演劇史上に残る劇作家でありながら、あまり上演の機会が少ない作品を上演するかと思えば、
    珍しい作家の翻訳劇や、今回のようなアヴァンギャルドな芝居もやる。
    また、若手たちによる学校演劇の巡回公演も行っているのでCoRichのユーザーの中には観ている人もいるだろう。いつぞや、「学校演劇で巡回してくる劇団の演技はひどいものだ」という意見を聞いたことがあるが、この劇団に当たった学校は幸運かもしれない。研究生制度によって俳優を育成しているので、俳優の演技力レベルは高く、新人公演などでも堂々としたものである。
    CoRichユーザーの間ではまだ認知度が低いようなので、劇団のアンケートで何度かCoRich舞台芸術の説明を書き、チケプレにご協力いただけないかとお願いしたが、まだお返事はいただけていない。
    思うに、熱心な固定ファンが多く、毎公演盛況で、全国にサポーター会員がいるため、あまり一般への宣伝広報の必要を感じていないらしい。しかし、観客の8割が中高年で、2割が若者という比率を見れば、将来的には新しい観客を開拓する必要はあろうかと思う。もし、公演を観ていただければ、きっとこの劇団のファンになるであろうコメンテーターのかたが私には何人か思い浮かぶだけに、チケプレが実現できないのは残念な気もする。チケプレなしでも観ていただければ嬉しいが、私などが言っても説得力がないかもしれない(笑)。本格派の演劇がお好きな方はお試しください。
    秋にはゴーリキーの日本初上演戯曲の公演もあるそうです。

    ネタバレBOX

    動物の毛皮が床に敷き詰められた舞台を3方から客席が囲む。横山大観の日本画を思わせる桜を描いた壮麗な六曲屏風を突き破って山賊(公家義徳)と美女(原口久美子)が登場する。山賊は墨染め桜の着物を片袖脱ぎにし、女は総花模様の紫の総振袖姿で髪も紫色のロングのカーリーヘアだ。
    まず、冒頭から意表を突かれた。まるで歌舞伎のようだった。「あんな豪華な屏風を破ってしまうなんて!」。ということは、公演の回数だけ、屏風の真ん中の絵も必要なわけだ。何と凝った舞台美術だろう。登場のしかたは歌舞伎のようだが、次に展開するレイプのシーンの格闘は映画のようにリアルで迫力がある。
    いつもは身ぐるみ剥いで放り出すところ、女に魅せられた山賊は女の夫を斬り殺したが、女を犯してさらってしまう。女は山賊の家に着くと、そこにいる7人の女房たちを殺してくれと頼み、山賊は女の言うままに女房を次々に斬り殺していく。女は最後の1人だけは召使として生かしておくと言う。女房たちはみな美しい長襦袢姿で、大きく結い上げた髪型に、魔物のような青黒い化粧、花や果物の首飾りを付けている。そして、殺されるときに、血しぶきが色とりどりの紙テープで表現され、何とも美しい。
    女が振袖の上から羽織る豪華な打掛も場面によって4度も変わるので、視覚的にもとても楽しめる。
    山賊がどんなに女に尽くしても、女は都を恋しがるばかり。やむなく、山賊は女を都に連れて行く。しかし、そこで女が要求したことは毎晩のように大納言や姫君の生首を取ってくることなのだった。都で、女が生首を使って「恋愛談義」をする場面は白塗りの女と黒塗りの男のモダンバレエで表現される。
    モーリス・ベジャールの「ザ・カブキ」を思わせる場面で面白い。文楽のようだと言う人もいた。ここの劇団員はバレエも踊れるのが特徴だ。山賊は生首の注文に嫌気が差し、一人で山に帰ると言うと、女は急にしおらしくなり、一人残るのは耐えられないから一緒に山に帰って尽くすと哀願する。
    そして、山賊は女をおぶり、満開の桜の下を通りかかると、女は鬼に豹変して男を襲う。鬼を殺したと思った男の手には、美しい打掛だけが残り、女の姿は忽然と消えていた。女が鬼に変身する場面は能のようで迫力がある。女の霊力を表現するため、山越えでは、フライングで宙乗りもある。重厚な会話劇を得意とする劇団がこんな得意演目も持っていたとは驚きである。
    原口久美子の女は小柳ルミ子風の容貌で、声も容姿も美しく、熱演だった。公家はさすがに看板俳優らしく、山賊の述懐の台詞がいい。海外でも絶賛されてきた理由がよくわかる好演だ。ただ、激しい立ち回り以降、息遣いが苦しそうで、年齢的にはそろそろ、動きの激しいこの役は限界かもしれない。
    昨年も怪我のため、公演中止になったということだし。
    ふんだんに桜吹雪が舞うが、もう少し降らす量をセーブしてもよいのではと思う場面もあった。一般劇団でいつも感じるのは、雪や花を降らす場面がある場合、往々にして分量が多すぎることがある。本家の歌舞伎の舞台を観て参考にしてほしい。歌舞伎では節度ある降らせ方をしているので。また、花吹雪の風を起こすモーター音が物凄く大きく、止まると極端に静かになるため、とても気になってしまった。また、行灯は白熱灯の黄色い灯りを使ってほしかった。蛍光灯の色だったのは残念。
    観る前は1時間ものにしては観劇料金が高い気がしたが、観てみると、これだけの芝居なら納得できた。

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