インタビュー

【ゲネプロレポート】南京豆NAMENAME『ツイスト・アンド・対話』

文筆家 丘田ミイ子

―「Show must go on」とはよく聞くけれど、これはまだどこにもなかった、本当は今すぐここから逃げ出してしまいたい人たちによる、疑問と葛藤だらけの「Show must go on?」の物語なのかもしれない。

5月27日(水)、シアター風姿花伝にて南京豆NAMENAME『ツイスト・アンド・対話』(作・演出:河村慎也)が開幕した。本作は2017年に旗揚げされた南京豆NAMENAMEの第11回公演。物語の舞台は主に二つ、開演を控えるとある小劇場の楽屋と、ある男女が日常を送るマンションの一室。カンパニー内でも、カップル内でもそれぞれがのっぴきならない問題を抱え、噛み合わない会話とすれ違う心に悪戦苦闘しながらなんとかそれぞれの今日を終えようとする、等身大の群像劇だ。

キャストは、南京豆NAMENAMEのメンバーであるやぎその(映像出演)と河西凜をはじめ、粟野日奈子、市川賢太郎(肉汁サイドストーリー)、奥泉、木村凜平(劇団トナリニ)、佐藤昼寝(昼寝企画)、夏アンナ、早舩聖(マチルダアパルトマン)、三島渓(劇団ドラハ)、宮下真温、無田蓮琉(阿頼耶識) が名を連ねる。

本記事ではそのゲネプロの様子をレポートする。

舞台上には2つの空間がある。ソファとテーブルが置かれたマンションの一室と、鏡前がもので溢れ返る小劇場の楽屋。開演と同時に中央のスクリーンには地方企業のテレビCMと思しき映像が流れる。そのCMに出演するご当地アイドル・なちょ(夏アンナ)に、かつては勤勉な高校生だったでんすけ(河西凜)が心を奪われたその瞬間から物語は始まる。

幾年かが過ぎた頃、とあるマンションの一室では、教員として働く荒井(佐藤昼寝)が眠れぬ夜を持て余していた。歳の離れた恋人と思しきたま(粟野日奈子)はその様子を見かねてあれこれ話しかけるが、二人の会話はちっとも噛み合わない。空気は決して悪くないが、たまにもまた思うところがあるようで、二人の関係がどこか歪なものであることがうかがえる。そして、たまは荒井に「あなたの前から少しずつ消えていく」と言い、日に日におかしな行動を取るようになる。そんななか、二人の住むマンションに無遠慮に訪れるのは、荒井の同僚である堀川(市川賢太郎)。荒井は、堀川にたまの言動についての相談を持ちかけるのだが…。

この3人の会話から、荒井とたまの恋愛関係の発端が大声では人に言えないものであることが知らされる。不器用ながらにたまへのたしかな愛情を向ける荒井と、それを受け取りながらも「消えたい」という念慮と格闘するたま。劇中で二人の馴れ初めや歩みはシーンとしては描かれていないが、暮らしの中で互いの姿を探し、見つめるその眼差しに思いの丈が滲む。クローズドな空間で描かれるクローズドな関係を、二人の俳優が密着せずとも密度の濃い応酬で伝える。哀愁とくたびれた色気をまとう佐藤昼寝と、愛らしさと寂しさを一つの身体に抱えた粟野日奈子。それぞれの心の揺れと距離が、観る者にもえも言われぬ焦燥感を掻き立てる。机に置かれているお揃いのマグカップは水族館とかで買ったものなのだろうか。そんなちょっとした小道具も効いている。南京豆NAMENAMEの描く同棲シーンはいつも生々しい。そんな二人の思いを知ってか知らぬか、のっけからパワフルに振る舞う市川賢太郎演じる堀川が、シーンの色調と湿度をガラリと変える。角度によって狂人のようにも、常識人のようにも見える謎の人物を鮮やかにものにしているのだ。登場して数秒で爆笑をさらう、市川のスタミナとひと匙の狂気。この奇妙な3人が物語の核心にどう絡んでいくのか、そこもまた見どころである。

シーンは打って変わって街中へ。ここにもまた暇を持て余した男女が二人。どこからどう見てもチンピラの男と、どこからどう見てもギャルの女・ひろこ(無田蓮琉)が徘徊している。人は見た目によらない、と言いたいところだが、そんなこともなく、二人は今日も今日とて悪事に手を染めようとしていた。親父狩りを企てる二人の前に現れたのは、洋服をズタズタに切り裂かれた男。余談だが、南京豆NAMENAMEの演劇には、よく切り裂かれたボロボロの衣裳が出てくる。前回公演同様、衣裳はメンバーのやぎそのの監修である。今回もなかなか類を見ない切り裂かれっぷりなので、ぜひチェックしてほしい。ちなみに、無田のギャル(いわゆるガングロ白メイクのギャルである)への解像度が実に高く、風貌はもちろん、ちょっとした仕草にもギャル魂が宿っていて清々しい。ここまでのギャルを演劇で見られることはそうないと思う。また、ギャル魂を持つギャルがただのギャルで終わるはずがなく、後半にかけてひろこは、自身すら思いもよらぬ才能と粋な心を発揮する。結構胸熱なシーンなので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

そんな半グレのチンピラとゴリゴリのギャルすら「目を合わせまい」とするほど、明らかに情緒がヤバそうなその男は、二人にこんな仕事を持ちかける。

「明日夜男女一人ずつ、三言ぐらい喋ってもらいますがそれ以外はただ突っ立っているだけでOKです」

切り裂かれたシャツをギリギリ身に纏った男の名前はキムピー(木村凜平)。キムピーのピーはプロデューサーのPだ。そう、キムピーはトラブル続きで精神が狂ってしまった舞台のプロデューサーで、前日に飛んでしまった俳優の代役を探しており、何を血迷ったのかチンピラとギャルをスカウトしたのである。「もうどうにもなれ!」という諦観と「どんな手を使ってでも幕を開けなければ!」という達観。その狭間を彷徨いながら、文字通りズタボロの風貌で奔走する木村の狂気じみた狼狽が本作の最初の笑いどころであることは言うまでもない。

そんなこんな、チンピラとギャルは縁もゆかりもない小劇場の楽屋に辿り着く。小劇場の楽屋は往々にして慌ただしいものだが、ここの楽屋は桁違いに慌ただしい。というか、カオスである。なにしろ、開幕してからトラブル続きで、喧嘩の末俳優が一人飛んでしまっているのだ。それだけでも状況はだいぶヤバイのだが、キャストがまた揃いも揃ってヤバすぎる。しかも、演目は「落ち武者軍団と薩摩藩が木星で戦ったりする幕末スペースオペラ」なのである。もうどこからツッこんだらいいのかわからないが、絶妙になさそうでありそうなところが河村節である。破茶滅茶にトリッキーでアウトローでありながら、ギリギリのリアリティを担保している。社会からはぐれた、しかしこの世界にたしかにいるかもしれない人々を主軸に置いた作劇。河村の描く劇世界はいつもそこに手を伸ばす。

さて、戻りたくないが、ヤバイ奴らでひしめき合う楽屋に戻ろう。

恋愛に節操がなく、そのくせ異常に骨が弱いクボダイ(奥泉)は大声を出す度に脱臼するし、そんな男の何がいいのかわからないが、「それが恋!」とばかりに最若手俳優のサワグチ(宮下真温)はクボダイに完全に入れ込んでしまっている。クボダイの軟弱さを強度の高い身体性で体現する奥泉と、恋に恋する女の盲目ぶりをフレッシュに彩る宮下。マジで楽屋にいてほしくない男女No.1すぎる。そんな目に余るイチャつきぶりをユーモアたっぷりに表現する二人に注目してほしい。

問題は、色恋沙汰だけではなかった。吐血するほど体調が悪いのに誰よりも高圧的で、俳優魂を間違った方向にインストールしてしまっているミヤケ(三島渓)は常時目がイっているし(目というか、これはもう眼の芝居。凄まじい)、座組の唯一の良心とされているアミリ(早舩聖)だって、本心では何を思っているのかわからない。そんな腹の内が見えぬ人間の独特の怖さを、早舩が表情や声色のギアを瞬時に変え、細やかに表出する。二人のベクトルの異なる狂気が楽屋の空気を色んな意味で掻き乱すのだ。

そんなヤバイ布陣でヒロインを務めるのが、かつてはご当地アイドルとして活動していたなちょ(夏アンナ)である。帽子を目深に被り、「おはようございます」と楽屋入りする様子からして元アイドルっぽさが滲み出ている。「こんなはずじゃなかったのに」「私は人とは違う」。そんな心の声が思わず聞こえてきそうな、冷たく湿った眼差し。心の弱さとプライドの高さ。座組の中で最も鬱屈とした感情を抱えるなちょを説得力抜群に演じながら、時に大胆にコメディエンヌっぷりを発揮する夏アンナが頼もしい。

そんななちょの姿を見るなり、チンピラは唖然とする。

「なちょ…」

そう、チンピラの名はでんすけ(河西凜)。彼がまだ地元に暮らすガリ勉学生だった頃、テレビCMを見て一目で恋に落ちた“推し”こそが、誰でもない、なちょだったのだ。ここで言及したいのが、河西の瞳の変幻である。ついさっきまで闇バイトでヘマをして真っ先に指を詰められそうだったチンピラのでんすけに、かつての少年時代の推しへの熱烈な恋心が蘇る。そこからの河西の瞳はまさに純度200%そのもの。一体彼の過去に何があったのか。そんな興味をそそられるシーンである。そうして、演劇に微塵の関心もなかったはずの現役チンピラのでんすけは、なちょとの望外の再会に感動し、数々の闇バイトや兄貴分からの鬼電を片っ端からバックれ、無茶振りも無茶振りの代役を引き受ける。そこから千秋楽を迎えるその日まで、ヤバすぎる座組の戦いが、「Show must go on?」への道程が続くのだ。

さて、ここまで読んだところで気になるのが、マンションの一室で慎ましく暮らす二人のカップルとこのイカれた楽屋との関係だろう。しかし、その全貌をここで明かすことは控えておきたい。そこにこの作品の一つの山場があるからである。一つ言うのであれば、そこには楽屋とマンションの一室を、舞台と客席を接続する「何か」がある。誰か一人でも欠けてはShowがmust go onされないことと同じように、誰か一人の不在によって、Life もまたmust go onが難しくなる。舞台と客席、俳優と観客、虚構と現実を横断して、人々はのっぴきならない問題を抱え、噛み合わない会話とすれ違う心に悪戦苦闘しながら今を生きているのだから。

「Show must go on」とはよく聞くけれど、これはまだどこにもなかった、本当は今すぐここから逃げ出してしまいたい人たちによる、疑問と葛藤だらけの、「Show must go on?」の物語だ。そして、日常という舞台で生きていかねばならない人々による、ねじれにねじれた「Life must go on」の物語なのかもしれない。(上演時間:100分)

取材・文/丘田ミイ子

舞台写真・宣伝美術/小林未和(ターリーズ)

<公演情報>

南京豆NAMENAME『ツイスト・アンド・対話』

5月27日(水) 19:30
5月28日(木) 19:30
5月29日(金) 14:00/19:30
5月30日(土) 14:00/18:30
5月31日(日) 13:00/17:00

会場:シアター風姿花伝

チケット:https://ticket.corich.jp/apply/448634/

公式サイト:https://nanjingname2.wixsite.com/nanjingmamenamename/blank

作・演出:河村慎也

出演:粟野日奈子、市川賢太郎、奥泉、河西凜、木村凜平、佐藤昼寝、夏アンナ、早舩聖 、三島渓 、宮下真温、無田蓮琉
舞台監督:新谷太
舞台美術:小林裕介(たまに猫が寝ている工房)
照明:中西美樹
音響:おにぎり海人(かまどキッチン)
音響操作:星野亜美
衣装:やぎその(南京豆 NAMENAME)
演出助手:市村すばる、森琴音
制作:池田智哉(24/7lavo/feblabo)、やぎその(南京豆 NAMENAME)
制作補佐:平生愛果(南京豆NAMENAME)、丸橋ぱちこ(南京豆NAMENAME)
宣伝美術:小林未和(ターリーズ)
助成:アーツカウンシル東京【東京ライブ・ステージ応援助成】

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