グランパと赤い塔 公演情報 青☆組「グランパと赤い塔」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    昭和がこんなにも懐かしく感じられるのはなぜだろう。
    ただの“あの頃はよかった”的なノスタルジーではない。
    “ものづくり”の精神や、他者を敬う気持ちなど、
    現代の日本人が忘れてしまった価値観が息づいているからに他ならない。
    吉田小夏さんは“今となっては古風な価値観”を登場人物に体現させるのが抜群に上手い。
    たぶん人の「品性」というものをとても大切にされているからだと思う。


    ネタバレBOX

    昭和44年7月、これから取り壊されようとしている古い家に家族が集まって来る。
    中学生のともえ(今泉舞)はグランパからもらった望遠鏡をのぞいて懐かしむ。
    その様子を今は亡きグランパ、祖母、鼓太爺が見守っている。
    想いは東京タワーがまだ建設中だったころ、昭和33年へとさかのぼっていく…。

    戦前から続く工業所を営む一家を舞台にした群像劇。
    女中・和子役の大西玲子さんが、出入りする大勢の人々をまとめるような
    どっしりとした安定感で素晴らしい。
    主に良く仕え日々を切り盛りする女中に相応しいたたずまいが作品全体の要のよう。

    理想に燃えて戦後復興を支える事業に取り組む夫を、妻として支える
    祖母役の福寿奈央さんがまた凛として実に良いキャラ。
    出来過ぎでなく、酒が入ると“失くしたものの話をしたがる”一面も持ち
    立体的な人物造形が魅力的。
    妻も夫もそれぞれの立場から若い人達を指導し、育てる気風が感じられ
    そういう自覚があの頃の日本を創っていたのだと感じさせる。

    戦地から戻った息子とその妻のぎくしゃくした関係や
    新人女中と技術者の恋なども、復興一色の社会とはいえ
    戦争の傷跡が色濃く残っていた時代の影の部分を感じさせる。

    小瀧万梨子さんの艶やかさがひときわ鮮やかで、強烈な印象を残す。
    派手な服装とは裏腹に、従軍看護婦として満州へ行った経験があり、
    男女問わずひとの心をほどくような包容力を持つ女。
    タンゴを踊るところがとても素敵だった。

    若干「星の結び目」を思い起こさせる既視感があったかな。
    冒頭でボロ泣きしたあの作品が強烈だったのでつい比較してしまった。

    今の時代、あんな風に互いを高め合いながら働く人々がどれほどいるだろうか。
    人も社会も、多くを持たないけれどちゃんと誰かが見ていてくれていた時代。
    東京タワーは、その象徴として屹立している。










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    2017/11/20 01:47

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