みごとな女 公演情報 SPIRAL MOON「みごとな女」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     必見! 花5つ☆。もう流石というしかない。いつもスパイラルムーンの芝居の素晴らしさには感心させられるのだが、常打ち小屋でない為、多くの苦労があったハズであるにも関わらず、脚本の良さを実に深く読み込んで細かい点にまで配慮の行き届いた演出は流石である。
     キャスティングも良い。何より、こういう演目を選んでくる所に鑑識眼の確かさを感じる。久しぶりに上品な日本語の対話を楽しんだ。(追記2017.11.12)

    ネタバレBOX

     森本 薫22歳時の作品、1934年作だ。約60分と尺は短いが、実に濃密でスリリング、而も品のある作品である。伏線の敷き方が尋常ではない。高学歴女子の常として、炊事、洗濯、掃除等が苦手という理屈が通る現代とは異なり、大正ロマンティシズムやリベラリズムの残滓が残るとはいえ、まだまだ、女子は結婚して、子供を産み育てるのが当たり前とされていた時代、理化学研究所に入ろうとしていた研究者肌のあさ子、24歳(当時のことだからかずえだろう。現在なら23歳である)にもなって、結婚よりは、研究! に情熱を燃やすあさ子の縁談を考えてやらなければと思っている母、真紀。あさ子の幼馴染の文学青年、収。そして、あさ子の友人の兄で医者の弘。これが、前提である。
     さて、あさ子は、天真爛漫、だが恋愛を考えない訳ではない証拠に、理研への就職を母の反対で諦めて以降、娘の嗜みとして覚えておかねばならぬ裁縫、ピアノなどの他できれば華道、茶道といった習い事に精を出さねばいならないのに、人形を作ってその人形に着せる着物ばかり縫っている。おまけに袂を縫わせれば、袖口迄縫ってしまうというような、可愛らしい失敗をする。それを咎められると、ちょっと気の利いた返答をすかさず切り替えしてくるので、中々一般常識と捉えられていることも押し付けることができない。
     そんなあさ子に好意を持っている収は、どうしても好意を行動に変えることができない受け身の青年である。而も潰しの利かない文学青年だ。そんな収の心を読み取って、真紀は、彼に尋ねる。他の人を彼女に娶せて良いか否かを。収は、この時点でも行動に移すことができなかった。真紀は、十程年嵩だが、中々の好青年である弘とあさ子を娶せることにした。
     結果、弘が訪ねてくる。あさ子と真紀が席を外している隙に弘と収の間で、あさ子を娶るのがどちらかについての談義が交わされるのだが、この静かだが、緊迫そのものの対話が凄い。人間存在の総てと誇りを掛けて話された内容については、紳士協定として守ることを互いに誓うのだが、この道程が、実に見事で品のある日本語でその本質であるギリギリの折衝を包んでいる為に、紳士協定であることが納得されるという形で観客に伝わるのだ。更に結婚の話が纏まった後、あさ子の揺れる娘心が表現されている点も見逃せない。

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    2017/11/10 23:19

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  • 追記しました

    2017/11/12 16:18

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