『ラクゴ萌エ』 公演情報 ラチェットレンチ「『ラクゴ萌エ』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     落語は、無論滑稽をその情趣とするが、人情ものの作品数も極めて多く、作品数からいうと滑稽譚に次ぐ位置を占める。

    ネタバレBOX

    所謂古典落語の世界を成立させた社会というのは、近代以前から国民国家を形成しようとした時期に当たる。この間、為政者同士の争闘も紛争の様相を呈したことは誰でも知っていよう。幕藩体制から大政奉還を経て廃藩置県と言う名の行政単位に移行する中で、我々は初めて国家意識を強要されるに至った。これは、我々より早く国民国家を作り上げ、世界中を植民地化していった欧米列強が一足先に歩んできた道である。遅れた我々は、その劣勢の総てを甘んじて受容すべく、教育によって洗脳され、天皇を頂点とする忠君愛国の滅私奉公に駆り出されることとなった。当然、私権は制御され、理不尽は民衆に押し付けられた。そんな状況の中で警察権力が肥大し、軍部が跋扈する時代が長く続いたのは周知の事実である。そんなガンジガラメの只中で庶民がホッと息継ぎすることができたのが、シャレノメスことと人間らしさを保つ人情の機微に訴える手法であったに違いない。落語の発達と隆盛は以上のような条件下での文化的必然であったと看做すことができる。
     今作は現在の日本で起こっている落語の再燃現象を意識しつつ、落語の二大本質の一つ人情噺に重点を置いて作られている。古典落語も新作落語も登場するし、所謂腐女子御用達の二次元キャラの影響力なども加味されつつ、多様な次元、多様な局面を上下二つの高座を利用し、下段に於いては科白の入った演技が、上段に於いてはやや昏い照明の中で身体のみの演技が同時に為され、その様たるや恰も子を案じる親やその霊が、頻りに背後や草葉の陰から応援しているような風情を醸し出し見事なメタ構造で深い人情を表している。
     脚本の良さは、作家の落語に対する本質的で深い理解を前提とし、その上で現在の我々の心の襞に過不足なくフィットする作りになっており、舞台構造は、この微妙なバランスを表現するに適した合理的な作りである。演出の細かな摺り合せと大胆で細心の指示、これら総てを背負い演じる役者達の演技。殊に主要な配役を務める役者達の演技が良い。華子の初々しさ、だん次の師匠らしさと人情表現の素晴らしさ、素めんの婿入りでもしたような弱い立場の表現、そして、開演前に噺をしてくれる作家の落語の上手さ等々。惜しむらくはせん華役、落語を演じる時だけは、もう少し天才の持つ狂気を出しても良いように思ったが。

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    2017/04/16 14:12

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