ことほぐ 公演情報 intro「ことほぐ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    北国のダークホース
     わたしにとってまったく未知の、名前すら聞いたことのない劇団だったintro。今回のCoRich舞台芸術まつり!のダークホース的存在。「ロストジェネレーション」問題が勃発して久しい、もはや貧しさがデフォルトになった現代的な町の片隅を舞台に、異なる価値観をぶつかり合わせながら、女が(人が)この先ゆき不透明な時代をどのように生きていくかを描いた物語。
     キャラクターとそのバックボーンがやや類型的に描かれすぎていると感じるところもあった。しかし貧しさの中にもささやかな幸福を追求しようとする人々への温かな眼差しには、同時代を生きる人間としてシンパシーを感じます。特に、北海道の盆踊りの特徴であるらしい「子供の部/大人の部」という二部構成をモチーフにした物語の構造は秀逸(だからこそディテイルはもっと冒険していい気もする……)。そして簡単に物語を投げてしまわない粘り腰がある。なるほど妊娠というのは、2つの生命体が特別な共存関係を持ちうる特殊な時間であり、にも関わらず、結局は人間はひとりなのだあ、と感じさせるものがあった。そのことはむしろ希望であり、清々しいもののように思えます。イトウワカナ(作・演出)の別の作品もまた観てみたい。『ことほぐ』は東京でも上演されるそうです(2012年9月@こまばアゴラ劇場)。
     ただ、序盤の時間があまりスリリングではなく、しばしば入るツッコミもグルーヴを損なっていたと思う。もっとアブストラクトでシュールな不条理劇に接近してみるとかいう方法もあるのかも。余談ながら、まだ全貌を把握しているわけではないので断言はできないのだが、地方演劇の弱さのひとつは、そうした抽象性への耐性が弱いところにあるのかもしれない。よく「分かりやすくしないとお客さんに通じない」と地方の演劇関係者が口にしているのを耳にするのですが、しかし、それは本当にそうだろうか? 観客のポテンシャルをもっと信じていいのではないか? 意外と大丈夫、という手応えを感じる実例に接することが、増えてきているので。(以下、ネタバレボックスに続く)

    ネタバレBOX

     演劇のガジェットのひとつに「ちゃぶ台」がある。生活感も表現できるし、空間的にも(サザエさん的な)求心力をつくることができる。しかしこの『ことほぐ』ではおそらくわざとちゃぶ台を登場させていないのだと思う。安易に道具に頼らないそのこだわりはなんか、いいことのような気がした。
     3人の良き理解者にも思えた隣家の貧乏青年(今回の座組に単身大阪から参加した俳優・加藤智之が好演していた)が、突如裏切って妊婦たちを罵り始めてどんづまりになったところで、炊飯器の炊けた音がチャララーと鳴るシーンも印象に残った。善や悪、敵や味方といった区分けがすべて無効化されるような静けさがあり、あの時間がずっと続いてもいいなと思った。ラスト、力強く鳴り響く太鼓の生音がGood。

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    2012/06/10 16:54

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